2018 Fiscal Year Research-status Report
ePTFE人工血管と自家動静脈グラフト移植後の内腔狭窄の機序の解明と治療法の探索
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17K09741
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Research Institution | Osaka Medical College |
Principal Investigator |
金 徳男 大阪医科大学, 医学研究科, 講師 (90319533)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | PTFE人工血管 / 内膜肥厚 / 線維芽細胞遊走 / キマーゼ / キマーゼ阻害薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
PTFE人工血管は透析患者の血管アクセスルートに多く使用されてきた。しかし、自己血管からなるネイティブ動静脈シャントに比べて、PTFE人工血管からなるこのアクセスルートの開存率が悪く、ほとんどの患者は2年以内に新たなルートの作製を強いられる。このような血管アクセスルートの不全を引き起こす主な原因は人工血管管腔内での内膜肥厚による狭窄であり、血液浄化に必要な血流を保証できなくなるからである。 これまでに、我々はPTFE人工血管移植後の血管内膜肥厚が主に移植後の血管周囲からの線維芽細胞の管腔内への遊走によって形成されることをイヌのモデルで示してきた。また、線維芽細胞の遊走には肥満細胞由来のキマーゼが密接に関連することも報告してきている。 そこで、本研究ではキマーゼを特異的に抑制可能な阻害薬をPTFE人工血管外膜側にコーティングし、非活性体の異性体化合物をコーティングしたもの並びにコーティングを施していなかったPTFE人工血管をハムスターの皮下に移植し、その1か月と3カ月後の線維芽細胞遊走度合いについて検討してみた。結果、キマーゼ阻害薬と非活性体の異性体化合物をコーティングしたいずれの群の線維芽細胞の管腔内遊走は非コーティングのPTFE人工血管に比べて有意に抑制されたが、キマーゼ阻害薬コーティングPTFE人工血管の線維芽細胞の管腔内遊走が非活性体の異性体化合物をコーティング群に比べてより抑制効果を示したものの、両群間での統計学的な差を認めなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最大の目的はPTFE人工血管移植後の線維芽細胞遊走による内膜肥厚形成を如何に抑制するかである。これまでに、我々はイヌを用いてPTFE人工血管とGrasil人工血管の内膜形成特徴を比較することによって線維芽細胞の遊走がPTFE人工血管移植後の内膜肥厚形成に深く関与することを示してきた。つまり、PTFE人工血管には作製時にできた管腔内外を貫く小さな隙間が数多く存在する。そして、PTFE人工血管移植後の1と2ヵ月後の人工血管壁を観察したところ、時間依存的な外膜側からの線維芽細胞の管腔内への遊走が認められた。興味深いことに、2ヵ月後では素材全壁に渡る線維芽細胞の浸潤が認められ、この時期とあいまって明らかな血管内膜肥厚が認められていた。そして、Grasil人工血管という外膜側からの線維芽細胞遊走を物理的に遮断可能な人工血管では内膜肥厚が中間部で殆ど起こらなかった。このようなことは、人工血管移植後の吻合部以外の血管内膜肥厚には外膜からの線維芽細胞の遊走を必要とし、浸潤された細胞による血管内腔側での足場提供が血管内膜肥厚形成の初期段階および肥厚の進展において非常に重要な役割を果たしていることを示している。本研究でもコーティング自体が物理的に線維芽細胞遊走を抑制可能なことが示されたが、キマーゼの抑制効果による線維芽細胞遊走への更なる効果は引き出せなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今回、PTFE人工血管の外膜側にキマーゼ阻害薬とその非活性体である異性体をコーティングしたところ、いずれの人工血管においても非コーティング血管に比べて外膜側からの線維芽細胞の管腔内遊走を有意に抑制できた。しかし、キマーゼ阻害薬による相加効果にまでは至らなかった。原因として考えられるのは、キマーゼ阻害薬自体は人工血管表面に固定されており、阻害薬がトラップできる範囲が限られているからではないかと考えている。今後の方針として、キマーゼ阻害薬をPTFE人工血管壁に強固に固定せず、少しずつ遊離できて周囲に拡散可能なコーティングを試みたい。また、コーティング自体も線維芽細胞の管腔内遊走を抑制可能なことから、実際このようなコーティングを施した人工血管が血流のある環境に移植した時、非コーティングPTFE人工血管に比べて内膜肥厚形成を有意に抑制できるかも検討してみたい。
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Causes of Carryover |
ほとんど残っていなかった。
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Research Products
(6 results)