2018 Fiscal Year Research-status Report
左室収縮能保持性心不全の病態解明と新規治療法開発に向けたトランスレーショナル研究
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17K09523
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
松下 健一 杏林大学, 医学部, 講師 (10317133)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 循環器 / 心不全 / 左室駆出分画 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は引き続き急性心不全のデータベースの解析を中心に研究を遂行した。研究計画に掲げていた心エコー指標を中心とした解析を施行し、肺動脈収縮期圧推定における三尖弁逆流圧較差(tricuspid regurgitation pressure gradient:TRPG)という指標に着目した。肺動脈収縮期圧は心エコー検査で測定されるTRPGによって非侵襲的に推定でき、推定肺動脈収縮期圧の高値が心不全患者の予後悪化に関連する可能性がこれまで報告されているものの、否定的な報告もあり、その予後因子としての有用性については不十分で未だ議論がある。肺動脈収縮期圧は加齢とともに上昇することが報告されており、左室収縮能保持性心不全の割合が多い高齢者の心不全において肺動脈収縮期圧の予後因子としての意義が大きくなる可能性を考え、詳細に検討した。急性心不全患者を80歳以上の群と80歳未満の群に分類してそれぞれの群における臨床像を比較検討した結果、80歳以上の群では女性、高血圧の既往、左室収縮能保持性心不全の割合がいずれも高く、1年死亡率も有意に高かった。両群間で1年予後の危険因子を比較検討した結果、心エコー検査による推定肺動脈収縮期圧の高値(≧50mmHg)は80歳以上の群では1年死亡率と有意に関連するのに対し、80歳未満の群では有意な危険因子とはならないという重要な差異が認められた。高齢者に多い左室収縮能保持性心不全の病態解明と治療標的の研究において意義ある研究成果であり、報告を行った(Matsushita K et al. J Am Geriatr Soc, 2019 Feb; 67: 323-328)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度から継続している臨床情報解析をさらに発展させ、研究成果を報告した。本年度は研究計画に掲げていた心エコー指標を中心とした解析を施行し、肺動脈収縮期圧推定における三尖弁逆流圧較差(tricuspid regurgitation pressure gradient:TRPG)という指標に着目した。TRPG計測値から算出した推定肺動脈収縮期圧の予後因子としての有用性を詳細に検討した結果、80歳以上の急性心不全患者では左室収縮能保持性心不全の割合が高く推定肺動脈収縮期圧の高値が1年死亡率と有意に関連するのに対し、80歳未満の患者群では推定肺動脈収縮期圧高値は有意な危険因子とはならないという重要な差異が認められた。高齢者に多い左室収縮能保持性心不全の研究において意義ある成果と考えられ、同成果の報告(Matsushita K et al. J Am Geriatr Soc, 2019 Feb; 67: 323-328)とともにさらに研究を継続している。 その他、主に昨年度に解析を施行した急性心不全における慢性腎臓病 (chronic kidney disease; CKD)合併の研究に関しては、退院時のβ遮断薬投与がCKD合併群でのみ1年死亡率の有意な改善との関連を認め、退院時利尿薬投与もCKD合併群では1年死亡率の有意な改善に関連するのに対しCKD非合併群では有意な予後因子とはならないという興味深い研究成果を本年度5月に開催された欧州心臓病学会心不全分科会[Heart Failure 2018 & World Congress on Acute Heart Failure (Annual Congress of the Heart Failure Association of the European Society of Cardiology)]で発表し、意義ある討論を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き臨床データの詳細な解析を遂行する。本研究計画に掲げていた心エコー指標、治療薬を中心とした解析についてもさらに発展させ、最新の知見を含めて検討項目を細かく変更していきながら研究を施行する。左室収縮能保持性心不全では拡張障害が重要な役割を果たしていると考えられているが、不明な点が多い。現在心エコーで測定される左室流入血流速度(E)と僧帽弁輪速度(E')の比E/E'は左室拡張障害を評価する有用な指標とされているが、問題点も指摘されている。本研究では左室収縮能保持性心不全患者の最新の知見を含めた心エコー指標と臨床データ・経過を分析し、左室収縮能保持性心不全における拡張障害指標の有用性・問題点を含めた詳細な検討を施行する。心不全治療薬については、新規治療薬を含めて入院前の服薬状況から入院中の治療薬、退院時の投薬内容まで詳細に解析する。退院日以降は、心不全による再入院の有無、心不全死の有無、非心臓死の有無を含めた経過・予後の解析も施行する。 さらに、エピジェネティックス研究、幹細胞研究へと研究を発展させる。現在、micro RNAの発現様式とエピジェネティックな転写制御の関連が非常に注目されているものの、不明な点も多い。本研究では採血中からRNAを抽出し、左室収縮能保持性心不全のバイオマーカーとしての可能性、病態制御に関与している可能性のあるmicro RNAsについてPathway analysisを施行して標的シグナルを同定する。ラットモデルを使用して、それらの標的シグナルの分子を過剰発現あるいはノックダウンさせた間葉系幹細胞の投与による治療効果を検討する。 未だ不明な点が多く複雑な病態である左室収縮能保持性心不全の機序・修飾因子を解明し、新たなリスク評価指標の確立、治療戦略へとつながる成果を得ることを目的として、これらの研究を継続する予定である。
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Causes of Carryover |
理由:平成30年度に購入予定であった消耗品の一部を平成31年度に変更としたため。 使用計画:本研究申請時に平成30年度の購入予定としていた消耗品の一部を平成31年度に変更として購入予定であり、平成31年度の研究計画予算と合わせてさらに研究を発展させる。
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