2021 Fiscal Year Research-status Report
新規治療開発を目指した血液透析患者の痒み発症機序の解明-頭蓋内圧と髄液中BNP
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17K09039
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
清水 芳男 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (50359577)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 未来美 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 博士研究員 (70625855) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 痒み / 頭蓋内圧 / B型ナトリウム利尿ペプチド / 血液透析 / 光干渉断層計 |
Outline of Annual Research Achievements |
B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が起痒物質であるという報告を受け、透析患者において、痒みの程度と血中BNP濃度の間には関連があることを報告した。一方、血中濃度と痒みの程度に乖離が存在する症例も少くないことが指摘された。髄液中にBNPを投与すると痒みが誘発されることから、頭蓋内圧が上昇時に髄液中BNPが増加するとの仮説を考案した。頭蓋内圧の非侵襲的な頭蓋内圧測定法は標準化されたものが存在しない。我々は超音波断層診断法による視神経鞘厚(RNFL)測定が救急領域などでおこなわれていることから本法を採用しようとしたが、眼に対して使用が可能な機種が限られていること、測定者によるばらつきが無視できないことから、他の方法として眼科の網膜疾患の精査に用いられる光干渉断層計にてRNFLを測定する方法を採用した。 申請者の勤務する施設に通・入院する維持血液透析患者33名(平均年齢69.3歳)に対し、痒み(VAS)およびQOL(DLQI)を評価し、光干渉断層計により頭蓋内圧に関連する視神経線維層(RNFL)厚などの視神経乳頭周囲のパラメーター(RNFL、リム面積、カップ体積など)との相関を解析した。 透析前VASと視神経乳頭のリム面積、DLQIとリム面積およびカップ体積間にそれぞれ有意な相関がみられた。VASとRNFL厚との間には弱い相関、透析直後のVASと翌日のリム面積の間には有意な相関が認められた。また、透析前のリム面積とQOLスコアのDLQIには有意な負の相関がみられ、透析前カップ体積とDLQIには有意な正の相関がみとめられた。 頭蓋内圧が上昇すると、RNFL厚は増加、リム面積は減少、カップ体積は増加すると考えられる。RNFL厚対リム面積およびカップ体積にはそれぞれ有意な負・正の相関があり、頭蓋内圧を示すより鋭敏な指標であり、頭蓋内圧と透析患者の痒みには関連があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請者の施設における腎臓内科、血液浄化センター、眼科、病棟スタッフの協力により、透析患者の痒み評価(VAS)、QOL評価(DLQI)、血中パラメーター測定、光干渉断層計による網膜、視神経周囲の評価は、患者登録を行えれば、一定のペースにてデータを収集することが可能な仕組みは構築されている。一方、当該施設のおかれた下記の事情によって、研究が遅れた。 ①COVID-19、SARS-Cov2による入院および院内複数施設での診察・治療制限:申請者の所属施設は、静岡県東部の基幹病院であり、COVID-19およびSARS-Cov2患者を受け入れ、ワクチン接種も行っている。一方、心臓、脳疾患、外傷などの3次救急施設でもあり、重症者が多く搬送されてくる。院内の感染対策は、以前クラスターが発生したこともあり、厳格に行われているが、緊急入院患者において入院時にPCR検査が陰性であっても、数日後に陽性化するなどのケースも頻発しており、入院制限や院内の複数の病棟・検査室への移動の制限などがあり、予定の症例数に達していない。 ②高齢化にともなう日常生活動作(ADL)低下、認知障害による登録困難:前述のように、申請者の施設へ通院する者は、様々な理由により近隣の透析施設への通院が困難な少数の患者である。また、入院患者は糖尿病性腎臓病を筆頭とする腎疾患により末期腎不全に至った血液透析導入期の患者と長期に渉り維持血液透析が行われ、心、脳、整形外科的な長期合併症やCOVID-19をはじめとする重症感染症の患者多い。これまでエントリーした患者の平均年齢は、全国平均とほぼ同様であるが、自力歩行が可能な患者は半数程度である。また、認知機能が低下しているため、研究に対する同意や、VASやDLQIなどのアンケートや自発的なシート記入が困難な方が多く、倫理的、科学的に妥当である研究を行えなくなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
データ集積に関する仕組みは構築されているため、現在直面する本研究の問題点は、登録患者数を増加させることである。前述の研究が「やや遅れている」理由の①、②に対しての対応を行う必要がある。 ①COVID-19、SARS-Cov2による病棟や治療施設の閉鎖や使用制限に関しては、現在緩和されつつあるが、オミクロン株がまん延してからは、毎日一定数の受診者・入院者が発生しているため、これまで以上に感染対策を徹底するしか方策はないと思われる。他施設から転院してくる透析患者については、日常診療を行っている透析施設との連絡を密に行い、転院前の感染チェックをお願いする。また、ルーチンで行われているが、入院時の迅速診断およびPCRを徹底し水際で感染者の一般病床、血液浄化センターへの入室を抑える。申請者の所属する診療科だけでなく、他科の診察を経て入院する患者に対しても同様の配慮を行う。 ②ADL、認知機能障害については、研究の内容を理解し、同意が得られない場合は、エントリーを行うことが出来ない。一方、歩行障害など移動制限が主な障害であり、研究の同意と参加が可能な場合は、車いす移動などのサポートを病棟でお願いしている。また、ADLの向上は、維持透析の継続に必須であり、リハビリテーション科と共同で積極的にリハビリテーションを行っている。視力障害などの場合は、アンケートによる質問を読み上げたり、ベッドサイドの照度を工夫したりしてデータを収録するようにしている。痒みの評価A(VAS)は、一連で3回(透析前、後、翌日)行う必要があるが、VAS試験紙を渡して、任意で記入させることはせず、その都度訪室して、痒みの評価を行っている。この研究は、腎臓内科・眼科・リハビリテーション科・血液浄化センター・看護部の共同研究であり、連携をより深めて、研究参加者を増加させたい。
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Causes of Carryover |
頭蓋内圧≒脳脊髄液の圧であり、上昇した頭蓋内圧を低下させるために起痒物質のB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が髄液中に産生され、痒みが増強する仮説を基に、血液透析患者の痒みと頭蓋内圧の関係について研究を進めてきた。当初はHeadSenceというイスラエル製の音響を用いた頭蓋内圧測定器を導入予定であったが、研究開始直後に不正確であるとの論文が出て使用できず、非侵襲的な頭蓋内圧測定法を選定するのに時間を要した。視神経鞘厚は、複数の論文が出ている非侵襲的な測定法であるが、超音波断層診断装置を眼に使用する危険性があり、施行できなかった。ようやく眼科医師のサポートを得てOCT(光干渉計)による視神経周囲のパラメーターとかゆみ、QOLスコアとの関連が2021年度に出たことにより、一定の成果が得られる見込みとなった。COVID-19や高齢患者増加などの諸要因によって被験者数を増やすことが難しい状況が続いたため、もう1年の延長をお認めいただけたことから、この期間にできるだけ被験者数を増やしたいと考えている。 現状は、ほとんど必要物品は購入済であり、最終的に成果発表に要する英文添削料や投稿料のために科研費を残している。論文投稿をもって、いただいた科研費をすべて費消し、本研究を一旦完結させる予定である。
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