2018 Fiscal Year Research-status Report
アレルギー性気道炎症下のバリア機能維持におけるTcf21の役割の解明
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17K09648
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
前澤 裕子 千葉大学, 医学部附属病院, 特任助教 (00724923)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中島 裕史 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (00322024)
高取 宏昌 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任講師 (30568225)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アレルギー性気道炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
Transcription factor 21(Tcf21)は胎生期の臓器発生を司る転写因子の一つであるが、成体組織においても発現が見られ病態形成にも関与することが示唆されている。Tcf21はヒト肺ではパートナー分子Tcf12と共に気道上皮を中心に発現することが示されているが、その役割は不明である。一方、本研究者らは①喘息モデルマウスの気道上皮細胞においてTcf21発現が著明に減弱すること、②気管支生検のアレイデータベース(NCBI)の解析でも喘息患者でTcf21の発現が低下していることを見出しており、Tcf21は喘息の病態形成に関与する可能性が示唆された。そこで本研究ではアレルギー性気道炎症におけるTcf21の役割とその作用機構を明らかにするとともに、喘息患者における肺Tcf21発現と喘息フェノタイプとの関連を解析し、喘息の新規治療基軸の確立を目的とすることとした。平成30年度は、チリダニ(house dust mite (HDM)) 誘発性気道炎症モデルを用いて野生型マウスにアレルギー性気道炎症を惹起し、気道炎症の各タイムコースにおけるTcf21の発現の局在および強度について解析を行い、気道上皮および肺胞上皮等における発現の推移について検討を行った。また、Tet-offシステムを用いたTcf21コンディショナルノックアウトマウスに対してTcf21発現抑制状態における気道炎症を惹起した後、気管支肺胞洗浄液および肺病理組織を採取し経時的な炎症反応について検討を行った。細胞特異的マウスの樹立については遺伝子改変用の発現ベクターコンストラクトの改良を行い、細胞特異的遺伝子改変マウスの作成を継続して行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、胎生期の臓器発生を司る転写因子の一つであり近年その成体組織における役割についても注目されているTcf21について、アレルギー性気道炎症の局所においてTcf21の発現が著明に低下するという本研究者の未発表データをもとに気道炎症における意義について解析を行うことを目的とした。 具体的には、アレルギー性気道炎症の炎症局所におけるTcf21の役割についてHDM(house dust mite, チリダニ)抗原誘発性気道炎症モデルを用いて検討するとともに、気管支および肺におけるアレルギー性気道炎症関連細胞(気道上皮細胞、マクロファージ、T細胞、等)個々におけるTcf21の役割について細胞種特異的な欠損マウスを樹立し解析を行うこととした。また気道上皮細胞に発現するTcf21の役割については気道バリア障害の観点からも含めて検討を行い、気道上皮細胞内におけるTcf21のパートナー分子と標的分子についての網羅的な探索も含めて詳細を明らかにすることを目的とした。 本年度は、チリダニ(house dust mite (HDM)) 誘発性気道炎症モデルを用いて野生型マウスにアレルギー性気道炎症を惹起し、気道炎症の各タイムコースにおけるTcf21の発現の局在および強度について解析を行いその発現パターンを明らかにすることができた。また、Tcf21のコンディショナルノックアウトマウスを用いてTcf21発現抑制状態での気道炎症について解析し、Tcf21のアレルギー性気道炎症における意義について検討を行うことができた。細胞特異的マウスの樹立については遺伝子改変用の発現ベクターコンストラクトの作成が進行中である。これらから、概ね順調に進展していると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
気管支喘息の有病率は国内外ともに増加傾向にあるが、吸入ステロイドをはじめとする非特異的な対症療法が未だ治療の中心であり、病態の解明に基づく新たな 治療法の開発が求められている。気管支喘息のサブタイプの中で最も有病率の高いアレルギー性喘息ではアレルゲン刺激に対するアレルギー性気道炎症が特徴的であり、その成立にはTh2細胞を中心とするT細胞、B細胞、好酸球、肥満細胞などの血球系細胞に加え、気道上皮細胞、血管内皮細胞など多くの細胞の関与が判明している。近年ではTh17細胞, 制御性T細胞、自然リンパ球などリンパ球系細胞が病態形成において担う役割に関する研究が進む一方で、生体防御の最前線として存在する気道上皮細胞の役割についても注目が集まっている。Tcf21については臓器発生の制御において注目されている遺伝子であるが、その標的遺伝子や作用機構については依然不明な点が多く、近年、成熟個体の組織におけるTcf21の重要性が注目され始めている。本研究者の知見より、気道粘膜の恒常性維持およびアレルギー性炎症においてもTcf21が何らかの役割を担うことが示唆されており、今後の研究の推進方策として本年度に得られた気道炎症組織について免疫組織学的により詳細な検討を加える他、細胞特異的Tcf21欠損マウスの樹立とそれらにおけるチリダニ抗原(house dust mite (HDM)) 誘発性気道炎症について組織学的および分子生物学的観点からさらに詳細な検討を加えることとする。また、気道上皮細胞に発現するTcf21の役割に関しては気道バリア機能における役割の観点からALI cultureなどのin vitroの手法も用いて気道上皮の透過性やgap junction保持における役割についても解析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
免疫組織的解析に必要とした抗体およびフローサイトメトリーに用いる抗体試薬が当初予定より安価で購入できたため、次年度使用額が生じた。次年度、免疫染色用抗体の追加購入および気道上皮機能・細胞機能解析用試薬の購入に充てる予定である。
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