2017 Fiscal Year Research-status Report
酸化鉄ナノ粒子を用いた粘膜免疫を標的とする新規肺炎球菌ワクチンの開発
Project/Area Number |
17K10013
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
石井 恵子 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (00291253)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ナノ粒子ワクチン / 肺炎球菌 / 酸化鉄ナノ粒子 / 粘膜免役 |
Outline of Annual Research Achievements |
髄膜炎などの重篤な侵襲性感染症を起こす肺炎球菌は多糖からなる莢膜を有し、多糖の血清型により90種以上に分類される。莢膜を持つ微生物が貪食細胞によって排除されるには、補体あるいは抗体によるオプソニン化が必要であるが、補体の結合や活性化を阻害するメカニズムを持つ肺炎球菌ではオプソニン抗体が重要となる。研究代表者のグループは、糖を認識するC型レクチン受容体(CLRs: C-type lectin receptors)のうちDectin-2が肺炎球菌の認識に関わり、それが未同定の細胞からのインターフェロン-γ(IFN-γ)の産生につながり、結果として、感染初期にもかかわらず、オプソニン効果が高いIgG3の産生が高まることを見出した。Dectin-2のリガンドについては肺炎球菌莢膜多糖成分であることを明らかにしている。 現在肺炎球菌ワクチンとして、23種の血清型に対する23価莢膜多糖ワクチンと多糖に無毒化毒素を結合させた13価コンジュゲートワクチンが用いられるが、ワクチンに含まれる血清型による発症が抑制される一方で、含まれない血清型による発症が増加するセロタイプリプレイスメントが起こり、問題となっている。この問題を解決するには、血清型に影響されないタンパク質を抗原とする新規ワクチンの開発が必要である。本研究は、強い抗原性をもつpneumococcal surface protein (PspA)を抗原として用い、独自に開発した酸化鉄ナノ粒子を用いて抗原を粘膜に保持することで、粘膜免疫を誘導するワクチンの開発を目指している。酸化鉄ナノ粒子は肝臓や脾臓などで貪食細胞に捕捉されることから、粘膜の貪食細胞を活性化することが期待される。これまでに、タンパク質と酸化鉄ナノ粒子の結合に6個のアルギニンが有用であることを確認している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度は、①タンパク質抗原PspAおよび酸化鉄ナノ粒子に結合させるために6個のアルギニンを付加したPspA-Argを作製し、②それらの抗原性を解析した。また、③PspA-Argが酸化鉄ナノ粒子に結合することを確認した。 ① PspAおよびPspA-Argの作製:明田幸宏博士(大阪大学)より供与されたプラスミドpUAB055を用いて大腸菌BL21(DE3)内でPspAを発現後、His-Tagを利用してPspAを精製した。pUAB055にリンカーと6個のアルギニンに対応する遺伝子配列を挿入してpPspA-Argを作製し、同様の方法でPspA-Argを精製した。 ②酸化アルミニウムあるいはβ-cyclodextrinをアジュバントとして添加したPspAでマウスを2回免疫(腹腔内)したところ、3週後に血清IgGの強い誘導が認められた。一方、アジュバントを添加しない系でIgGおよびIgMがわずかに上昇したことから、大腸菌由来のリポポリサッカライド(LPS)の混入が疑われた。TLR4変異マウスの骨髄由来樹状細胞を用いてLPSの混入を確認したため、LPSの除去を試みた。混入LPSは、ProteoSpin Endotoxin Removal Kit-For Proteins and Peptides (Norgen Bioteck) を用いることにより、除去することが可能であった。 ③ PspA-Argと酸化鉄ナノ粒子の結合は、結合しなかったPspA-Arg量を定量することにより確認した。粒子100 μgを飽和するPspA-Arg量は 1.5 μgであった。 混入LPSの除去方法の確定に時間がかかったが、H30年度中に遅れを取り戻すことができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
酸化鉄ナノ粒子にPspA-Argを結合させたナノ粒子ワクチンNPV-PspAをマウス鼻腔内に接種し、①粘膜免疫が誘導される条件、②ワクチンの鼻腔内分布および中枢神経移行、③粘膜および全身性の抗体産生様式などについての基礎検討を行う。次いで、④NPV-PspAによる免疫成立後に肺炎球菌を経鼻感染させる系で肺炎球菌感染に対する免疫応答を解析し、NPV-PspAの有用性を明らかにする。 ① 酸化鉄ナノ粒子が単独でアジュバントとして機能するかを、鼻腔内IgA産生により評価する。不十分である場合はToll様受容体やC型レクチン受容体のリガンドなどを追加することを考慮する。 ② 鼻腔投与したNPV-PspAの分布を小動物用MRIで画像化し、詳細な臓器分布についてはNPV-PspAを蛍光標識して病理学的に解析する。臭球および脳内の鉄量をinductively coupled plasma (ICP)法により定量することにより、NPV-PspAの中枢神経移行の有無を明らかにする。 ③ 粘膜局所および全身性のPspA特異的IgM, IgG1, IgG2a, IgG2b, IgG3, IgA抗体価の測定により、抗体産生様式を明らかにする。 ④ NPV-PspAによる免疫が成立したマウスに致死量の肺炎球菌を感染させ、人道的エンドポイントによる生存率、および鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液、鼻腔組織、肺組織、血中における肺炎球菌の生菌数により防御効果を明らかにする。また、肺炎球菌感染後、好中球数、各種サイトカイン・ケモカイン産生量を測定するともに、誘導されるTヘルパー細胞のタイプや鼻腔粘膜でIgAを産生するB細胞を同定する。以上を総合し、NPV-PspAによる粘膜免疫応答メカニズムを明らかにする。
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