2018 Fiscal Year Research-status Report
インスリン分泌不全および抵抗性が膵発癌・進展機構に与える影響の解明
Project/Area Number |
17K09461
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
重川 稔 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (00625436)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小玉 尚宏 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (10623275)
巽 智秀 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (20397699)
疋田 隼人 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (20623044)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 膵癌 / 糖尿病 |
Outline of Annual Research Achievements |
膵癌のリスクファクターとして糖尿病は広く認知されているが、そのメカニズムについては詳細な検討がなされていない。本研究では、糖尿病におけるインスリン分泌低下、インスリン抵抗性(高インスリン状態)、高血糖状態が膵癌前癌病変であるPanINsの形成や腫瘍増殖、進展に与える影響の解析を行い、糖尿病のどの側面が膵発癌のリスクとなるのかを解明することを目的とした。 平成29年度には、当研究室で保有するKras点変異を胎生期から発現するKrasLSL-G12D/+-Pdx1Creマウスに対してストレプトゾトシン(以下STZ)を投与し、低インスリン状態、高血糖状態を誘発し膵前癌病変が進展することを確認した。また、膵発癌モデルマウスから膵癌細胞株を樹立し、既存のヒト膵癌細胞株(Panc1、BxPC3)と作成した膵癌細胞株をそれぞれ高血糖および正常血糖培地で培養した結果、Kras変異を有する膵癌細胞株は高血糖培地において正常血糖培地に比し、細胞増殖能、腫瘍形成能が亢進し、cMYCの発現が増強した。 平成30年度には、タモキシフェン誘導で成熟腺房細胞にKras変異蛋白を誘導できるKrasLSL-G12D/+Elastase1Cre-ERにおいて、同様にSTZ投与による糖尿病誘導を行い、高血糖状態や低インスリン状態が膵発癌に与える検討を行ったが、6週齢におけるKras点変異誘導では膵前癌病変は形成されなかった。Kras変異膵癌細胞株において、MYCをノックダウンすると、細胞増殖能は変化なかったが、腫瘍形成能が劇的に低下した。 MYCが高血糖下での膵癌進展においてどのような役割を果たしているのか、マウスおよび細胞モデルを用いてさらに検討を行う予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
In Vitroの検討では、既存のヒト膵癌細胞株(Panc1、BxPC3)、申請者がKrasLSL-G12D/+-ElaCre-Trp53flox/floxより既報に則り作成したマウス膵癌細胞株でin vitroの検討を行った。既存のヒト膵癌細胞株 Panc1 (Kras変異型)、BxPC3(Kras野生型)および作成したマウス膵癌細胞株(Kras変異型)を高血糖(450mg/dL)、正常血糖(100mg/dL)で28日間培養したところ、Kras変異株では高血糖状態は癌細胞内のc-mycの発現を上昇させ、細胞増殖能、腫瘍形成能を亢進させた。蛋白レベルで確認を行うと、Kras下流のErkおよびAktのリン酸化は抑制され、MYCの発現増強を認めていた。 In Vivoの検討では、膵発癌モデルマウス KrasLSL-G12D/+-Pdx1CreにSTZを投与し、高血糖、低インスリン状態を誘発したところ、12週齢において膵前癌病変であるPanINsの占める面積が増加した。PanINs部の蛋白発現を免疫染色で確認したところ、Erkのリン酸化は変化なく、c-mycの発現増強を認め、高血糖状態、低インスリン状態とc-mycの関連が示唆された。STZにより高血糖状態としたうえで、6週齢におけるタモキシフェン誘導でKrasLSL-G12D/+Elastase1Cre-ERマウスの成熟膵腺房細胞にKrasを発現させても、STZによる高血糖はPanIN形成を促進させなかった。 糖尿病誘発マウスの確立、マウス膵癌細胞株の樹立に加え、膵癌細胞株、膵発癌モデルを用いた腫瘍進展の検討も概ね予定通りに進行している。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度、平成30年度の検討で、糖尿病が膵前癌病変形成に与える影響をKrasLSL-G12D/+Elastase1Cre-ERマウスモデルで、膵前癌病変の増悪進展をKrasLSL-G12D/+-Pdx1Creマウスモデルで評価した。今年度は申請者らが保有する進行膵癌モデルであるKrasLSL-G12D/+-Pdx1Cre-Trp53flox/floxマウスに薬物および食餌にて複数の糖尿病モデルを誘導することで、進行癌における高血糖状態、インスリンの多寡の影響を検討する。また、高血糖で28日間培養した膵癌細胞株を用いて、発がん部位による予後のばらつきを抑えるために膵尾部に膵癌細胞株を移植し、高血糖下での膵癌細胞株の培養が腫瘍増殖に与える影響を検討する。ヒト膵癌細胞株は免疫不全マウスに、申請者が作成したマウス膵癌細胞株は野生型マウスに膵同所移植を行う。さらに、細胞実験においては高血糖とMYC発現上昇の間に介在する分子を検索する。上記の基礎的検討に加え、糖尿病を有する膵癌患者と糖尿病を有さない膵癌患者の患者背景(耐糖能や腫瘍因子など)と治療効果や予後について解析し、糖尿病と膵癌進展におけるMYC発現の関連性について評価を行う。
|