2017 Fiscal Year Research-status Report
バセドウ病における新規エピトープ認識機構に基づく抗原特異的免疫制御に関する研究
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17K09888
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
稲葉 秀文 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (70447770)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | バセドウ病 |
Outline of Annual Research Achievements |
バセドウ病(GD)は臨床的に最も高頻度に起こる臓器特異的自己免疫疾患である。しかし、その発症機構は未だ解明されていない上に、治療法によっては死亡例もあるため、改善すべき点が多い。したがって、1940年代より新規治療法の開発が喫緊の課題である。申請者はこれまで、GDにおけるTSH受容体(TSHR)抗原とHLA-DR結合モチーフの関連を解明し、新規免疫寛容誘導ペプチドを開発した(2006 JCEM, 2009 Thyroid, 2010 JCEM, 2013 Endocrinology, 2016 Frontier Endocrinology)。 本研究の目的は、その知見を基盤として、1)GDにおける胸腺やHLA分子の役割と甲状腺自己抗原に着目し、新たなエピトープ認識機構を明らかにすること、2)抗原特異的免疫制御による治療法開発を段階に分けて行うことである。 研究方法は、以下の5点に大別して遂行した。まず1)数種類の甲状腺自己抗原に関して胸腺の役割がGDの病態に及ぼす影響を明らかにする。次に2)雌あるいは雄マウスについて検討を行い、女性ホルモン、男性ホルモンや性差によるGD悪化の有無を明らかにする。さらに、3)甲状腺自己抗原のGDへの病態への関与をエピトープ相互作用において明らかにする。 次に、4)治療として新規免疫寛容誘導ペプチドによる治療に加えて、TSHR特異的制御性T細胞の増殖誘導をin vitroにおいて行い、5)GDマウスにその制御性T細胞を注入し免疫原性Tリンパ球に対して末梢性免疫抑制誘導を行なう予定とした。 研究初年度である2017年は、まず上記1)の数種類の甲状腺自己抗原に関する胸腺の役割がGDの病態に及ぼす影響を検討した。ヒトHLA化マウスを用いて、甲状腺自己抗原であるTSHRあるいはサイログロブリンの免疫を行い、2)雌雄マウスにおける検討と3)エピトープ相互作用の結果、GDの悪化する条件を検討している。今後4)5)の実験へ進む予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究としては、GDの危険因子であるHLA-DR3とTSH受容体 (TSHR) 抗原に関する最も重要なエピトープ:hTSHR37(78-94)を始めとしてhTSHR132-150等の複数の免疫原性hTSHRペプチドの作用を既知のエピトープ認識機構において検討を行った。まず、TSHR細胞外ドメインをコードしたアデノウイルス(Ad-TSHR289)を作成し、HLA-DR3トランスジェニックマウスに接種することでHLA-DR3トランスジェニックGDモデルを誘導した。さらに治療としての前述の新規免疫寛容誘導ペプチドをHLA-DR3トランスジェニックGDマウスに用いて、臨床応用を視野に入れ中枢性及び末梢性に免疫寛容を誘導する可能性を検討した。また、TSHR抗原特異的制御性T細胞のクローン化に着手した。 また、GDにおける新たなエピトープ認識機構の研究においては、GDにおける甲状腺自己抗原(TSHR,Tg,TPO)のHLA分子上抗原提示形式を、HLA-classI/Tc及びHLA-classII/Thの関連にて、上述のヒト免疫システム類似のHLA-トランスジェニックマウスを用い検討を行った。今後は、日本人GDに多いHLA-DR8/14、DP5やB35/46の関与を同様に検討し明らかにする。
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Strategy for Future Research Activity |
以上の結果より、平成30年以後もGDに関する分子イムノプロテオミクス手法を中心としたTSHR抗原の解析および甲状腺自己抗原を中心とした基礎的研究の確立と臨床応用への展開が円滑に進行されていると考えられる。また、平成31年は3年間の研究の取りまとめを行う。本計画はGDに関する世界最先端の研究の一つであり、従来の知見を生かしつつ独創的な着想に基づく画期的な実験結果が得られ始めている。本研究計画による連続的治療戦略は中枢性並びに末梢性免疫抑制を組み合わせており、全身的免疫異常を制御できる。また、治療が困難であり時に致死的でさえあるGDの加療において長期的かつ根本的な治癒をもたらす可能性がある。なお、感染症や 悪性腫瘍の発生の副作用に関しては当治療法の濃度・時期等の調整により予防することが可能である。また、本治療法の確立が、HT・ SLE等の難治性自己免疫疾患に関する治療法の発展につながる。米国ではSLE、多発性硬化症等の自己免疫疾患に対するペプチド治療が行われているが本邦では皆無である。今後は変異TSHRペプチド治療と免疫調節性ペプチド:Treg誘導ペプチド[Blood 2008:112:3303]を用い、in vivo において効率的なTreg誘導を行なうことによって、TSHR特異的Tregの効果が増強されることに期待が持たれる。
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Causes of Carryover |
研究において必要な抗体とELISAキット購入に関して、発注が3月であり当該年度内であったものの、海外生産のために納期が遅れ次年度4月以降となった。このため次年度使用額が生じた。
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