2018 Fiscal Year Research-status Report
機能性RNAネットワーク解析に基づく治療抵抗性小細胞肺癌の革新的治療法開発
Project/Area Number |
17K09660
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
隈元 朋洋 鹿児島大学, 附属病院, 特任助教 (20622517)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
関 直彦 千葉大学, 大学院医学研究院, 准教授 (50345013)
水野 圭子 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 助教 (50531414)
上川路 和人 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (80633396)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 肺癌 / microRNA / 次世代シーケンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
小細胞肺癌は、肺癌全体の15%~20%を占める癌であるが、癌細胞の増殖能と転移能は驚くほど高く、初診時に外科的な治療を行える症例は稀である。切除不能症例については、化学療法・化学放射線療法を施すが、初回の治療反応性は良い。しかしながら、多くの症例で、再発や遠隔転移を認める。近年開発が相次いでいる分子標的薬の適応もない。この様な背景の中、治療抵抗性に至った小細胞肺癌に対する、新規治療法の開発は急務である。 ヒトゲノム中には蛋白をコードしないRNA分子が多数存在し、実際に転写されている事が判明した。その中で、僅か19塩基~22塩基の1本鎖RNA分子は、マイクロRNAと呼ばれる。1種類のマイクロRNAは、配列依存的に数百~数千種の機能性RNA(蛋白コード遺伝子・蛋白非コード遺伝子)の発現を制御している事から、細胞内ではマイクロRNA-機能性RNAの極めて複雑な分子ネットワークが形成されている。ヒトゲノム中の60%のタンパクコード遺伝子は、マイクロRNAによる発現制御を受けている。そのため、マイクロRNAの発現異常が細胞内の機能性RNA分子ネットワークの破綻を引き起こし、癌を含むヒト疾患の発症・進展に関わる事が明らかとなってきた。 本疾患の新規治療法の開発には、治療抵抗に至った癌細胞内で起こっている変化を、最新のゲノム科学的手法で解析する必要がある。しかしながら、小細胞肺癌の再発部位や遠隔転移部位を得る事は臨床上困難であり、本疾患のゲノム解析は十分に行われていない現状がある。この様な背景の中、申請者は、小細胞肺癌の再発症例の原発巣、転移巣からRNAを抽出し、RNA-シークエンスにより、「治療抵抗性・小細胞肺癌マイクロRNA発現プロファイル」を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
治療抵抗性に至った小細胞肺癌患者・剖検検体のRNAシークエンスにより「治療抵抗性・小細胞肺癌マイクロRNA発現プロファイル」を作成した。小細胞肺癌・癌組織でmiR-30a-5p/-3p、miR-34b-5p/-3p、miR-223-5p/-3pなどの発現が低下している事が明らかとなった。これまでの概念では、マイクロRNAの生合成においてpre-miRNAから2本鎖のmiRNA duplexが形成され、guide strand がRISCタンパクに取り込まれ標的遺伝子の制御を行う。これに対して、反対鎖のpassenger strandは分解され機能を有しないとされていた。 申請者は、肺腺癌・癌組織においてmiR-145-5p(guide strand)およびmiR-145-3p(passenger strand)が発現抑制されている事を見出し、機能解析実験から、passenger strandが癌抑制型マイクロRNAとして機能している事を証明し報告した。更にmiR-145-3pが制御する癌促進型遺伝子を探索した結果、CDK1、TFAP2A、EIF5A、NUP62CL、SGOL2、TTK、RAD54B、LUMB2、PKP2が候補遺伝子となった。これらの遺伝子の高発現が肺腺癌患者の予後に影響している事が明らかになった。この事はこれまで機能しないとされていたpassenger strandが、癌の悪性化に関与していることを強く示唆しており、癌・マイクロRNA研究の新しい展開である。 現在、小細胞肺癌組織で発現が抑制されているpassenger strandマイクロRNA (miR-30a-3p、miR-34b-5p、miR-223-5p)に着目し、その機能解析を継続している。癌抑制機能が証明されたマイクロRNAについては、マイクロRNAが制御する小細胞肺癌・癌促進経分子経路を探索する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で作成した、「治療抵抗性・小細胞肺癌マイクロRNA発現プロファイル」には、これまでに解析が全く行われていない、マイクロRNAが多数存在しており(次世代シークエンサーを用いた解析のため)、本研究を推進する上で大きなアドバンテージである。これまでは、小細胞肺癌組織で発現が抑制されているマイクロRNA(癌抑制型マイクロRNA候補)について、機能解析を施行してきたが、今後の展開として、小細胞肺癌組織で発現が亢進しているマイクロRNA(癌促進型マイクロRNA候補)について検討を行う予定である。 最近の機能性RNA研究から、ヒト血液や体液中には、エクソソームと呼ばれる、直径50nm~150nmほどの細胞外小胞が存在しており、エクソソーム内には、マイクロRNAを含む核酸物質が内包されている事が明らかとなった。癌細胞が放出エクソソームは(エクソソーム中の核酸は)、周辺環境に影響を与え、癌細胞の転移や治療抵抗性に重要な役割を担っている事が明らかとなってきた。 今後の展開として、小細胞肺癌患者のエクソソームを分離し、その中に包埋されているエクソソーム由来マイクロRNAを探索する。小細胞肺癌組織で発現が亢進しているマイクロRNAと比較し、小細胞肺癌・癌促進型マイクロRNA選択する。癌促進型マイクロRNAを起点として、小細胞肺癌において活性化している分子経路を見出す。分子経路の遮断には、siRNA、inhibitor(低分子化合物)、中和抗体を用いて、癌細胞の、増殖能、浸潤能、遊走能、アポトーシス誘導能等を指標にして検証する。有効性が確認できた分子経路については、既存の「薬」で、分子経路の遮断が可能か、ドラッグ・リポジションの戦略を考案し検証を進める。
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