2017 Fiscal Year Research-status Report
ナノバブル発生技術を用いた脊髄液酸素化による対麻痺への新たな治療法の探求
Project/Area Number |
17K10747
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
秋山 正年 東北大学, 大学病院, 講師 (80526450)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齋木 佳克 東北大学, 医学系研究科, 教授 (50372298)
川本 俊輔 東北大学, 医学系研究科, 非常勤講師 (20400244)
熊谷 紀一郎 東北大学, 医学系研究科, 講師 (80396564)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ナノバブル / 脊髄虚血 / 対麻痺 |
Outline of Annual Research Achievements |
胸部大動脈瘤に対する治療の際の合併症である脊髄傷害は、一度発症すると有効な治療法は確立されていない。本研究では、まだ臨床応用のない微細な気泡(nanobubble)の持つ特異な性質を応用し高度に酸素化された人工髄液を作成、それを髄腔内に潅流することにより、低酸素状態を改善し神経学的予後の改善を試みる。 Nanobubbleとは、液体中に発生する気泡のうち10μm以下の気泡である。この技術を用いて、我々は以前に人工髄液を過飽和酸素化し、腹部大動脈閉塞によるウサギ対麻痺モデルにおいて、虚血前に過飽和酸素化された人工髄液を髄腔に潅流しておくことで、虚血に対する脊髄保護効果を立証した。 今回は、脊髄虚血を起こした脊髄に対して発症後に過飽和酸素化された人工髄液を髄腔内へ投与することにより虚血の改善とそれに伴う神経学的予後の改善が得られるのではと仮説を立て、それを検証することとした。 全身麻酔下で、腹臥位にてL1~L2の高さで切開をおき、カテーテルを脊髄腔内に挿入する。続いて仰臥位とし、ウサギの右大腿動脈から3Frバルーンカテーテルを挿入し15cm進めた腹部大動脈内で拡張させ、15分間血流を遮断し脊髄虚血モデルを作成する。遮断解除15分後より脊髄腔内への人工髄液灌流を開始する。投与時間は1 時間とし、投与中は髄腔内圧をモニターしながら行う。その後鎮静をoff としゲージへ戻す。48時間後に神経学的評価を行う。神経学的評価方法は、modified tarlov scoreを用いたスコアリングにて評価する。神経学的評価後、実験動物を犠牲死させ、脊髄を採取し、凍結固定ならびにホルマリン固定を行う。それらをH-E 染色を行い、病理組織学的に前角細胞の数を比較検討する。また、凍結標本を用いてqRT-PCR、Microarrayを行いDNA変化も合わせて評価しメカニズムを解明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まずは、ウサギを用いた脊髄血液低灌流による対麻痺モデルの作成を試みた。脊髄腔内へのカテーテル挿入方法としては、腹臥位にてL1~L2 の高さで切開をおき、髄腔内に18G カニューラを穿刺しその後ポリウレタンカテーテルを脊髄腔内に挿入する。その後にウサギの右大腿動脈から3Fr Forgarty balloon catheter を挿入し15cm 進めた腹部大動脈内でocclusion させ、15 分間血流を遮断し脊髄虚血モデルを作成した。手技、outcomeともに良好な結果を得ることができたため、同モデルを予定通り採用することとした。 まずは、ナノバブル発生装置を用いた過飽和酸素化人工髄液を作成した。人工髄液にはアートセレブ(大塚製薬)を用いた。前回の研究と同様にpO2>750mmHgの過飽和酸素人工髄液を作成することに成功した。 いずれも順調な経過のため、続いて実際に対麻痺作成後に人工髄液を投与し適切な投与速度を検討した。注入圧をモニタリングしながら施行した。過去のデータを参考にし10ml/hrで投与開始したが、投与開始10分もたたないうちに髄腔内圧30mmHg以上と高い髄腔内圧となってしまうため、投与速度を5ml/hrへ減量し、適宜0.1mlほどドレナージ施行しながら行うことにより適切な髄腔内圧を保持することができたため、5ml/hrで投与する方針とした。 以上の条件を用いて、Sham群5例、虚血群5例、非酸素化人工髄液投与群5例、酸素化人工髄液投与群5例と4群に分けて実験を施行することとした。実際に酸素化人工髄液投与群の実験を施行したところ、虚血群と比較して明らかに神経学的予後の改善が見られた。病理学的評価においても前角細胞も保持されていることが確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点における数匹の実験結果においては明らかに神経学的予後の改善がみられていると思われる。実際脊髄虚血群のウサギは、自力座位の保持が困難であるのに対して、酸素化人工髄液投与群のウサギは、完全な改善とはいかないものの座位保持、hopが可能であった。これからさらに目標数までN数を増やし、統計学的有意差が出るほどのoutcomeが得られるか検証していく。また、病理学的評価においては、第3者の病理医へ評価を依頼し、前角細胞の保持が得られているかを評価する予定である。 課題としては、髄腔内カテーテル挿入が個体によっては困難な症例もあり、手技的な脊髄損傷をきたした症例も見られたため手技の習熟も課題である。改善方法として、穿刺針の鈍化、穿刺部位の工夫をすることにより損傷が見られなくなっている。 また、それぞれの群において、凍結標本を用いた分子病理学的評価を追加する予定である。脳虚血の分野においては多数報告があるものの、脊髄虚血における評価はあまり多くない。今回の実験において、各群においてqRT-PCR、Microarrayを用いて虚血の際に変化をきたすDNAや、酸素化人工髄液投与により得られる変化を評価し、その改善のメカニズムも合わせて解明していく予定である。評価項目としては、Microarrayにて網羅的評価を行い、そこで変化が見られた所見をqRT-PCRにてvalidationする。また、脳虚血時におけるDNA変化の報告が多数あるため、それらの文献も参考にしながら評価項目を検討していく。
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Causes of Carryover |
次年度への繰越金:5,840円、30年度配分額:100万円 合計1,005,840円
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