2017 Fiscal Year Research-status Report
麻疹ワクチン誘導免疫が成人の麻疹発症と水平伝播に与える免疫学的影響に関する研究
Project/Area Number |
17K09223
|
Research Institution | Osaka Institute of Public Health |
Principal Investigator |
倉田 貴子 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所, 微生物部, 主任研究員 (70435890)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上林 大起 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所, 微生物部, 研究員 (50622560)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 麻しんウイルス / ワクチン誘導免疫 / サイトカイン |
Outline of Annual Research Achievements |
ワクチンの恩恵により我が国はWHOから麻疹排除国と認定されたが、海外の流行国からの「輸入麻疹」を契機とする国内でのアウトブレイクの発生が後を絶たない。これまでは麻疹患者の殆どがワクチン未接種者であったが、近年のアウトブレイクは、ワクチン接種歴を有する患者の割合が増加している。本研究では、ワクチン接種歴を有するにもかかわらず麻疹を発症した患者における「発症は許容するが、感染伝播を防ぐ」免疫の質を明らかにすることを目的とする。近年、免疫の質を末梢血の各種サイトカインをプロファイルすることで推定できるようになってきた。本年度は、麻疹患者の血中で上昇するサイトカインを検討するために、ワクチン接種歴が異なる麻疹患者血清26検体について12項目のサイトカイン(TNF-α、IFN-γ、IL-2、-4、-5、-9、-10、-17A、-21、-28A、-29、TGF-β)について測定し、患者のワクチン接種歴、発症後検体採取までの日数、性別、年齢との相関を検討した。測定の結果、IL-4、IFN-γ、IL-10、IL-29、TGF-β、IL-17Aが高頻度に検出され、IL-5は全ての検体において陽性となった。中でも、2回のワクチン接種歴があるとIL-10が低下する傾向をみとめ、麻疹ウイルス感染が誘導する免疫抑制を獲得免疫が防御するメカニズムの一端が示唆された。本研究のアプローチが感染とその制御にかかる免疫動態を解析するアプローチとして有用であると期待される知見である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は麻疹患者の血中で上昇するサイトカインを検討するために、核酸診断陽性であった麻疹患者血清26検体について、12項目のサイトカイン(TNF-α、IFN-γ、IL-2、-4、-5、-9、-10、-17A、-21、-28A、-29、TGF-β)についてサイトカインアレイ及びELISAを用いて測定し、患者のワクチン接種歴、性別、年齢との相関を検討した。患者年齢は中央値24.5歳(範囲0-32)で、男女比は1:1.9、ワクチン接種歴は2回が9名、1回が6名、0回または不明が11名であった。測定の結果、26検体中、IL-28Aは全く検出されなかったが、IL-9、IL-21、IL-2、TNF-αは一部の検体で出された。これらは基準値に比して有意な上昇は見られなかった。一方、IL-4は50%、IFN-γは53.4%、IL-10は65.4%、TGF-βは92.3%の検体から検出され、IL-29、IL-5、IL-17Aは全ての検体から検出された。検出頻度が高かった項目のうち、IL-4、IFN-γ、IL-10、TGF-βの平均値はそれぞれの既知の標準値より高かった。IL-29及びIL-17Aは標準値不明であったが、IL-29は平均9.5x103pg/mL、IL-17Aは平均1.5pg/mLであった。IL-5は平均7.2±0.4pg/mL (標準値4.0pg/mL未満)で全ての検体において安定的に検出された。患者の臨床情報と測定値の間に統計学的に有意な相関は認めなかった。しかし、IL-10においてはワクチン接種歴0、1回群に対し、2回接種群はIL-10が低下する傾向をみとめ(Mann-Whitney U-test P=0.65)、麻疹ウイルス感染と免疫抑制に関する反応に関連がある可能性がある。症例数を増やし、適切な対照を設定することにより確度の高い情報が得られる可能性が示唆された。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、検出頻度が高かった細胞性免疫及び免疫抑制に関わるサイトカイン群(特にIFN-γ、IL-10、TGF-β、IL-29)及びIL-5を中心に、パイロット研究よりも症例数を増やすとともに、健常人コントロール群、麻疹以外の発疹性疾患群を対象として解析を行い、麻疹患者に特異的なサイトカイン・免疫反応の動向について調査する。また、血清における麻疹特異的抗体価及びavidity、麻疹ウイルスに対する中和抗体を測定し、臨床症状と合わせて解析行い、特異的な液性防御免疫の存在が感染後に引き起こされる全身的な免疫制御に及ぼす影響を解析する。
|
Causes of Carryover |
計画段階で検討していたサイトカインの測定を、実験結果から考慮して延期したため、測定費用に見積もっていた経費が繰越となった。次年度以降、サイトカイン測定を行う際に、予算を使用する予定である。
|