2018 Fiscal Year Research-status Report
Development of the forensic methylation panel to estimate the physical stress, age and body fluid type
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17K09281
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
橋谷田 真樹 関西医科大学, 医学部, 准教授 (40374938)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | メチル化解析 / 年齢推定 / ストレスマーカー / 心臓突然死 |
Outline of Annual Research Achievements |
30年度は前年度に引き続き,DNAのメチル化を指標とした年齢推定の検証実験を中心として実験を行なった.現場に残された試料,もしくは身元不明遺体の試料からその由来となる人物の年齢を推定することができれば,それは法医実務上極めて有力な情報となる.我々は昨年度までに報告した,年齢推定に有効である3遺伝子(C1orf132, CCDC102B, ELOVL2)に新たにKLF14, F5,ASPA,PDE4Cの4遺伝子を加えて,推定の精度向上を図った.今年度の試料は,剖検で得られた0歳代から80歳代までの77検体であり,DNAを抽出後,バイサルファイト処理することでメチル化されたシトシンと非メチル化の差別化を行い,次世代シークエンサーIon PGM System(Thermo Fisher Scientific)を用いてシークエンスを行なった.得られたシークエンス結果から各CpG部位におけるメチル化率を算出し,回帰分析にてメチル化率と実年齢の相関関係を,さらに選択された複数のメチル化部位による重回帰分析によって推定年齢を検討した.新たに加えた4遺伝子にはそれぞれ2から16のメチル化部位があり,回帰分析によるメチル化率と実年齢の相関関係を見たところ,各部位において修正済決定係数(adjR2)はかなりの幅を持って観察された.そのため,決定係数が0.5以上の高い相関を持つ部位を選択し,実年齢と推定年齢の相関関係を検討することとした.その結果,昨年度報告した3遺伝子の解析では12箇所のメチル化部位の解析結果から修正済決定係数0.925が得られていたが,今回の4遺伝子4メチル化部位の情報を加えることで修正済決定係数は0.949(標準偏差6.04)とより正確な推定が可能となった.最終的に7遺伝子,16箇所のメチル化率により,推定年齢と実年齢のズレは約±6歳程度にまで収められた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画当初はラットを用いた動物実験を行い,飲酒と身体的ストレスが及ぼす遺伝子のメチル化率の変化を観察し,ストレスマーカーの探索を行う予定であった.しかしながら,ターゲットとする遺伝子マーカーが不明のため,ホールゲノムによる解析が必要となる.それにはより高出力な次世代シークエンサーが必要となることから,業務委託するか機器を借りるかしなければならない.その準備に時間を要したため,ストレスマーカーの探索より先にメチル化率を指標とした年齢推定の実証実験を先に行った.実用化の可能性およびその効果を考慮しても年齢推定の方が先に行う方がよいと考えたのである.これまでの実験結果で,メチル化を指標としたDNAからの年齢推定は,7遺伝子(C1orf132, CCDC102B, ELOVL2, KLF14, F5,ASPA,PDE4C)における16カ所のメチル化部位のメチル化率を観測することで推定年齢と実年齢の誤差は約±6歳程度にまで収めることが可能となった.そのためメチル化を指標とした年齢推定実験はここで一区切りとすることができ,次のステップであるストレスマーカーの探索と体液痕の同定実験へと進むことができることから,本実験は順調に進展していると言うことができる.
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Strategy for Future Research Activity |
当初はラットを用いた動物実験を行い,飲酒と身体的ストレスが及ぼす遺伝子のメチル化率の変化を観察し,ストレスマーカーとしての発見,確立を行う予定であった.しかし,同じストレスマーカーの探索でも,飲酒および身体的ストレスよりも,突然死例における心筋に関するストレスマーカーを探索することの方がより重要であると考えたことから,動物実験を取りやめることにした.従って本年度は,乳幼児,および若年における心臓関連突然死例の心筋を試料としてメチル化率の解析を行い,突然死例心筋におけるストレスマーカーの探索を行うこととする.これもマーカーが確立されていないことから,最初はホールゲノムレベルでのメチル化解析が必要となる.本学にはそのような高出力の機器はないことから,数例を外注し解析する予定である.具体的には,全ゲノムレベルで850万を超えるメチル化部位の解析を,心臓関連突然死数例とコントロールとして他の死因例で行い,メチル化率を比較解析し,候補遺伝子を探すことにする.候補遺伝子が確立された後は,それら遺伝子群をターゲットとして例数を増やし,死因究明の一助となるメチル化解析方法を確立する.さらに,次年度は最終年度であることから,遺伝子のメチル化率を指標とした体液の同定解析も行う予定である.これは過去の報告例に従ってターゲット遺伝子の解析を行い,メチル化率を指標として体液の同定が可能か否かの検証実験となる.これまでのメチル化率を指標とした年齢推定,および体液の同定に関する報告は,いずれも日本人以外を対象としており,さらに生体試料を用いていることから,日本人でも同様な結果が得られるのか,また死因の違いによっても影響を受けるのかなどの点に注目して解析を行いたい.
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Causes of Carryover |
当初の計画ではラットを用いた動物実験を行い,メチル化率を指標とした飲酒・身体的ストレスマーカーの探索を行う予定であった.しかし,より実務面への応用効果が大きいメチル化率を指標とした心臓関連突然死に関するストレスマーカーの探索へと方向転換することとした.そのためには本学で所有している機器より高性能なものが必要となるため,外注してホールゲノムレベルでの解析が必要となり,研究計画に若干の変更があったため次年度使用額が発生したのである.31年度はホールゲノムレベル解析で得られた情報を元に,遺伝子のターゲットを絞りメチル化解析を行うため,使用額を抑えることができる.また,体液痕の同定実験もすでにターゲット遺伝子が確定しており,合わせて予算の範囲内での研究が可能である.
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