2018 Fiscal Year Research-status Report
回復しないうつ病への新治療戦略:末梢-中枢双方向からの神経新生促進と神経回路調整
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17K10278
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
橋本 恵理 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (30301401)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 美佐 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 精神薬理研究部, 科研費研究員 (10384182)
鵜飼 渉 札幌医科大学, 医療人育成センター, 准教授 (40381256)
木川 昌康 札幌医科大学, 医学部, 助教 (50581146)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 神経科学 / 脳・神経 / 精神疾患 / うつ病 / 難治性うつ病モデル / うつ病モデルラット / BDNF |
Outline of Annual Research Achievements |
臨床現場においては、遷延化・難治化を呈するうつ病の存在が大きな問題となっている。本研究は、このような、標準的な抗うつ薬治療では回復しないうつ病に対する、より有効な治療ストラテジーの確立を目指すものである。既存の抗うつ薬治療が奏功しない以上、抗うつ薬の作用機序を追い続けているだけでは求める答えは得られず、従来とは異なる切り口での病態理解および治療ターゲットの検索が必要と考えられる。そこで、アルコールがうつ病の治癒阻害因子として働くことに着目し、胎児期アルコール曝露と若年期のコルチコステロン投与の二重のストレスを組み合わせることで、新たに難治性うつ病モデル動物を作製した。 コルチコステロン投与のみの通常のうつ病モデルにおいては、抗うつ薬の単独投与で強制水泳試験における行動異常の改善が認められるが、昨年度の研究により、難治性うつ病モデルでは、抗うつ薬の単独投与で同様の改善がみられないこと、抗うつ薬の種類によって反応性が異なることが認められたため、今年度は、同処置による血液および脳組織中のBDNFレベルの変動に関して検討した。 通常うつ病モデルでは、対照群と比べて血清BDNFレベルの有意な低下を示し、この低下は既存の抗うつ薬の投与によって対照群と同レベルまでの増加が認められた。一方、難治性うつ病モデルでは、対照群と比して血清BDNFレベルの低下はなく、むしろやや高い傾向にあった。また、強制水泳試験において行動異常の改善がみられた一部の薬剤投与によってのみ、血清BDNFレベルの有意な低下が認められた。このような通常うつ病モデルとは異なった動きは、難治性うつ病モデルの側坐核におけるBDNFレベルの変動でも確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究成果を踏まえて、胎生期アルコール曝露とコルチコステロン投与を組み合わせる方法で作製した難治性うつ病モデル動物とコルチコステロン投与のみの通常のうつ病モデル動物を用いて、研究を進めた。各種向精神薬投与による行動薬理学的検索を行った後に血液および脳内各領域の組織を採取し、これらのサンプルを用いてBDNFレベルの変動に関して検討を行った。 難治性うつ病モデルは、通常うつ病モデルと比較して、症状は重篤であり、抗うつ薬単独投与での反応が悪いことに加え、血清BDNFレベルや側坐核でのBDNFレベルの変動に関して通常うつ病モデルと逆の動きがみられる等、難治性うつ病の病態理解と治療的アプローチ検討の上で大変興味深い結果を得た。 2018年9月の北海道胆振東部地震による停電の影響で、一部の細胞や試薬の再調整等が必要となったため、9月以降、研究の一時中断や研究予定の一部変更等の対応を余儀なくされた時期があったが、幸い長期の中断や大幅な研究計画の修正を要する事態には至らず、その後は概ね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究成果のひとつとして、難治性うつ病モデルにおける血清や側坐核におけるBDNFレベルに関して、通常うつ病モデルとは逆方向の動きがみられることが確認されたが、これは難治性うつ病の治療ストラテジーを検討する上で、重要な知見と考えられる。 一般に、うつ病患者では血清BDNFが低値で、抗うつ薬治療によってそれが改善するという報告が多いが、一方で、うつ病治療において寛解に至る群では血中BDNFレベルが低いところから治療効果と共に上昇する傾向があり、抗うつ薬治療が奏功しないうつ病患者では未治療時のBDNFレベルが高いという報告がある。 今回の結果は、難治性うつ病の病態解明や薬物治療の効果予測に関する生物学的マーカーへの応用を考えるための一助となると思われ、今後、他の向精神薬投与時の解析も含め、難治性うつ病モデルに特徴的な治療反応性について検討を進める予定である。 また、これまでに検討した強制水泳試験に加え、社会相互作用試験等を用いた行動評価を進め、難治性うつ病モデルにおける行動面での改善に影響する因子に関してさらに詳細に検討する。
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Causes of Carryover |
北海道胆振東部地震による停電の影響で、研究の一時中断や研究予定の一部変更等の対応を余儀なくされたため、当初予定していた細胞培養および細胞機能評価に必要な物品の購入を一部見合わせ、次年度に回すこととした。 上記の理由で、次年度の助成金と合わせて、今後の研究遂行に不可欠な細胞培養や細胞機能評価等に用いる試薬類の購入に充てる。
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Research Products
(3 results)
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[Journal Article] 深い学びの要 ディープコミュニケーションとは何か どことどこで会話をしているのか.2018
Author(s)
鵜飼渉, 辻野華子, 杉村政樹, 木川昌康, 田山真矢, 石井貴男, 古瀬研吾, 廣瀬奨真, 橋本恵理, 澤田いずみ, 山本武志, 白鳥正典, 河西千秋, 相馬仁.
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Journal Title
医療人育成センター紀要
Volume: 9
Pages: 35-43
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