2018 Fiscal Year Research-status Report
断片化抗CD3抗体による免疫調節と自己免疫疾患治療
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17K10001
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
水井 理之 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (30423106)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | T細胞受容体 / 自己免疫疾患 / 抗CD3抗体 / Fc不活化 |
Outline of Annual Research Achievements |
T細胞受容体(TCR)の発現を調節することによって、自己免疫疾患の組織傷害や抗体産生を抑制できる可能性について、検証を行っている。TCR の発現量と自己免疫疾患の関連性の発端は、SLE モデルマウスで TCR コンポーネントである CD247 をヘテロで欠損させた場合に、自己免疫疾患が著明に軽快すること を見出したことであるが、その後の解析にて自己抗体産生が CD247(+/-) マウスで有意に減少していること、免疫細胞数や TCR シグナルは CD247(+/+)と同等であるが、TCR 発現量が約 30%減弱 していることが判明した。外来抗原で免疫した際にも抗原特異的抗体産生が低下していたことから、TCR 発現量低下が抗体産生減少を引き起こす可能性が示唆されたため、治療的介入によりTCR発現を低下させると抗体産生や組織傷害を軽減させることが可能か否かを明らかにすることを目的としている。方法としてはTCR発現を低下させる効果のある抗CD3抗体を用いている。これまでヒトにおいて移植医療として使用されてきた抗CD3抗体(OKT3)は、その副反応が強いこともあり十分な効果を見いだせず、現在は販売中止となっている。今回用いている断片化抗CD3抗体(Anti-CD3eF(ab’)2)等の抗体を用いたTCR発現量調節による治療について、前年度の研究ではSLEモデルであるMRL/lprマウスへの抗体産生抑制、組織傷害抑制効果は明らかではなかった。この理由として、抗体の半減期が短く大量頻回投与が必要であることや、TCR発現調節能が低い可能性があることが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度までの結果をふまえ、断片化抗体にとどまらず、効果の高い方策を考慮する必要性が生じた。そこで、抗体のFc部位を不活化することによって副反応を最小限に減弱するとともに、抗体半減期を大幅に上昇させる効果を期待したHamster由来の抗CD3―Fc不活化抗体(CD3-silent)を入手し、通常の抗CD3抗体との相違をあわせて検討した。Silent抗体はVitroにおいてはT細胞活性化能が失われていることを確認したが、Vivoにおいては通常のCD3抗体と同様の動態を示した。すなわち、末梢血T細胞数の減少、TCR発現の低下と弱いCD69、CD25発現誘導がいずれも認められた。しかし、MRL/lprマウスにCD3、CD3-silent抗体を一定期間投与した結果、いずれの抗体もコントロールに比し有意な疾患軽減を呈さなかった。これは、すでに自己抗体価が100万倍を超えた状態で、疾患が進行している条件下で投与を開始したため、傷害軽減を見出すほどの効果が得られなかった可能性や、本モデルにおいてはT細胞が腫瘍性に増殖するため、抗体のDoseをかなり増量する必要があり、抗体としての機能が十分ではなかった可能性が示唆される。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は、Mouse由来の抗CD3抗体を使用して、MRL/lprのみならずNZB/Wなどの他のSLEモデルや、実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルなどに対する効果を検討しているところである。Mouse由来のFc-silent抗体は、Mouse由来の通常の抗CD3抗体に比し、TCR発現抑制効果がより長期であることがわかった。また、抗体投与により、リンパ節内にとどまるT細胞が上昇することによって末梢血中リンパ球減少が誘導されることも明らかにしつつある。
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