2017 Fiscal Year Research-status Report
K-ras/MMP-10シグナル伝達を標的とした抗癌剤耐性膵癌の新規治療法の確立
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17K10697
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
清水 一也 神戸大学, 保健学研究科, 保健学研究員 (50335353)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三好 真琴 神戸大学, 保健学研究科, 助教 (50433389)
堀 裕一 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (80248004)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 膵癌 / 抗がん剤耐性 / CD133 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の全体構想は抗がん剤耐性膵癌幹細胞の新規治療薬とバイオマーカーの開発である。膵臓癌は癌死亡率の第5位にあり、早期診断が困難できわめて予後不良の疾患であり、遠隔転移や局所浸潤が予後を左右する。我々はこれまでに正常膵幹細胞と高悪性度のヒト膵癌細胞が幹細胞マーカー(CD133)を発現することを明らかにした(Stem Cells 2008; Pancreas 2009; Pathobiology 2011)。また、既存の抗がん剤Gemcitabine(GEM)に耐性の膵癌患者から10種類のCD133陽性膵癌幹細胞株を樹立し、細胞外基質を再構築することで自己複製能を獲得することを明らかにした(Shimizu et al. PLoS One, 2013)。さらに、ヒト膵癌幹細胞株がGEMによるヒストンアセチル化を介してK-RasVal/MEKシグナルの下流であるMatrix Metalloproteinase-10 (MMP-10)の発現を促進することも明らかにした(Shimizu et al. Pancreas, 2017)。本研究ではGEM耐性により活性化したK-RasVal/MEK/MMP-10シグナル伝達を標的とした新規治療薬とバイオマーカーの開発を目指す。我々はこれまでに、マウス組織幹細胞にGFP、変異型KRASG12D、変異型p53、cyclin dependent kinase 4を遺伝子導入してマウス人工膵癌細胞を作成している。この細胞は腫瘍形成能・転移能・抗がん剤感受性など様々な点で、臨床で遭遇するヒト膵癌組織と類似している(論文作成中)。当該年度、この細胞を移植し、GEMの長期投与によりGEM耐性マウス人工膵癌細胞を作成することに成功した。親株とGEM耐性マウス人工膵癌細胞の比較から耐性株におけるMMP-10の明らかな発現増強を認めなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) GEM耐性マウス人工膵癌由来膵癌幹細胞株におけるK-RasVal/MEK/MMP-10シグナル伝達機構の解析 (2) GEM耐性マウス人工膵癌阻害薬の同定 初年度は、マウス組織幹細胞に遺伝子導入して樹立したマウス人工膵癌幹細胞株を使って、in vivoで腫瘍形成させたのちにGEMを長期投与して、一旦腫瘍が縮小効果を示したのちに再度増大傾向を示した腫瘍からGEM耐性マウス人工膵癌細胞を樹立した。この耐性株は、in vitroでもin vivoでも親株と比較して明らかにGEM耐性であることを確認した。さらに、親株とGEM耐性マウス人工膵癌細胞を網羅的に解析するためマイクロアレイ解析を行った。しかし、当初、ヒト膵癌幹細胞からの類推で予想されたMMP-10の遺伝子発現やタンパク発現の明らかな増強を認めなかった。また、リアルタイムPCR解析でも確認された。この結果から、変異型KRASG12Dの強制発現することによってK-RasVal/MEK/MMP-10シグナル伝達経路に変化が生じたことによりMMP-10の発現には差異が出なかったと考えた。そのため、GEM耐性膵癌幹細胞の新規治療薬として、GEM耐性マウス人工膵癌細胞を使うことにより、MEK阻害剤とヒストンアセチル化阻害剤を用いてK-RasVal/MEK/MMP-10シグナル伝達経路の活性化されているかどうかの実験は行っていない。 (3) GEM耐性予測因子の同定 初年度はマウス人工膵癌細胞親株とGEM耐性マウス人工膵癌細胞のin vitroやin vivoにおける周囲間質のラミニンとコラーゲンIVの発現を免疫染色やリアルタイムPCR法で測定したところ、GEM耐性マウス人工膵癌細胞において発現の亢進を認めた。以上の結果から、研究目的はおおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、我々が樹立したヒト膵癌幹細胞株とマウス人工膵癌細胞を用いてGEMにより活性化されたK-RasVal/MEK/MMP-10シグナル伝達機構を標的としたGEM耐性膵癌の新規治療薬の開発が目的である。初年度の実績ではマウス人工膵癌細胞親株由来腫瘍にin vivoでのGEM長期投与によりGEM耐性を獲得した腫瘍からGEM耐性マウス人工膵癌細胞を樹立したが、ヒト膵癌幹細胞とは異なり、親株に比べてMMP-10発現の亢進が認められなかったことから、変異型KRASG12Dの強制発現においては親株ですでにK-RasVal/MEK/MMP-10シグナル伝達機構が亢進しているものと結論づけた。今後はK-RasVal/MEK/MMP-10シグナル伝達機構の亢進を認めたヒト膵癌幹細胞由来の腫瘍を形成させ、MEK阻害剤とヒストンアセチル化阻害剤の効果を検討する予定である。一方で、GEM耐性予測因子の同定のために、マウス人工膵癌細胞親株とGEM耐性マウス人工膵癌細胞のマイクロアレイの結果から、候補となる因子(可能ならば分泌因子)を抽出してリアルタイムPCRやWestern blotting法による確認を行い、可能ならばELISA法の確立を行いたい。さらには、マウス人工膵癌親株由来腫瘍にGEMを投与して耐性を獲得する過程での候補分子の変化を検討する予定である。また、がん細胞が分泌するエクソソームが、がん特異性を持つことが明らかになっているので、マウス人工膵癌親株とGEM耐性マウス人工膵癌からエクソソームを分離回収して、エクソソームに含まれる遺伝子やmicroRNAを網羅的に解析することで、GEM耐性に関わる候補分子を同定する予定である。
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Causes of Carryover |
海外発注していた試薬が年度末までに入荷できなかったために、8,683円の繰越し金は発生しました。この金額は次年度物品費(実験消耗品費)として使用する計画である。
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