2017 Fiscal Year Research-status Report
左室収縮能保持性心不全の病態解明と新規治療法開発に向けたトランスレーショナル研究
Project/Area Number |
17K09523
|
Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
松下 健一 杏林大学, 医学部, 講師 (10317133)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 循環器 / 心不全 / 左室駆出分画 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は急性心不全のデータベースから臨床データの解析を主に遂行した。研究計画に掲げていた腎機能を中心とした解析を施行し、急性心不全患者の予後増悪因子として知られている慢性腎臓病 (chronic kidney disease; CKD)の合併について詳細に検討した。CKDを推算糸球体濾過量 (estimate glomerular filtration rate; eGFR)が60 mL/分/1.73m2 未満と定義し、急性心不全患者をCKD合併群と非合併群に分類してそれぞれの群における臨床像と1年予後の危険因子を比較検討した。臨床像解析の結果、左室収縮能保持性心不全においても非保持性心不全と同様にCKDの合併率は高く、CKDは重要な併存病態であった。CKD合併急性心不全患者群と非合併急性心不全患者群の間で1年予後の危険因子を比較検討した結果、両群間で危険因子に重要な差異があることを見出した。特に、本研究課題の主要目的の一つである心不全治療薬の影響・効果についてこの解析でも詳細に検討した結果、退院時のβ遮断薬投与がCKD合併群でのみ1年死亡率の有意な改善との関連を認め、退院時利尿薬投与もCKD合併群では1年死亡率の有意な改善に関連するのに対しCKD非合併群では有意な予後因子とはならないという差異が認められた。心腎症候群の今後の研究において意義ある研究成果と考えられ、平成30年5月に開催される欧州心臓病学会心不全分科会(Heart Failure 2018; annual congresses of the Heart Failure Association of the European Society of Cardiology)で発表予定である。今後も腎機能を含めた各併存病態について、未だ解明されていない影響・効果も含めて研究継続予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究計画に掲げていたデータベース解析から施行し、急性心不全患者の予後増悪因子として知られている慢性腎臓病 (chronic kidney disease; CKD)の合併に着目した。推算糸球体濾過量 (estimate glomerular filtration rate; eGFR)を 男性:eGFR = 194 x血清クレアチニン<sup>-1.094</sup> x年齢<sup>-0.287</sup> 女性:eGFR = 194 x血清クレアチニン<sup>-1.094</sup> x年齢<sup>-0.287</sup> x 0.739 で算出し、CKDをeGFR <60 mL/分/1.73m2と定義してデータベースを解析した結果、左室収縮能保持性心不全においても非保持性心不全と同様にCKDの合併率は高く、CKDは重要な併存病態であった。急性心不全患者をCKD合併群と非合併群に分類してそれぞれの群における臨床像と1年予後の危険因子を比較検討した結果、両群間で重要な差異があることを見出した。特に、本研究課題の主要目的の一つである心不全治療薬の影響・効果についてこの解析でも詳細に検討した結果、退院時のβ遮断薬投与がCKD合併群でのみ1年死亡率の有意な改善に関連し、退院時利尿薬投与もCKD合併群では1年死亡率の有意な改善に関連するのに対しCKD非合併群では有意な予後因子とはならないという差異が認められた。未だ病態や治療について不明な点が多いCKD合併急性心不全の研究において意義ある成果と考えられ、研究を継続している。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き臨床データの詳細な解析を遂行する。本研究計画に掲げていた心エコー指標を中心とした解析についても、最新の知見を含めて検討項目を細かく変更していきながら研究を施行する。左室収縮能保持性心不全では拡張障害が重要な役割を果たしていると考えられているが、不明な点が多い。現在心エコーで測定される左室流入血流速度(E)と僧帽弁輪速度(E’)の比E/E’は左室拡張障害を評価する有用な指標とされているが、問題点も指摘されている。本研究では左室収縮能保持性心不全患者のE/E’と他の臨床データ・経過を分析し、左室収縮能保持性心不全における拡張障害指標の有用性・問題点を含めた詳細な検討を施行する。心不全治療薬については、新規治療薬を含めて入院前の服薬状況から入院中の治療薬、退院時の投薬内容まで詳細に解析する。退院日以降は、心不全による再入院の有無、心不全死の有無、非心臓死の有無を含めた経過・予後の解析も施行する。 さらに、エピジェネティックス研究、幹細胞研究へと研究を発展させる。現在、micro RNAの発現様式とエピジェネティックな転写制御の関連が非常に注目されているものの、不明な点も多い。本研究では採血中からRNAを抽出し、左室収縮能保持性心不全のバイオマーカーとしての可能性、病態制御に関与している可能性のあるmicro RNAsについてPathway analysisを施行して標的シグナルを同定する。ラットモデルを使用して、それらの標的シグナルの分子を過剰発現あるいはノックダウンさせた間葉系幹細胞の投与による治療効果を検討する。 未だ不明な点が多く複雑な病態である左室収縮能保持性心不全の機序・修飾因子を解明し、新たなリスク評価指標の確立、治療戦略へとつながる成果を得ることを目的として、これらの研究を継続する予定である。
|
Causes of Carryover |
理由:平成29年度に購入予定であった消耗品の一部を平成30年度に変更としたため。
使用計画:研究計画に掲げていたデータベース解析で一定の成果が得られ、平成30年5月に開催される欧州心臓病学会心不全分科会(Heart Failure 2018; annual congresses of the Heart Failure Association of the European Society of Cardiology)で発表予定のため、学会発表に関する諸費用として使用する。加えて、本研究申請時に平成29年度の購入予定としていた消耗品の一部を平成30年度に変更として購入予定であり、平成30年度の研究計画予算と合わせてさらに研究を発展させる。
|