2018 Fiscal Year Research-status Report
肺炎球菌ワクチン導入後、ワクチン不応株感染症増加を招いた細菌側・宿主側因子の解明
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17K10097
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
石和田 稔彦 千葉大学, 真菌医学研究センター, 准教授 (30344980)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 肺炎球菌 / 13価肺炎球菌結合型ワクチン / 特異抗体価 / 血清型12F / 無莢膜株 / 上咽頭保菌 / 侵襲性肺炎球菌感染症 / バイオフィルム |
Outline of Annual Research Achievements |
1.千葉県内を中心に、小児侵襲性肺炎球菌感染症症例から分離された肺炎球菌株について血清型解析を継続的に実施した。2018年分離株は全て13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)非含有血清型であった。2017年に急増していた血清型12Fは減少していた。数種類の遺伝子解析方法:Multilocus sequence typing(MLST)・pulse field gel electrophoresis (PFGE)・multilocus variable-number tandem-repeat analysis(MLVA)を用いて検討したところ、流行していた12F型は類縁性の高い株のアウトブレイクと考えられ、MLVAが最も解析に優れていた。この結果をまとめて、現在、論文投稿中である。 2.保育園児の上咽頭保菌調査も継続的に実施した。2018年の保菌株に関しても、PCV13接種回数に関わらず、全てPCV13非含有血清型となっており、その主体は、血清型15A、35Bなどの多剤耐性傾向のある血清型であった。血清型12Fを保菌している者はいなかった。また、多剤耐性傾向があり、バイオフィルム産生能が高い無莢膜株も分離され、同一の遺伝子型株が同一保育園に通う小児から分離されたことから水平伝播している可能性が示唆された。このデータに関して、論文公表を行った。なお、1人の保育園児から、PCV13含有血清型を含む複数の肺炎球菌血清型が分離されるかどうかについて検討を行ったが、基本的には1種類の血清型のみが認められた。 3.血清抗体価測定に関しては、小児無脾症患者検体を用いて検証し、無脾症患者は同じ年齢層の健常小児に比較し、PCV13含有特異抗体価が低いことを明らかにした。この結果について国際学会で発表を行った。また、PCV13非含有血清型侵襲性肺炎球菌感染症症例の検体収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)導入後、問題となっている非PCV13含有肺炎球菌株である血清型12Fの特徴を明らかにした。このことは、本研究のテーマの1つである肺炎球菌ワクチン導入後、増加しているワクチン不応株の細菌側因子の解明につながり、かつ、今後予定している動物実験において検討すべき肺炎球菌血清型として、血清型12Fに対する免疫応答が重要であることを決定づけた。 2.保育園での詳細な調査により、PCV13接種者は接種回数の状況に関わらず、PCV13含有血清型の肺炎球菌を保菌しなくなることを明らかにした。同時に、保菌株の主体は、薬剤耐性菌やバイオフィルム産生能の高い株であり、侵襲性感染症の主体となる血清型12Fは保菌していないことから、肺炎球菌保菌とワクチン不応株による感染症の増加には関連性は認めるものの必ずしも一致していないことを示唆する結果が得られた。 3.宿主側の要因解析に関しては、基礎疾患を有する者は、肺炎球菌特異抗体価がもともと低いことが、感染のリスク因子になりPCV13の積極的な接種を促す根拠となる知見が得られた。 4.ワクチン非含有株に関する抗体測定とオプソニン活性測定については、PCV13接種済で、PCV13非含有血清型による侵襲性感染症症例の検体収集を継続的に行っており、解析に適切な検体を確保することが出来ている。PCV13非含有血清型の抗体、オプソニン活性測定については、血清型10A、12Fを主体に、6C、22F,33Fについて測定する予定で準備を進めている。 5.細菌側と宿主側の応答を同時に明らかにする動物実験に関しては、まだ実施していないが、実験手順と必要な解析方法に関しては決定しており、新たな免疫原性の評価として、肺炎球菌特異的メモリーB細胞数の測定をELISPOT法を用いて検討することを決め、実験準備を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.2019年度も侵襲性感染症株の解析と保育園児の保菌調査から得られる肺炎球菌株の解析を継続し、新たに問題となる肺炎球菌株の検出状況についてモニタリングを行う予定である。新たに問題となる13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)非含有血清型の肺炎球菌が出現した場合には、現在、行っている研究の検討株の1つとして解析に加えることで、新たな知見を得ることが出来ると考えている。 2.2019年度前半に、保存済のPCV13既接種者でPCV13非含有血清型による侵襲性感染症を惹起した症例の急性期と回復期の検体を用いて、PCV13含有血清型肺炎球菌と感染症の原因となった血清型の肺炎球菌特異抗体価とオプソニン活性を測定し、宿主側の免疫原性の評価を行う。可能であれば、PCV13ワクチン未接種で、PCV13非含有血清型株による侵襲性感染症症例の検体を収集し、非ワクチン株によるPCV13接種の有無による免疫応答の違いを比較検討する。 3.基礎疾患を有する症例と基礎疾患のない症例のPCV13接種によるPCV13血清型とPCV13非含有血清型に対する免疫応答の違いを比較検討する。検討方法としては、肺炎球菌血清型特異抗体とオプソニン活性の他に、肺炎球菌血清型特異的メモリーB細胞数をELISPOT法を用いる。 4.PCV13接種の有無によるPCV13非含有血清型株に対する免疫応答を比較するため、マウスをPCV13接種群と非接種群に分け、両群に血清型12F株を感染させ、臨床症状と免疫原性の違いを評価する。免疫原性の評価には、肺炎球菌特異抗体価、オプソニン活性測定の他に、肺炎球菌特異的メモリーB細胞数をELISPOT法を用いて検討する予定である。
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Causes of Carryover |
侵襲性感染症由来株のうち、12F型以外の血清型が特異的に増加する傾向が認められなかったため,、解析費用が当初予定していたよりも少額で済んだ。 2019年度初旬に抗体測定法とオプソニン活性測定法を確立し、実際の検体を用いた測定を実施するため、その費用として使用する予定である。 また、PCV13ワクチン接種前後、動物実験で、特異抗体価測定、オプソニン活性測定以外に特異的なメモリーB細胞数についてELISPOT法を用いて検討する予定であり、測定に必要な試薬と動物実験に関わる費用として使用する予定である。
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[Journal Article] 保育園児から分離された肺炎球菌の薬剤感受性、血清型推移について2018
Author(s)
和田 紀之, 黒澤 サト子, 菅野 明則, 牧野 郁夫, 萩原 温久, 細部 千晴, 伊藤 圭子, 柴田 雄介, 時田 章史, 白井 泰生, 諏訪 美智子, 千葉 昭典, 泉田 直己, 沼口 俊介, 塙 佳生, 竹内 典子, 石和田 稔彦
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Journal Title
東京小児科医会報
Volume: 36
Pages: 37-40
Peer Reviewed
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