2017 Fiscal Year Research-status Report
治療薬耐性カンピロバクターの実態解明:家畜農場~食卓および疾患までの横断的解析
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17K09160
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤本 秀士 九州大学, 医学研究院, 教授 (30199369)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 食品衛生 / カンピロバクター / 薬剤耐性 / ワンヘルス / エリスロマイシン耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,グローバルな課題の一つである薬剤耐性カンピロバクターについて,本菌感染症に対する治療薬に耐性を示す菌株(治療薬耐性菌株)の人への伝播に関する科学的データを得るため,食肉の流通エリア内において,患者および家畜・食肉から治療薬耐性菌株を収集し,薬剤耐性情報・ゲノム情報を調べることで,家畜農場~食卓および疾患までの治療上問題となる耐性菌の分布・発生状況や耐性の状況,遺伝的背景をゲノムレベルで調査することを目的としている. 平成29年度は,上記の目的達成に必要な治療薬耐性カンピロバクター菌株に対する選択分離培地を検討した.培地開発のために必要なリファレンス菌株として,研究協力機関より,福岡地区での食肉の流通エリア内での市販食肉および患者に由来する検体から分離された菌株のうち,本菌感染症治療薬であるエリスロマイシンに対する最小発育阻止濃度(MIC: minimum inhibitory concentration)が0.25μg/~512μg/mlの菌株の供与を受けた.これらの菌株を使用して,低濃度MICの菌株の発育を抑制して本研究で目的とする菌株のみを選択的に分離可能な培地を検討した. ヒツジ赤血球を5%の割合で加えた寒天平板培地上に滅菌蒸留水に溶解したエリスロマイシンを塗布した後,4℃で一晩保存して薬剤を浸透させる方法で,異なる薬剤濃度の培地を試作した.異なるMICの菌株を滅菌生理食塩水で菌液とし,同じ濃度(濁度で判定)になるように調整した.作製した寒天平板培地をそれぞれ分画し,各分画に異なるMICの菌株液を同じ量で接種した後,微好気培養を3日間行って各培地における各菌株の発育を培地毎および菌株毎に比較した. その結果,低濃度MICの菌株では発育が抑制され,かつ,本研究で目的とする菌株は発育が可能な選択分離培地の組成を得ることが出来た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では,本研究で目的とする菌株のみを選択的に分離可能な培地の検討を平成29年度の前半で済ませ,その結果に基づいて選択分離培地を作製して同年度の後半には菌株の収集を開始することにしていた. しかしながら,培地の検討が長引いたことから,菌株収集を平成30年度に延期せざるを得なかった.
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Strategy for Future Research Activity |
1.従来用いられているカンピロバクター選択分離培地(カンピロバクター菌種の選択)に平成29年度の研究成果に基づく組成を加えて,治療薬耐性カンピロバクター菌株収集用の選択分離培地を作製し,リファレンス菌株およびカンピロバクター以外の菌種を用いて、選択効果を確認する. 2.福岡地区でのカンピロバクター腸炎・食中毒の患者由来の分離菌株について,治療薬耐性カンピロバクター分離培地に接種して微好気培養したのち,発育の有無を確認し,陽性率を検証する. また,発育してきた菌株について,薬剤耐性を調べ,耐性の程度を明らかにする. 3.福岡地区での食肉の流通エリア内で,家畜・家禽,市販食肉等に由来する菌株について,治療薬耐性カンピロバクター分離培地に接種して微好気培養したのち,発育してくる集落を純培養し.PCRで菌種を確認するとともに薬剤耐性を調べ,付帯情報(分離年月日,場所)とともに収集する. 4.上記の各カンピロバクター菌株の菌株識別情報として,カンピロバクターの鞭毛遺伝子(fla A)による型別,ゲノム情報を基にした菌株型別法であるMulti Locus Sequence Typing (MLST)等を行い,菌株付帯情報と融合して,ワンヘルス・データベースを構築する. 5.ワンヘルス・データベースの解析により,家畜・食肉,患者の各分離菌株グループ内における薬剤耐性動向などの傾向を解析するとともに,グループ間における相違を検証する.MLST解析ではWebデータベースにより,他の地域との相違を解析する.各菌株の薬剤耐性情報,fla A型別,MLST等をグループ横断的に比較・解析し,人および動物・食肉分離菌株で同一プロファイルのものが無いかなど,グループ菌株間の相関関係を調査する.
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Causes of Carryover |
当初の計画では,本研究で目的とする菌株のみを選択的に分離可能な培地の検討を平成29年度の前半で済ませ,その結果に基づいて選択分離培地を作製して同年度の後半には菌株の収集を開始することにしていた. しかしながら,培地の検討が長引いたことから,菌株収集を平成30年度に延期せざるを得なかった.そのため,平成29年度に予定していた物品費・その他の支出が少なく,次年度使用額が生じた.
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