2017 Fiscal Year Research-status Report
虚血再灌流心筋障害の原因となる生理活性脂質メディエーターの解明と治療的介入
Project/Area Number |
17K09579
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
篠原 正和 神戸大学, 医学研究科, 准教授 (80437483)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 虚血再灌流傷害 / 脂質メディエーター |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度では、【研究計画3.培養細胞系を用いた虚血再灌流モデルでの検討】を先行して実施した。 虚血再灌流病態に関わる可能性のある細胞群として、心臓には心筋細胞・繊維芽細胞・血管系細胞が含まれており、さらに循環血液には好中球・単球・血小板が含まれている。これら各細胞群の培養細胞系を用い、無酸素チャンバーを用いて虚血再灌流モデルを構築する。初年度の解析では、まず血管系細胞を用いた解析を実施した。 血管内皮細胞(HUVEC)を通常のインキュベーターで培養したものをnormoxic群、24時間無酸素チャンバーで培養したものをanoxic群とした。それぞれのHUVEC培養に、重水素ラベルされたDHA(1uM)を基質として添加し、1時間のincubationでどれだけの脂質代謝物が産生されるか、液体クロマトグラフ質量分析計を持ちいた包括的脂質解析にて検討した。またHUVEC中のtotal RNAを回収し、リアルタイムPCRによって脂質代謝物産生に関わる酵素群の発現を検討した。 この結果、anoxic群ではnormoxic群に比べて約3倍の17-hydroxy DHAが産生されることが明らかとなり、HUVEC中のmRNA発現量の検討では、15-リポキシゲナーゼならびにサイクロオキシゲナーゼの発現増加が認められた。今後、より包括的な脂質代謝物解析を進めていく計画である。 【研究計画2.ヒト虚血再灌流過程における血中脂質メディエーター変動の解析】 適切なインフォームドコンセントが取得されたST上昇型心筋梗塞症例において、経皮的冠動脈インターベンション治療直前ならびに治療完了後の経時的採血サンプルリングを進めている。今後脂質代謝物の包括的解析を実施する計画である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
【研究計画1.マウス心筋虚血再灌流モデルを用いた包括的脂質メディエーター解析】について、現時点では再現性のよい実験モデル作成に至っておらず、動物モデルを用いた解析が開始できていない。このため、現在までの進捗状況としては、「やや遅れている」と判断した。動物モデル作成のプロトコールとしては、以下のプロトコールに変更はない。 ガス麻酔を維持麻酔に用い、気管内挿管下にマウス用レスピレーターにて呼吸管理を行う。冠動脈前下行枝に対し、血管用クリップを用いて虚血(30分間)再灌流(2時間)傷害を作製する。2時間の再灌流後に、EDTA採血による血液検体ならびに心臓を解析サンプルとして回収する。虚血再灌流心筋障害の確認には、心臓組織の薄切標本作成後、TTC染色ならびにミトコンドリア膜電位依存性の蛍光色素にて染色し、ミトコンドリア傷害を指標として心筋傷害を定量的に評価する。 モデル動物より採取した血漿(100ul)・心臓組織を用いて血漿包括的脂質メディエーター解析を実施する。既知濃度の内部標準物質を添加したのちにメタノールにて総脂質を抽出し、固相抽出法によって脂質メディエーター含有分画を分取する。本分画を濃縮後、神戸大学質量分析総合センターにて運用されている液体クロマトグラフ質量分析によって分析を実施する。sham手術群と比較することで、虚血再灌流傷害がどのような影響を全身性に及ぼしているか解明する。心臓組織においては、従来より評価されている炎症性細胞浸潤ならびに炎症性サイトカインプロファイルに関しても、定量的解析を実施する。 マウスで再現性の高いモデル作製が困難な状況が発生するようであれば、よりモデル作製が容易なラットを用いて虚血再灌流傷害における歩包括的脂質メディエーター解析を実施する計画である。
|
Strategy for Future Research Activity |
【研究計画1.マウス心筋虚血再灌流モデルを用いた包括的脂質メディエーター解析】に関しては、上記「現在までの進捗状況」に記載したプロトコールにて動物モデル作成を検討する計画である。 【研究計画2.ヒト虚血再灌流過程における血中脂質メディエーター変動の解析】 適切なインフォームドコンセントが取得されたST上昇型心筋梗塞症例において、経皮的冠動脈インターベンション治療直前ならびに治療完了後の末梢血採血を行う。血漿(100L)を用いて血漿包括的脂質メディエーター解析を実施し、治療前後すなわち虚血再灌流によって変動する血中生理活性代謝物を評価する。 【研究計画3.培養細胞系を用いた虚血再灌流モデルでの検討】 虚血再灌流病態に関わる可能性のある細胞群として、心臓には心筋細胞・繊維芽細胞・血管系細胞が含まれており、さらに循環血液には好中球・単球・血小板が含まれている。これら各細胞群の培養細胞系を用い、無酸素チャンバーを用いて虚血再灌流モデルを構築する。具体的には、心臓を構成する細胞群として、心筋細胞(H9c2細胞)・心筋線維芽細胞・冠動脈内皮細胞・冠動脈平滑筋細胞、循環血液由来の細胞群としてヒト末梢血から遠心操作にて分離した好中球・単球・血小板を用い、当循環器内科で運用されている無酸素チャンバーを使用することで虚血再灌流モデルを作製する。これまでの予備実験の結果、1x106個前後の細胞数があれば、微量のものも含め包括的脂質メディエーター解析が可能であった。本細胞モデルを用いることで、個別の細胞種における虚血再灌流時の脂質メディエータープロファイル変動を評価し、プロファイル変動に関連する酵素発現の変動をmRNA・蛋白レベルにて検討する。
|
Causes of Carryover |
【研究計画1.マウス心筋虚血再灌流モデルを用いた包括的脂質メディエーター解析】について、現時点では、再現性のよい実験モデル作成に至っておらず、動物モデルを用いた実験解析に用いる経費を次年度に繰り越しした。動物モデルにおいて、以下のような解析を計画しており、繰り越しした経費は次年度以降、有効に活用する計画である。 (1)虚血再灌流心筋障害の確認には、心臓組織の薄切標本作成後、TTC染色ならびにミトコンドリア膜電位依存性の蛍光色素にて染色し、ミトコンドリア傷害を指標として心筋傷害を定量的に評価する。(2)血漿を用いて血漿包括的脂質メディエーター解析を実施する。既知濃度の内部標準物質を添加したのちにメタノールにて総脂質を抽出し、固相抽出法によって脂質メディエーター含有分画を分取する。本分画を濃縮後、神戸大学質量分析総合センターにて運用されている液体クロマトグラフ質量分析によって分析を実施する。sham手術群と比較することで、虚血再灌流傷害がどのような影響を全身性に及ぼしているか解明する。(3)心臓サンプルもメタノール中でホモジネートした後に、上記と同じプロトコールにて包括的脂質メディエーター分析を行い、虚血再灌流傷害による変動を評価する計画である。(4)炎症性細胞浸潤ならびに炎症性サイトカインプロファイルに関しても、心臓サンプルを用いて定量的解析を実施する。
|
Research Products
(2 results)