2017 Fiscal Year Research-status Report
子宮内低灌流に起因する低出生体重児の脳神経障害の発症機序解明
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17K10200
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
辻 雅弘 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (80579467)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小川 優子 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 非常勤研究員 (00454497)
大谷 健太郎 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 研究員 (50470191)
梅澤 雅和 東京理科大学, 研究推進機構総合研究院, 研究員 (60615277)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 子宮内低灌流 / 低出生体重児 / 発達障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、胎児発育不全(FGR)・早産・低出生体重児の脳障害、すなわち、未熟脳に起因する脳障害が増加している。重症例は脳室周囲白質軟化症(PVL)を呈し、脳性麻痺や精神遅滞を来す。一方、軽症例では脳画像検査で軽微な異常(白質容量の軽度減少)を呈するのみであるが、一部の児は学童期に発達障害と総称される注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム障害等を呈する。FGR・早産・低出生体重児の脳障害は、脳の未熟性に脳循環不全や感染等が加わり引き起こされるとされているが詳細は不明である。重度の子宮内虚血(一過性完全虚血負荷)モデル動物は多数存在するが、軽度の子宮内慢性低灌流モデルは、フランスCNRS(国立科学研究センター)のCoqらのモデルしかなかった。それは妊娠ラットの子宮動脈1か所を結紮(=血流遮断)し、血流勾配によって一部の胎仔に低灌流負荷を与えるもので、再現性の低さ・個体差の大きさが難点である。我々はCoqらと共同で、彼らの糸結紮モデルの改変・改良を行った。子宮を灌流する全ての動脈(左右の子宮動脈と卵巣動脈の計4本)に微小金属コイルを巻き付け、臨床病態に即した穏やかな子宮内低灌流負荷を全ての胎仔にかけることによって、形態学にも行動学的にもヒトと同様な症状を呈するモデルラットの開発に成功した(Ohshima et al., Sci Rep 2018)。本モデルは早産でほぼ全ての新生仔が-2SD以下の低出生体重となる。明確な行動障害を呈すると共に、軽度だが明確な形態・組織学的変化を来す。すなわち、新生児反射の獲得遅延や小児期における自発運動の変化(多動等)を呈し、大脳白質・皮質容量の減少(脳梁の菲薄化や脳室拡大)を来す(しかしPVLのような組織壊死等は伴わない)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
子宮内低灌流に起因する低出生体重児の脳神経障害の発症機序解明のために、最近我々が独自に開発したモデルラットを用いて研究を行なった。 まず、本モデル作製手技をビデオ論文として発表した(Tsuji et al., J Vis Exp 2018)。 本モデルを作製し、低出生体重で多動を呈する個体とそうでない個体を特定しておいてから、脳を液体窒素に浸けて急速凍結した。薄切切片を用いて、MALDIイメージング質量分析を行なった。各種低分子の可視化を試み、条件設定をほぼ完了した。このことによって、側坐核などの特定部位においてドーパミンなどの神経伝達物質が高濃度に集積していることが可視化できるようになった。 赤外顕微マッピング解析は、本子宮内低灌流モデルではなく、まずは新生児低酸素性虚血性脳症モデルラットで解析条件設定をより詳しく行なった。 Coqらと共同研究を進めた。Laser speckle flowmetryによって、子宮内の位置による胎仔血流低下の程度にあまり差が無いことを確認した。電気生理学的検討によって、子宮内低灌流―低出生体重モデルにおいては、GABAニューロンによる電気的興奮の抑制が弱いことを明らかにし、それらはClチャンネルの機能低下によることを検証した。以上の結果を共著論文として投稿した(Coq et al., Front Neurol, under revision) 以上のように、当初から計画していた赤外顕微マッピング解析は計画よりもやや遅れているが、当初予定していなかったイメージング質量分析などは大きく進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に、当初の研究計画に沿って、今後の研究を推進して行く。 本モデルにおけるMALDIイメージング質量分析を進める。同解析によって得られた知見を元に、側坐核など、神経伝達物質が高濃度に集積している部位に限定して試料を採取し、メタボローム解析を行う。 本モデルを用いて赤外顕微マッピング解析を実施し、微小血管からの距離に応じて、脳組織の蛋白質二次構造が、子宮内低灌流によってどのような影響を受けるのかを明らかにする。 上記の解析を、子宮内低灌流ー低出生体重モデル群と擬手術群を比較しながら行う。また、行動障害の程度との関連も検証する。以上の検討から、子宮内低灌流が神経発達障害を来す機序を明らかにするとともに、発達障害の早期診断の為のバイオマーカー同定を目指す。
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Causes of Carryover |
顕微赤外マッピング解析の計画より進行が遅かったため、当年度の使用額が少なくなった。その分、次年度に多くの解析をまとめて実施する計画であり、使用額も増えるため、そのように次年度使用額が発生した。
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Research Products
(5 results)