2018 Fiscal Year Research-status Report
神経活動と末梢血流の多角的光学計測による血行障害への保存療法に対する実験的解析
Project/Area Number |
17K10764
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Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
地引 政利 国際医療福祉大学, 大学病院, 准教授 (50422481)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 勝重 駒沢女子大学, 人間健康学部, 教授 (80291342)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 閉塞性動脈硬化症 / 末梢血流 / 側副血行路 / 新生血管発達 / 神経性因子 / 運動療法 / 光学イメージング法 / 膜電位感受性色素 |
Outline of Annual Research Achievements |
閉塞性動脈硬化症(PAD)に対する保存的治療の一つである運動療法によって、最大歩行距離が改善されることは以前から観察されている。その一方で、安静時ABI(下肢分節血圧比:下肢血圧/上腕動脈血圧)の改善が少ないことは、臨床上しばしば経験することである。こうした運動療法による症状の改善の根拠となる側副血行路発達のメカニズムに関しては、解剖学的あるいは生化学的に一部解明されてきている。しかしながら、末梢神経系と血管新生、側副血行路形成が、お互いにどのように関連しその発達に関与しているのか、についてはまだまだ解明されていない。 本研究では、「神経活動と末梢血流の多角的光学計測法」、すなわち、「細胞電位活動の光学的イメージング法」と「内因性光学イメージング法による血流評価法」を末梢神経-骨格筋標本、あるいは、末梢神経-血管標本に適用し、側副血行路発達と神経活動がどのように関与しているのかを解析し、PAD 患者に対する効率的な保存的療法の再考を行うことを目的とする。 本年度は、昨年度に引き続き、モデル標本の確立を中心目標として実験、解析を行った。血管を制御する自律神経系のうち交感神経に焦点をあて、まず鶏胚から交感神経幹を摘出することを再度試みたが、標本が小さく脆弱であることから十分な標本を得ることには成功しなかった。この点は、今後さらに改良が必要であると考えられた。そこで、生後3-5週齢のラットの交感神経幹に焦点をあて実験を進めたが、体格が小さいため、十分な結果は得られなかった。次に、発生段階がさらに進んだ5-6週齢のラットの交感神経幹に焦点をあてることで、比較的充分な長さの交感神経幹が得られ、実験を行うことが可能になった。これを膜電位感受性色素NK2761によって染色を行ったところ、交感神経幹が十分に染色されることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
分担研究者の研究室では、これまで胎生期の中枢神経系に膜電位の光学的イメージング法を適用し、中枢神経系の機能発生過程を追跡してきた。本研究でも、モデル標本確立のための第一歩とし、まず実験動物として取扱いが容易である鶏胚を選び、その交感神経幹を摘出することを試みた。しかしながら、鶏胚の交感神経幹は非常に小さく脆弱であり、光学測定に必要な標本を作製することは困難であった。そこで、実験対象を生後3-5週齢のラットにして、その交感神経幹の摘出を試みたが十分な結果は得られず、さらに体格の大きい生後5-6週齢のラットを用いたところ、十分な長さの交感神経幹を摘出することができた。 摘出されたラットの交感神経幹は、結合組織にくるまれていたため、これをそのまま膜電位感受性色素で染色することはできなかった。そこで、摘出したラットの交感神経幹を、まず様々な濃度のコラゲナーゼを含む人工脳脊髄液で処理し、その最適濃度を見いだした。これにより、吸光膜電位感受性色素NK2761で、ラットの交感神経幹を染色することが可能となった。 交感神経を電気刺激によって、交感神経幹を伝搬する活動電位や、交換神経節におけるシナプス後電位を光学的に記録することに成功した。 以上のように、モデル標本作製の第一段階でいくつかの問題が生じたため、当初の計画が少し遅れることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究により、生後3-5週齢のラットの交感神経幹の摘出、コラゲナーゼ処理後の膜電位感受性色素による染色が可能となったところで、本年度は以下の項目を中心に解析を進める。 ①最適膜電位感受性色素のスクリーニング:ラットの交感神経幹を様々な吸光あるいは、蛍光膜電位感受性色素で染色し、神経の電気刺激による活動電位の検出を行う。その際、どの膜電位感受性色素が最適であるかを、シグナルの大きさや神経へのダメージを考慮しながらスクリーニングする。 ②交感神経-血管標本の確立:初年度は、交感神経幹だけの摘出に成功したが、さらに交感神経の投射先である血管がついた「交感神経-血管標本」の作成を試みる。 ③交感神経刺激により誘発される神経応答パターンの解析:交感神経-血管標本を膜電位感受性色素で染色し、交感神経を吸引電極で刺激して血管に対する効果を検討する。さらに、血流との関係の解析を行う。 ④交感神経節光学的に記録されたシナプス後電位の性質を評価するため、各薬剤(d-tubocurarineなど)の存在下による計測を行い、神経活動伝搬やシナプス伝達の評価を検討していく。 以上の①-④の実験を進めることにより、側副血行路発達と神経活動がどのように関与しているのかを解析するための基礎を確立する。
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Causes of Carryover |
本年度は、昨年度に引き続きモデル標本の確立を中心目標として実験・解析を行って来た。実験器具、色素は、従来の研究におけるもので対応可能であった。血管を制御する自律神経系のうち交感神経に焦点をあて、まず鶏胚から交感神経幹を摘出することを試みたが、標本が小さく脆弱であることから十分な標本を得ることには成功しなかった。このため、鶏卵の使用は多数を必要としなかった。そこで次に、生後3-5週齢のラットの交感神経幹に焦点をあて実験を行ったが、十分な結果が得られず、さらに成長が進んだ生後5-6週齢のラットを実験対象とした。これらのラットからは十分な長さの交感神経幹の摘出が可能であること、膜電位感受性色素(以前購入したもの)によって交感神経幹が十分に染色されることが明らかとなった。 今後は、生後5-6週齢のラットの実験研究件数を増やすことが必要であり、膜電位感受性色素やコラゲナーゼ(薬品)の購入が多々必要になると考えられる。また、研究の進展状況を発表し、研究を継続するために学会参加などの旅費も必要になる。
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