2018 Fiscal Year Research-status Report
アクアポリン11の特性に基づいた脳浮腫治療法の開発
Project/Area Number |
17K10851
|
Research Institution | Meiji Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
田中 靖子 明治薬科大学, 薬学部, 講師 (20386452)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 脳梗塞 / AQP11 / 総頸動脈結紮 / 中大脳動脈脳梗塞 / 脳浮腫 |
Outline of Annual Research Achievements |
水チャネルであるアクアポリン(AQP)ファミリーのうち、AQP11は腎臓、胸腺、精巣で発現が特に高いが、脳にも発現している。AQP11 欠損(KO)マウスの形態的特徴のある表現型は多発性嚢胞腎であり、2~4週齢で死亡する。AQP11は腎臓以外にも発現していることから、これは嚢胞腎による腎不全で死亡するとは限らない。AQP11欠損の2次的な影響で死亡する前に嚢胞腎になることも考えられる。また、これまでにAQP11が血液脳関門の血管内皮細胞と脈絡叢上皮細胞で発現していることを所属研究室で報告しており(Koike S. et al.2016)、脳で発現するAQP11が、生体のさまざまな機能をつかさどることも考えられる。他にも脳で発現するAQPに注目すると、AQP4が脳浮腫に重要な関わりがあることが報告されているが、AQP4の調節のみでは脳浮腫を治療することは不十分である。同じ部位に発現するAQP11も脳浮腫の制御に関与し、治療にも重要な役割を担っている可能性がある。そこで本研究では、総頸動脈結紮脳梗塞モデルマウスおよび中大脳動脈梗塞術モデルマウスを作成し、AQP11が脳梗塞後の脳でどのような役割を担っているのかを解明する。さらには、AQP11欠損マウスに脳梗塞モデルを作成することで、脳浮腫や脳脊髄液代謝の制御がAQP11にどのように関与するかを明らかにし、脳梗塞、脳出血、脳浮腫の新たな治療を提案できるようにする。また、AQP11は脳や腎臓以外の組織にも発現していることから、脳梗塞モデルにおける他組織への影響も検討する。これまで学会で発表してきたマイクロアレイのデータも応用し、AQP11の未知なる役割を明らかにする。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度は、脳梗塞部位におけるAQP11の発現変化を明らかにするために、中大脳動脈脳梗塞モデルと総頸動脈結紮脳梗塞モデルにおけるAQP11の発現変化の検討を行った。まずは総頸動脈結紮脳梗塞モデルにおいて、これまでは全脳をRNAレベルで検討していたが、今回は施術側と未施術側で脳を左右に分けてタンパクレベルで検討した。野生型における左総頸動脈の結紮で1時間後に再灌流させ、一晩後の脳組織では、結紮していない側(右)と比較すると結紮側(左)の脳でAQP11の発現が減少する傾向があることを確認した。また、AQP4は結紮側(左)では発現が微量に増加する傾向があることを確認した。さらにヘテロタイプのAQP11 KOマウスでは、AQP11、AQP4とも発現に大きな左右差は見られなかった。中大脳動脈脳梗塞モデルは血流計で測定しながらの作業にやや時間がかかっているが、再現性のある施術ができるようになっている。また、本課題と並行して、これまでAQP11 KOマウスの脳のマイクロアレイの結果では、zinc finger タイプの遺伝子の発現が減少することを学会で報告している。昨年度はAQP11 KOマウスの脳の亜鉛量についても検討した。その結果、AQP11 KOマウスでは、野生型(100%)と比べて50~60%に亜鉛量が減少していることを明らかにした。AQP11の機能を解明する目的で胸腺でもマイクロアレイを行ってきたが、その結果よりAQP11 KOマウスでPI3K-Akt経路の遺伝子群の発現がRNAレベルで増加していることをこれまでの学会で報告している。昨年度はそのシグナル経路でRNAの発現が増加していた各遺伝子のうちEgfr、Fgfr2がタンパクレベルで増加していることをウエスタンブロットと免疫染色で明らかにした。これら胸腺の遺伝子変化が脳の機能と関与しているかは今後検討すべき課題である。
|
Strategy for Future Research Activity |
手法に関わらず脳梗塞モデルマウス用いる場合は週齢だけでなく体重を揃えて比較を行う必要がある。マウスを継続的に使用することは可能であるが、AQP11 KOマウス(ホモ)は生まれる確率が少なく、成長が遅いので小さいことから、まずは野生型を用いて結果を揃え、確立させていく予定はかわりない。しかし、母マウスの妊娠匹数が多いことが続き、AQP11 KOマウスだけでなく、野生型も小さく、成長に時間がかかることが続いているのが難点である。他の研究にも使用している都合上、ヘテロタイプ同士で交配していたが、今回の状態が続くようであれば工夫しなければならない。また、総頸動脈結紮モデルの追実験をさらに検討し、結紮時間および再灌流後の経過時間を変化させて検討する。これと並行して、中大脳動脈梗塞モデルマウス作成もさらに確立させる(結紮時間および再灌流後の経過時間の検討も含める)。これらは、AQP11を中心に他のAQPの発現変化をこれまで行ったRNAおよびタンパクの発現変化もウエスタンブロットや免疫染色で未施術マウスと比較し、結紮モデルあるいは中大脳動脈梗塞モデルマウスと比較検討を行う。昨年度の結果から施術有無の直接的な部位についても今年度は注目して検討する。連続切片によるTCC(トリフェニルテトラゾリウムクロライド)染色による虚血の程度、脳全体の左右差のサイズバランス、神経細胞およびアストロサイトも各因子を用いて遺伝子変化および形態変化も遅れているが引き続き比較検討する。また、昨年度行ったAQP11 KOの脳での亜鉛量が野生型に比べて少ないことについて、さらに検討していき、脳梗塞モデルとも関与があるか検討する予定である。
|
Causes of Carryover |
研究が遅れたことによる試薬の未購入。今年度、遅れた分を予定どおり行うので、塞栓糸や試薬を購入予定である。
|