2017 Fiscal Year Research-status Report
胎生期の低栄養環境による精巣機能障害の発症機序の解明
Project/Area Number |
17K10074
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
藤澤 泰子 浜松医科大学, 医学部附属病院, 講師 (40402284)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | DoHAD / 母体低栄養 / 子宮内発育遅延 / 精巣機能不全 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は仮説「胎生期の低栄養環境は出生後の精巣機能障害や生殖機能障害を引き起こす」を検証し、そのメカニズムを探ることである。そのために、母獣摂餌制限を行い、出生直前の胎仔{胎生(E)17.5)および出生後6週齢のマウス精巣について、解析を行った。妊娠マウス(野生型C57BL/6)を、自由摂餌群(C群)と栄養制限群(妊娠6.5日から総カロリーをC群の50%に制限:R群)の2群とした。仔の出生体重は、R 群においてC群より35%小さく、母体の低栄養状態による子宮内発育遅延が引き起こされた。R群の胎仔精巣(E17.5)において、テストステロン(T) 産生関連酵素Star、Cyp11a1、Cyp17a、Hsd3b1、Hsd11b3の遺伝子発現は、有意に低下していた。これらの酵素発現の挙動と一致して胎仔精巣内T濃度は、R群においてC群の5 0%程度にまで低下していた。しかし、生後6週では両群間の差は遺伝子発現と精巣内T濃度ともに認められなくなっていた。 生後6週の時点でR群の精子数はC群の56%まで減少していた。精巣重量および精子運動能は2群間の差はなかった。生後6週の精巣発現遺伝子の網羅的解析にてセルトリ細胞に関連する複数の遺伝子の発現低下が明らかになった。今年度の研究によって胎生期の低栄養環境が、胎仔精巣のテストステロン産生障害と成長後の精子形成障害を引き起こすことを明確にすることができた。今後は、胎生期における低栄養環境によるライディッヒ細胞(テストステロン産生を担う)特異的影響に関して、エピジェネティックな観点からの解析を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、マウスを用いた実験がスムーズに進み、母獣摂餌制限による子宮内発育遅延モデルマウス作成の系を確立することができた。また、非常に小さいサイズの胎仔精巣の取り扱いや、精巣内テストステロン測定、精子数のカウントといった、われわれの実験室としては初めての実験主義も多く、これらの確立が本研究の最初の課題であったが、連携研究者との協力により順調に系の確立が可能となった。さらに、研究の当初に立てた仮説どおり、胎正期に低栄養環境に置かれたマウスの成長後の精子数の減少を確認することができたことは、本研究の今後の進捗において重要な成果であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次に明らかにしたいことは、胎仔精巣でのテストステロン産生障害のメカニズムである。母獣摂餌制限下では、胎仔精巣におけるライディッヒ細胞特異的遺伝子が特に影響を受けた。その背景として、ライディッヒ細胞特異的なエピジェネティック修飾がおきている可能性を考えて、実験を進めている。具体的には、研究協力者である九州大学 諸橋憲一郎教授より分与されたAd4bPAd4BP-EGFP-Tgマウスを用いて、栄養制限実験を行い、胎仔精巣からライディッヒ細胞のみをフローサイトメトリーにて分離し、その遺伝子発現およびエピゲノム修飾解析を進めていく予定である。 また平行して、性分化に関する遺伝子のKO マウス (Mamld1, Ad4BP) における、胎生期低栄養環境と性分化および精巣機能の評価を行い、遺伝的要素と環境要素の相互作用を調べる、
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Causes of Carryover |
本研究は、平成28年度を最終とする研究費によるプロジェクトからの継続研究であり、マウスをはじめとした動物実験に関しては、この研究費より供出した。また、分子生物学的検討に必要となったキットなどは、他のプロジェクトと共通するものがほとんどであり、それらの共通試薬を使用したため、平成29年度は本研究費からの供出が不要であった。次年度平成30年度は、ここまでで確立した実験系にて、網羅的遺伝子発現解析や網羅的メチル化解析を予定しており、次年度使用額および平成30年予定額を運用して研究を遂行する予定である。さらに各種KOマウスでの実験も予定しているため、実験動物費用も昨年より多く必要となると予想されるため、こちらでも使用する予定である。
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