2018 Fiscal Year Research-status Report
神経幹細胞移植による慢性期脊髄損傷での神経回路再形成
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17K10915
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
角家 健 北海道大学, 医学研究院, 特任准教授 (30374276)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 軸索再生 / 脊髄損傷 / 神経幹細胞 / 移植 / 慢性期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、神経幹細胞をラットの脊髄損傷後亜急性期および慢性期の損傷部に移植することで、新たな神経回路を移植組織と宿主との間に形成させ、最終的には障害された運動機能の回復を目指すものである。昨年度までは、頚髄部分切断モデルを使用して検討したが、本年度は、完全切断モデルを使用して、神経幹細胞による神経回路再形成が、慢性期であっても亜急性期と同等に作成可能かを組織学的に検討した。成雌FisherラットにT3脊髄完全切断を施行し、6ヶ月経過した慢性期と2週間経過した亜急性期の損傷部に同系GFP陽性の胚性脊髄由来の神経幹細胞を損傷部に移植した。移植に際して、損傷部の瘢痕切除などの外科的処置は併用しなかった。また、成長因子も添加しなかった。脊髄の水平断切片を免疫染色によって組織学的に検討した。慢性期に移植された神経幹細胞は、損傷部を新しい神経組織で再構築した。また、移植神経細胞は旺盛にその軸索を宿主内へと伸展させた。その軸索伸展の程度は、亜急性期移植と有意な差を認めなかった。セロトニン作動性の宿主軸索の再生に関しても、亜急性期移植と有意な差を認めなかった。細胞移植をしない場合、慢性期の損傷部はグリア瘢痕で覆われていたが、細胞移植によりその程度は有意に減少していた。しかし、運動機能に関しては、まったく回復をしめさなかった。これらの結果は、完全切断という厳しい移植環境であっても、移植された神経幹細胞は宿主と神経回路を形成することができるが、運動機能の改善は達成できないことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラット脊髄の完全切断モデルの慢性期に、神経幹細胞を移植することで、損傷部を新しい神経組織で再構築できたことは、過去の報告から鑑みるに大きな成果だと考える。また、移植細胞が軸索を宿主内に伸展できたこと、宿主の軸索が移植内へと再生したこと、それらの軸索数が、亜急性期移植と遜色なかったことは、阻害的環境である慢性期であることを考慮すると、非常に興味深い結果と考える。これらの組織学的再生にも関わらず、亜急性期移植で観察された下肢運動機能の回復は観察されなかった。これらの結果は、慢性期においては、脊髄組織の組織学的再生だけでなく、運動機能回復を阻害している他の機序も標的としないと、実際的な機能回復を達成できないことを示唆している。以上の点から、進捗状況は概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、昨年度に行なったラット完全損傷モデルを使用した解析を終了させる。具体的には、電子顕微鏡を用いた移植神経細胞と宿主のシナプス形成の有無の確認、各種組織学的評価の定量の終了である。これらは、すでに確立した方法を使用するので、技術的課題は特にないと想定している。そして、部分損傷モデルの結果も含めて論文化する予定である。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた試薬が年度内納期が難しく、キャンセルとなった事や、次年度国際学会へ参加する予定のため、繰越を行う。
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Research Products
(8 results)