2019 Fiscal Year Research-status Report
進行性多巣性白質脳症等の幅広い神経感染症に対応する超高感度PCR検査技術の実用化
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17K09768
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
中道 一生 国立感染症研究所, ウイルス第一部, 主任研究官 (50348190)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 進行性多巣性白質脳症 / JCウイルス / ポリオーマウイルス / 脱髄疾患 / 神経感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy: PML)は主にT細胞系の免疫能の低下を背景として発症する致死的な脱髄疾患であり、JCウイルス(JCV)が脳の白質で増殖することで引き起こされる。PMLに対する根本的治療法は確立されていないが、早期の診断、免疫抑制の解除および治療薬候補の投与による進行の停止や改善が報告されている。また、白質病変を呈する他のウイルス感染症が存在することから、PML疑い患者の診断においてはJCVを含む広範囲な病原体を標的とした鋭敏な検査が有用である。 本研究は「過去10年以上にわたって集積されたPML疑い患者の脳脊髄液検体および臨床情報を後方視的に解析し、神経感染症の早期診断において有用な超高感度PCR検査系を実用化する」ことを目的とする。 前年度までの本研究では、脳脊髄液中のJCVを高度に濃縮するためのカラムを用いて極微量のJCVを確実に検出するための超高感度PCR検査系を開発し、その有用性を示した。また、脳脊髄液中に極微量のJCVを検出した場合、そのウイルスが健常人に持続感染しているアーキタイプなのか、もしくはPMLを生じるプロトタイプ(変異型)なのかを判別するためのマルチプレックスPCR検査系を開発した。 研究代表者らの研究において、PML疑い患者の脳脊髄液DNAを次世代シーケンサー等により解析したところ、各種のヘルペスウイルスが検出される症例が認められたことから、本年度における研究では、高度濃縮カラムによって抽出した脳脊髄液DNAを対象として、ヘルペスウイルスを検知するための超高感度リアルタイムPCR検査系を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度においては、PML疑い症例の脳脊髄液中に出現しうることが明らかとなっている単純ヘルペスウイルス1型、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタイン-バーウイルスならびにサイトメガロウイルスを標的としたリアルタイムPCR検出系を確立した。患者から採取される脳脊髄液の量は限られており、可能な限り多くの標的配列を同一の反応系で検出するために、複数の蛍光色素によって標識した加水分解プローブを設計した。また、それぞれのヘルペスウイルスのゲノムDNAを定量するための標準DNA(プラスミド)のパネルを作製した。これらの標準DNAパネルは、標的となるヘルペスウイルスの配列以外に人工的なタグ配列を付加しており、標準DNAの汚染による脳脊髄液DNAの偽陽性のリスクを軽減し、検査の信頼性を高めることができる。しかしながら、当該年度においては新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、当研究課題の計画の遅延が生じた。ヘルペスウイルスの超高感度PCR検査系の実用化においては、より多くの患者検体を用いた評価が必要であると判断し、補助事業期間の延長によって次年度に計画を補完することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度における本研究では、PMLが疑われた患者の脳脊髄液を対象として、ヘルペスウイルスによる神経感染症を検知するための超高感度PCR検査系を実用化させる。単純ヘルペスウイルス1型、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタイン-バーウイルスならびにサイトメガロウイルスのゲノムDNAを単一の反応系で同時に検出することが可能なクアドルプレックスPCR検査系を至適化する。本検査系を用いて、高度濃縮カラムによって抽出したPML疑い患者の脳脊髄液DNA中のヘルペスウイルスの有無およびコピー数を測定する。また、ヘルペスウイルスの出現頻度と患者情報との関連性を統計学的に解析し、検査系を評価する。
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Causes of Carryover |
年度末納品等にかかる支払いが令和2年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、令和元年度分についてはほぼ使用済みである。
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