2017 Fiscal Year Research-status Report
ポドサイトのミトコンドリア機能を標的としたネフローゼ症候群の新規治療戦略の構築
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17K10154
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
阿部 祥英 昭和大学, 医学部, 講師 (10384447)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ポドサイト / ミトコンドリア / ミゾリビン / TGF-beta1 |
Outline of Annual Research Achievements |
ネフローゼ症候群の治療薬として用いられる免疫抑制薬のミゾリビン(MZR)がポドサイトのミトコンドリア機能に変化を与えるかを検証するため、以下のIとIIを検討した。 I. MZRの尿中濃度と基礎研究で使用されるMZR濃度との差異 細胞実験に使用するMZR濃度が人体で作用する濃度と差異がないかを確認するため、小児期発症腎疾患患者(26名)におけるMZR投与量と尿中濃度の関連性を評価した。得られた主なパラメータは、平均投与量5.5 ± 3.6 mgにおいて、最高血中濃度(Cmax)2.0 ± 1.3 μg/mL、尿中濃度114.6 ± 116.3(μg/mL)であった。つまり、尿中濃度はCmaxの約50倍であり、基礎研究で使用されるMZR濃度(50 μg/mL)と同等であった。ポドサイトは尿中濃度と同等のMZRに曝露される可能性があり、既報の基礎研究との乖離はないと判断される。 II. TGF-beta1(TGF)が惹起するポドサイト障害に対するMZRの抑制効果 培養マウスポドサイトを用い、TGFによって惹起される既知のポドサイト障害をMZR(0.5~500 μg/mL)が抑制するかを評価した。その結果、以下の4つの知見を得た。1. MZRは濃度依存性にマウスポドサイトのATP産生を抑制し、TGFによる増加も抑制する。2. MZR は細胞毒性を有さない。3. MZR単独ではミトコンドリア膜電位、酸素消費速度(OCR)、細胞外酸性化速度(ECAR)に影響しないが、TGFが与える変化は抑制する。4. MZRは活性酸素(ROS)の産生やアポトーシスを抑制しない。よって、MZRがポドサイトのミトコンドリア機能や嫌気的解糖に変化を与えるが、MZR単独ではOCR、ECAR、ROS産生、アポトーシスに影響せず、TGFが与える変化にのみ抑制効果を有することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度の研究実施計画は、I. ネフローゼ症候群患児におけるミトコンドリア機能の尿中バイオマーカーの確立と、II. ポドサイトにおけるミトコンドリア機能の障害因子の探索・同定、の2つである。 Iについては、ミトコンドリアの膜透過機構を調整するcyclophilin Dと酸化ストレス障害の指標である8OH-dGを定量し、ネフローゼ症候群患児と健常児で比較する予定であったが、検体数が十分に確保できなかった。 IIについては、TGF-beta1と免疫抑制薬であるミゾリビン(MZR)に関する検討が進み、「研究実績の概要」で述べた知見が得られた。また、平成30年の研究実施計画の一部に予定よりも早く着手することができ、次年度の研究へつなげ、成果を得るのにある程度の準備は整ったと判断している。特に、ポドサイトの酸素消費速度(OCR)、細胞外酸性化速度(ECAR)を評価するために必要な適正細胞数、薬剤の適正濃度、薬剤の曝露時間をある程度確定できたことは当初の予定以上の進捗である。 上記の2つの項目とは別に、ミトコンドリアに作用する物質としてアディポネクチンに着目し、ネフローゼ症候群患児の発症時、蛋白尿消失直後、寛解期におけるアディポネクチン値を測定した。その結果、発症時、蛋白尿消失直後はアディポネクチン値が高く、分画が変動することも見いだした。アディポネクチンがネフローゼ症候群の病勢改善に関わっている可能性があり、新たな研究項目として追加することを考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究実施計画のうち「ネフローゼ症候群患児におけるミトコンドリア機能の尿中バイオマーカーの確立」が予定通りに進まなかった。サンプル数の獲得のため、関連病院も含め、協力を要請する。 平成29年度の研究実施計画とは別に、ネフローゼ症候群患児の発症時、蛋白尿消失直後、寛解期における総アディポネクチン値とその分画の変動が病勢に関わる可能性があることを見いだした。アディポネクチンはミトコンドリア機能に作用する物質の一つとして知られており、研究課題である「ポドサイトのミトコンドリア機能を標的としたネフローゼ症候群の新規治療戦略の構築」を進める上でも一助になる可能性があり、新たな研究項目として追加する。
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Causes of Carryover |
平成29年度の研究実施計画のうち、「ネフローゼ症候群患児におけるミトコンドリア機能の尿中バイオマーカーの確立」が予定通りに進まなかったため、尿中バイオマーカーの測定に必要なキットを購入できなかった。関連病院も含め、協力を要請し、サンプル数を獲得後、ミトコンドリアの膜透過機構を調整するcyclophilin Dと酸化ストレス障害の指標である8OH-dGの測定に必要なキットの購入に使用する。
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