2018 Fiscal Year Research-status Report
新規心臓特異的プロテインキナーゼが修飾する生理機能の解明
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17K09571
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
竹藤 幹人 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (20709117)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
天野 睦紀 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (90304170)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | キナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内では遺伝子発現、分子間結合、糖・脂質代謝などによりシグナルが伝達され、生体の恒常性を維持している。分子間結合は主要な細胞内シグナル伝達であり、共有結合による分子間結合に加え、非共有結合による分子間相互作用は様々な生理機能を調節している。プロテインキナーゼによるタンパク質のリン酸化は非共有結合性のシグナル伝達の代表例であり、タンパク質の構造・性質を大きく変化させ、タンパク質もしくはシグナル伝達経路全体を活性化もしくは不活性化させている。 何らかの原因によりプロテインキナーゼの酵素活性が低下し、タンパク質リン酸化のバランスが崩れると、正常な生理機能が抑制され、生体の恒常性維持が困難となる。反対に、過剰なリン酸化は、細胞内に病的なシグナルを生じさせ、過剰な細胞増殖や細胞収縮を引き起こし、悪性腫瘍や高血圧などの疾患を発症することが知られているが、心臓におけるプロテインキナーゼの役割は不明な点が多い。本研究では、nCounter 法では各遺伝子のRNAに特異的に結合する発色プローブを用いることにより、RNA量の絶対量を測定することが可能となった。ヒト17組織におけるプロテインキナーゼ(518種)の発現量をnCounter法により測定した。心臓特異的かつ強発現するプロテインキナーゼとしてCardiac Kinase Xを同定した。Cardiac kinase XのKOマウスを作製し、胎生期の心奇形の有無および成体での機能評価を行った。胎生期には致死的な心奇形は認めなかった。成体マウスでは、心臓超音波、心電図により心機能評価を進めている。さらに、循環器疾患とCardiac Kinase Xの関連を評価するため、圧負荷モデルもしくは心筋梗塞モデルを用いた心不全において、Cardiac kinase X KOマウスがどのような病態と関与について評価を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プロテインキナーゼによる基質のリン酸化は、細胞内シグナル経路の律速反応として機能していることが広く知られている。本研究では、ヒト遺伝子にコードされている全518種のプロテインキナーゼを網羅的解析し、心臓特異的に発現する新規プロテインキナーゼによるリン酸化が心臓のどのような生理機能を制御しているかを明らかにする。分子の発現量を解析する新たな方法としてnCounter法が報告された(Nature Biotechnol 2008年)。従来のPCR法では、RNAの相対的発現量は測定可能であったが、RNAの絶対的発現量の測定が困難であった。nCounter 法では各遺伝子のRNAに特異的に結合する発色プローブを用いることにより、RNA量の絶対量を測定することが可能となった。ヒト17組織におけるプロテインキナーゼ(518種)の発現量をnCounter法により測定した。心臓特異的かつ強発現するプロテインキナーゼとしてCardiac Kinase Xを同定した。Cardiac Kinase Xは、遺伝子コードからその存在が予測されているが、基質・機能の報告がない機能未知な分子である。本研究ではCardiac Kinase Xに注目し、研究を進めている。CRISPR-Cas9システムを用いて、Cardiac kinase Xの全身KOマウスを作製し、胎生期の心奇形について評価をしたが、胎生致死を来すような病態は示していない。次に、Cardiac kinase Xの全身KOマウスの成体を用いて、心臓超音波、心電図により心機能評価を行った。心臓超音波検査では、明らかな形態変化は認めず、また、心駆出率などの心機能の明らかな変化は認めなかった。心電図検査では、非薬物投与下では心拍数や心房・心室伝導時間に変化は認められなかったが、薬物投与下では心房・心室伝導時間に変化を認めた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究ではCardiac Kinase Xの機能を下記実験により明らかにする。 ①心筋特異的Cardiac Kinase X KOマウス作製:Cardiac kinase Xの全身KOマウスと心筋特異的KOマウスを作製した。 ②in vivo解析(Cardiac Kinase Xの生理的機能解析) (A) 房室伝導の評価:Cardiac kinase XのKOマウスは、心臓超音波検査では明らかな形態的な異常や心機能低下を認めなかった。心電図検査では、薬物(アドレナリン)負荷により心房・心室間の伝導に影響する所見を見出していることから、房室伝導におけるCardiac kinase X 機能解析を進める、房室伝導を亢進する薬剤に加え、房室伝導を抑制する薬剤を用いて、房室伝導におけるCardiac Kinase Xの役割について検討を行う。(B) 心不全の評価:心不全において、Cardiac kinase X KOマウスがどのような病態と関与するかを評価する。アンギオテンシン持続投与による心不全モデルを用いた病態解明を開始している。アンギオテンシンを1カ月持続負荷し、心臓の病理学的検討に加え、心臓超音波検査による心機能評価を進めている。また、圧負荷心不全モデルとして、大動脈縮窄を行い、Cardiac kinase Xの機能評価を行う。 ③Cardiac Kinase Xの基質同定について:コントロールマウスとCardiac Kinase X KOマウスに有意な差が認めた際には、そのin vivo実験を行った心臓を取り出し、リン酸化されているタンパク質を質量分析法により網羅的に解析する。リン酸化状態に変化を認めたタンパク質については、基質候補とし、生化学的手法を用いて、Cardiac kinase Xによるリン酸化部位の同定をし、その機能解析を行う。
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