2018 Fiscal Year Research-status Report
日、米、豪の大規模縦断観察研究データを用いたアルツハイマー病の進行予測因子の研究
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17K09794
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 一詩 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (30529053)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩田 淳 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (40401038)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アルツハイマー病 / 軽度認知障害 / APOE / カルシウム / アミロイドβ / アミロイドPET / プレクリニカルAD / ADNI |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はJ-ADNIおよびUS-ADNIのデータを用いて多角的に解析を行った。まずJ-ADNIとUS-ADNIにおけるMCI群の経時的データを比較したところその進行速度は極めて似通っており、MCI期の進行過程には人種を越えて高い共通性がある事が初めて示された(Iwatsubo et al. 2018)。次にJ-ADNIデータを用いて、アルツハイマー病による軽度認知機能障害の前段階と考えられる「プレクリニカルAD」の頻度と特徴を解析した。認知機能正常者のうちアミロイドPETまたは脳脊髄液バイオマーカーで脳内アミロイド蓄積を認める例を抽出した結果、60~84歳の正常者の22.6%がプレクリニカルADに該当し、経時的な認知機能評価では学習効果の喪失が認められることを示した(Ihara et al. 2018)。更にJ-ADNIのMCI群を対象として網羅的に悪化因子の解析を行った。J-ADNIのMCI群ではアミロイド陽性率やAPOE遺伝子のe4アレル保持率に男女差が無いにも関わらず女性の方が早く進行する傾向が認められた。この悪化要因として慢性腎臓病のグレードが高い(G2期以上)ことが見出されたことから、特に女性において動脈硬化による微小血管障害がMCI期の認知機能障害の進行に関係する可能性が示唆された(Iwata et al. 2018)。同じくJ-ADNIのMCI群で、3年間でのADへの進行(コンバージョン)をアウトカムとして悪化因子を解析したところ、血清カルシウム値の低値(補正後 9.2 mg/dL 未満)が有意な危険因子として抽出された(Sato et al. 2018)。これらの結果はUS-ADNIのMCI群では再現されず、日本人集団に特異的な現象である可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は主にMCI期の進行の自然歴とその悪化因子に関して共同研究者と協力して解析し、実績の概要に記したとおりその成果を国際誌への論文の形で積極的に発表した(4編)。前年度より進めている脳脊髄液バイオマーカーによるMCIの進行予測の課題に関しても内容を発展させる形で進行中である。今年度はROC解析の手法を用いてADの診断に最も適切なカットオフ値を設定した結果、総タウとAβ42の比が最も高い診断能を示すことが判明した。またその値を適用してMCI群をバイオマーカー陽性群と陰性群に分けると、陽性群は有意に早い臨床的悪化を示し、CSFバイオマーカーはMCIの予後予測にも有用であることが示された。本成果は2018年11月にバルセロナで開催されたClinical Trials on Alzheimer's Disease (CTAD)にて発表した。本内容は今後共同研究者との先行論文との調整の上論文化を予定している。オーストラリアにおける臨床研究データであるAIBLのデータに関しては、申請と入手は済んでいるが解析の進展はなく、来年度の課題とする。
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Strategy for Future Research Activity |
アルツハイマー病発症の進行予測に関わる遺伝的危険因子として、APOE遺伝子のe4アレルがMCI期と軽度認知症期のアルツハイマー病に与える影響に関して解析を進めている。e4アレルのアルツハイマー病発症への関与は確立しているが発症後の経過への関与は確立していない。これまでの解析で、e4アレルは正常者、MCI、軽度アルツハイマー病のいずれの臨床区分においてもアミロイド陽性率を上昇させることが示された。またMCI期においてはe4アレル保持者は認知機能低下が早く進行したが、アミロイド陽性のMCIに限ると影響は限定的であった。また軽度アルツハイマー病期ではアミロイド陽性のADに限るとe4陽性者は有意に進行が緩徐であった。これまでの臨床研究ではアミロイド蓄積の影響が考慮されておらず、進行速度に対するe4の影響は過大に評価されていた可能性が考えられた。これらの成果は2019年7月の国際学会にて発表予定で、現在論文も執筆中である。また認知機能検査の失点パターン解析による進行予測も前年度に引き続き推進する。現在、個々の認知機能検査項目(ADAS(アルツハイマー病評価尺度)、論理記憶検査IA 及びIIA、WAIS-III、時計描画/時計模写、言語流暢性課題、Trail Making Test A&B、ボストン呼称テスト)の得点を一般的な認知機能ドメイン区分(記憶、遂行機能、言語、注意、視空間認知)別に集計し、障害ドメインのパターンによるMCIの分類と予後予測を試みている。研究の過程でJ-ADNIの公開データにはWAIS-IIIの下位検査の一部が含まれていないことが判明し、一部のドメインの評価幅が不十分となる可能性があるが、他の検査データでの補完やZ-scoreによる標準化などで可能な限り正確な解析を試みている。
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Causes of Carryover |
本年度は複数の学会発表及び論文の校正等に研究費を使用したが、研究に必要な新たな物品などは生じず残額が生じたたため次年度に繰り越した。次年度は複数回の学会発表、論文の作成と校正、投稿を予定しているため、それらに用いる予定である。また今後、画像データの解析等のより専門性の高い統計解析を行う計画があり、既存の設備では解析が困難となる可能性があるため次年度助成金はそれらの用途に耐えうる設備の整備に用いる予定である。
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Research Products
(15 results)