2017 Fiscal Year Research-status Report
At-211放射線免疫療法のためのCu-64標識抗体PETによる体内分布評価
Project/Area Number |
17K10382
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
金山 洋介 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, 研究員 (60435641)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 標的アルファ線療法 / アスタチン211 / 抗体 / PET / decaborane / At-211 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではα線放出核種アスタチン211(At-211)を用いた放射線免疫療法の実現に向け、抗体分子へのAt-211標識法について検討するとともに、標識抗体の動態を推定・追跡可能にするポジトロン放出核種標識によるPETイメージング法についても検討し、セラノスティクス手法の確立を目指す。 本年度はまずAt-211標識反応時の揮発について検討し、また標識率、放射化学純度検定のためのradio-TLC法を確立した。次に基礎となるAt-211標識法について、生体内標識安定性が高いホウ素クラスター化合物decaboraneを用いた標識法を検討した。抗体分子にdecaboraneを修飾した後、At-211溶液と酸化剤と混合し標識を行った。反応条件の検討により体内動態の検討に十分な放射能のAt-211標識に成功した。またQCM法による分子間相互作用解析によって標識前後で抗体活性が維持されていることを確認した。得られたAt-211標識抗体は担がんマウスに投与し、体内分布を測定した。結果はこれまでに得られたCu-64標識によるPET実験での体内分布と大きく異なっており、血中濃度は投与後16時間の時点で大きく減少しており、また肝、脾、腎への集積が高く腫瘍集積は低い結果となった。一方でAt-211単体での体内分布についても検討し、甲状腺にのみ高い集積が48h後の時点でも見られたが、肝、脾、腎や腫瘍への集積は一貫して低かった。At-211標識decaboraneのの疎水性の高さが標識抗体の動態に影響した可能性が示唆された。 一方で、pretargeting法確立に向け、生体直交型クリック化学による抗体標識法としてCu-64標識NOTA-tetrazineを合成し、TCO修飾抗体分子への結合について検討した。現時点では標識後の比放射能に課題があり、標識条件等の最適化が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の想定と異なりAt-211標識抗体の動態がこれまでにPET実験で得られたCu-64標識抗体の動態と著しく異なっており、目標とするセラノスティクス型抗体の実現のためにはさらなる検討を余儀なくされている。通常、キレーター分子など小分子の修飾で大分子である抗体分子の動態に大きな影響は与えないと考えられていたが、At-211標識とdecaboraneの使用においてはおそらく疎水性が非常に大きいため実際には大きな影響が生じた。 また、研究実施担当者の在籍する理化学研究所神戸事業所とAt-211実験の可能な和光事業所の距離の問題、At-211供給が加速器マシンタイムが律速となり限られることなど研究環境的な問題もあり、スムーズな研究の進行とは言えず、結果に合わせた再実験などに時間を要した面もあった。一方でAt-211を使用せずに進められる検討に関してはおおよそ予定通りに進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
At-211標識抗体の体内動態改善のため、At-211捕捉分子をdecaboraneからSn含有化合物me-MATEに変更するか、もしくは疎水性緩和のためのPEG修飾を検討する。me-MATEはdecaboraneに比較し生体内標識安定性が低いことが問題である。一方でPEG修飾ではどの程度動態を改善できるか、またAt-211標識に影響しないかが鍵となる。いずれの手法も検討する価値があり、実際に実験した結果から最終的なpretargeting、セラノスティクス法への展開に用いるモジュール分子構造に反映させる。 一方でPETイメージングのためのCu-64標識について、pretargeting法によるイメージングや治療法への展開のためには、クリック反応での反応収率と比放射能を向上することが重要な課題となる。この点について改善するため、まず標識化合物の比放射能向上を目指し、microwaveを用いた加熱による標識効率向上を目指す。その後、化合物の安定性、クリック反応の条件検討を行う。Cu-64の半減期では十分な検討が難しい可能性もあるため、より半減期の長いZr-89の使用も検討する。 これらの知見をもとにAt-211標識とポジトロン核種標識を両立させる2種類の補足部位とクリック反応部位を有するモジュール分子の設計と合成を行い、標識、抗体との反応、生体内動態について試験し、問題点の洗い出しと最適化を進め、pretargeting法とセラノスティクス法を実現する抗体標識法を開発する。
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Causes of Carryover |
At-211標識抗体の体内動態が想定外であり、抗腫瘍効果を得るためには改善が必須となったことで当初想定していたよりAt-211標識法の確立が遅れており、この結果をもとにしたモジュール分子開発などに必要な予算が消費されなかった。また、再検討などにより時間がかかったことから、他の研究項目についてもより要素技術にしぼった検討を行うことで、必要予算が縮小された。 次年度は問題点改善のために多くの標識法について検討を展開するため、本年度の残予算をこの開発費に使用する。改善した結果をもとにモジュール分子の開発等も進めることで、本年度使用しなかった分の予算を消費する予定である。また、初年度に比較しAt-211実験を実施するための旅費等も必要となる予定である。
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