2018 Fiscal Year Research-status Report
色素細胞特異的な白斑誘導物質の細胞障害性評価系の確立と障害メカニズムの解明
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17K10248
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Research Institution | Gifu Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
井上 紳太郎 岐阜薬科大学, 薬学部, 特任教授 (00793853)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水谷 有紀子 岐阜薬科大学, 薬学部, 特任准教授 (30396296)
石塚 麻子 岐阜薬科大学, 薬学部, 研究補佐員 (50727203)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 化学白斑 / ロドデンドロール / 細胞障害性 / メラノーマ |
Outline of Annual Research Achievements |
ロドデンドロール(RD)含有美白化粧品使用者に尋常性白斑類似の色素脱失症が出現した。RDはチロシナーゼ(TYR)活性依存的にメラノサイト(MC)特異的な細胞障害を惹起すること、一方でNRF2酸化ストレス(OS)応答系を活性化し細胞障害を防御することを見出し、両者のバランス破綻が色素脱失発症の要因である可能性を示した。しかし、正常MCでは細胞株や条件の違いによりRD感受性が大きく異なるという問題点があった。本研究は、白斑発症リスク物質を安定評価できる遺伝子改変メラノーマ(ML)株作出による高汎用性評価系の確立、MC障害メカニズム解明による診断・予防・治療法の提案を目的とした。 細胞接着性と増殖能を基準に選んだML6株の中からRD細胞障害性(IC50値:3.1~10 mM)と TYR mRNA発現量を考慮してゲノム編集用としてA2058株を選択しNRF2のノックアウト(KO)クローン株を作出した。DNA配列変化とNRF2タンパク質の消失を確認し、TT⇒G置換およびGATT欠損の2種の株を得た。NRF2陽性対照クローン株と比べKO株のRD感受性は差がなかったが、NRF2活性化剤処理ではNRF2のKO株にも関わらず予想に反しNRF2標的遺伝子群が誘導された。同様にH2O2による細胞障害性にも差がなかったことから、本株ではRDやOSによる細胞障害性防御にNRF2は関与せず、未知の転写因子誘導による抗酸化酵素群が寄与している可能性が示された。上記4クローンはA2058株に比べTYR mRNAを高発現したが、TYR のノックダウンによってもRD感受性に大差なく、他のML株でも同様の結果が得られた。 以上、MLではMCと異なり、RD細胞障害性はTYR非依存的であり、RDやOS細胞障害性防御にNRF2が関与していないことが示唆され、MLは白斑リスク物質の評価用細胞として適さないことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
メラノーマによる白斑リスク物質の評価系の確立を検討すべく、ヒトML株XX株の中から、細胞接着性・増殖性・TYR遺伝子発現量を考慮してA2058株を選択し、ゲノム編集により変異の異なる2種のNRF2KOクローン株を作出した。しかし、正常MCではNRF2mRNAのノックダウンによりRDに対する細胞障害性(RD感受性)は増強されたのに対し、NRF2のKOクローン株では予想に反してRDのみならずH2O2による細胞障害性にも差がなかった。そこで、2種のクローン株について、陽性対照の2種のクローン株とともに、NRF2遺伝子が本当にKOされているか?、NRF2活性化剤処理により下流のNRF2標的遺伝子群(GCLC, HO-1, NQO-1)が誘導されていないか?、などの検証実験を多数行う必要があった。結果として、用いたML細胞では、NRF2非依存的な抗酸化遺伝子群の存在が示唆され、正常メラノサイトとは異なり白斑リスク物質の検出を妨げている因子の存在が考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
化学白斑リスク物質の評価系として、RD細胞障害性が不安定なMCの変わりに、MLのNRF2遺伝子KOクローンを用いるという方針は、NRFがKOされていても酸化ストレスによって抗酸化系酵素群が誘導されるため困難であった。NRF2以外の因子による抗酸化酵素群遺伝子転写の増強メカニズムの解明は、本研究の目的の達成、およびがん細胞の酸化ストレス耐性能獲得メカニズムの解明などに有用と考えられる。しかし、残存研究期間を考慮し、第一優先として、MLではなく不死化MC株を用いた化学白斑リスク物質の評価系確立を優先する。ただし、NRF2以外の抗酸化系酵素群の誘導メカニズムについても随時検討を継続する。 不死化法には腫瘍抑制遺伝子の活性化法があるが、リソソーム生合成の増強など細胞の代謝変化を伴うことが知られており、今回はテロメア逆転写タンパク質(TERT)の発現を介する不死化MCを用いる。hTERT導入不死化MCについてRDの細胞傷害性を評価し、MCで見られたようなTYR依存性やNRF2活性化による細胞障害性の低下などを調べ、高感度で安定的にリスク物質の評価ができるかどうか、ゲノム編集によるNRF2のKOが可能か、必要か、などを優先的に検討する。RDの評価が可能であれば、化学白斑や尋常性白斑を発症させることが臨床的に明らかになっている他の化合物の検出が可能かどうかを検討する。対象となる化合物は、モノベンゾン、t-ブチルフェノールなどのフェノール性化合物である。さらに、白斑発症が報告されていないフェノール性化合物、非フェノール性だが白斑発症が報告されている化合物(スルフィドリル化合物、ベンジル化合物、フェルフェナジン、アザレイン酸など)についても検討する。さらに RD細胞障害性に影響を与えるNRF2系以外の標的分子を評価することで、そもそも化学白斑を発症しやすいリスク要因を探りたい。
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