2017 Fiscal Year Research-status Report
急性冠症候群における心臓エネルギー代謝に関する研究
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17K09531
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
名越 智古 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (60408432)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 急性冠症候群 / 糖代謝 / SGLT / 共分散構造 / インスリン抵抗性 / ナトリウム利尿ペプチド |
Outline of Annual Research Achievements |
虚血性心疾患の特に急性期において、心筋の主要なエネルギー基質となる糖の取り込み・利用促進 は、心筋が虚血耐性を獲得するうえで重要なプロセスである。虚血急性期におけるグルコース-インスリン-カリウム(GIK)療法は理論上、短期的糖代謝活性化を利用した理想的な<metabolic therapy>であるにもかかわらず、その有効性は確立されていない。その一因として、我々は、自施設の心臓カテーテルdatabaseを解析し、ACS虚血発作極期にインスリン抵抗性(IR)が増大することを証明した。一方でACS発作時の血糖値上昇と反比例して血清K値が一過性に低下することもわかり、虚血急性期にGIK療法の心保護効果に代わり、IRを凌駕して内因性glucose-K連関を活性化する糖代謝促進因子の存在が示唆された。様々な心血管疾患の病態に関わる各種神経体液性因子とIRや心機能などとの相関について検討する際には、解析に組み込まれる独立変数に複数の交絡因子が存在するため、通常の単・多変量解析のみでは限界があり、本研究では共分散構造解析を用いた。同解析法を用いて、虚血性心疾患において、心臓エネルギー代謝の下流に位置する尿酸が心機能と直接的に互いに密接に関わっていることも示した。 IRは重症心不全の主病態の一つであると同時に、肥満の主病態でもある。最近、ナトリウム利尿ペプチド(NP)が、脂肪分解や白色脂肪細胞の褐色化を介して、IR改善や熱産生作用を発揮する可能性が報告されている。我々は温度感受性蛍光probeを褐色脂肪細胞へ取り込ませ、蛍光顕微鏡で細胞内温度を解析する実験系を確立し、実際ANPが低温感受性に細胞内温度を上昇させることを示した。組織循環不全を伴う重症心不全の病態において、不全心筋より大量に分泌さるNPが、心臓周囲を含む脂肪組織を介して組織保温効果を発揮している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当科独自で構築を進めている心臓カテーテルdatabaseは既に4000症例強の詳細なデータが登録されている。これを用い、ベイズ推定を基盤にpath図を作成し、共分散構造解析を行ったところ、通常の単・多変量解析では複数の交絡因子の影響で見えてこなかった、虚血性心疾患の病態に関わる各種因子の関係性が明らかとなり、論文化することができた。 臨床data解析を進めていく中で、虚血性心疾患を中心とした重症心不全におけるエネルギー代謝制御に実はナトリウム利尿ペプチド(NP)が深く関わっていることもわかった。実際、NPの脂肪細胞における作用として、温度感受性蛍光probeを褐色脂肪細胞へ取り込ませ、蛍光顕微鏡で細胞内温度を解析する実験系を確立し、低温環境下においてより顕著に細胞内温度を上昇させることを示した。 また、SGLTに関しては、複数の大規模臨床試験において有効性が確立されたSGLT2は、少なくとも正常の心臓には発現していないことを、ヒト剖検心並びにマウスLangendorff摘出灌流心で確認した。我々はすでに、高脂肪食12週間投与(HFD)マウスを作成し、現在、SGLT1に焦点を当て、その心臓における発現レベルや病態生理学的意義について、解析を進めている。 以上より、当初の申請書に記載されている平成29年度研究の計画はほぼ順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き心臓カテーテルdatabaseを用い、ベイズ推定を基盤とした共分散構造解析を応用し、ACS急性期病態におけるエネルギー代謝制御機構の詳細を、NPに焦点を当てて、明らかにしていく。具体的には、IRが増大するにも関わらず糖代謝への依存度が増すACS急性期病態において、ノルアドレナリンをはじめとしたストレス応答神経体液性因子が血糖値を上昇させ(=糖を供給)、BNPがIRを凌駕して糖利用を促進することで、両者が協調して糖代謝を活性化させている可能性を検討する。並行して、ストレス応答神経体液性因子がIRの指標であるHOMA-IRを上昇させる一方、BNPがIRを改善させるかを検討する。 また、虚血再灌流急性期の糖利用促進の中心的因子の一つであるSGLTに関して、前年度に確立したHFDマウスモデルを用いたLangendorff虚血再灌流実験を中心に検討する。具体的にはまず、HFDモデル心でのSGLT1発現レベルを、インスリン依存性糖輸送体であるGLUT4と比較しつつ、膜分画蛋白レベルで検討する。続いて虚血再灌流実験を行い、持続的高血糖によるインスリン抵抗性状態の心臓においてSGLT1がエネルギー代謝の維持に必須なのか、逆に酸化ストレス産生源となっているのか検討する。
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Research Products
(15 results)