2017 Fiscal Year Research-status Report
β-cateninを標的とした未分化性制御による新規多能性幹細胞の作製法の開発
Project/Area Number |
17K11037
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
竹原 俊幸 近畿大学, 医学部, 助教 (60580561)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
寺村 岳士 近畿大学, 医学部附属病院, 講師 (40460901)
福田 寛二 近畿大学, 医学部, 教授 (50201744)
末盛 博文 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 准教授 (90261198)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 多能性幹細胞 / β-catenin / ヒトiPS細胞 / 基底状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、ヒトiPS細胞技術の発見および発展によって再生医療の移植材料として期待されている。しかしながら、従来からヒトiPS細胞は不安定な性質を有しており、臨床応用の実現には大きな障害となっている。本研究では、β-cateninという組織発生や細胞運動などあらゆる細胞動態に関わる分子に着目した。同分子は細胞状態に依存してその機能が変化することが多くの研究から明らかとなっている。多能性幹細胞においても同様で、基底状態の獲得には必要であるとされているが、分化を誘導するとも報告されており、β-cateninの正確な制御が重要であることが示唆される。本研究では、β-cateninの修飾状態の違いとその機能の解明を中心に、基底状態ヒト多能性幹細胞の誘導を検討した。 平成29年度では、まずβ-cateninの修飾状態の違いによる遺伝子発現制御を理解するため、標的としているlysine49の変異β-catenin過剰発現ベクターを構築し、マウスES細胞にてその作用を観察した。その結果、Oct4などの未分化関連遺伝子の発現には影響を与えないが、初期分化関連遺伝子の発現が顕著に変化することが明らかとなった。また、β-catenin-lysine49のアセチル化を亢進させる低分子化合物を用いて基底状態ヒト多能性幹細胞の誘導を検討した。その結果、β-catenin-lysine49を活性化させることで基底状態様のヒト多能性幹細胞の出現が観察された。得られた細胞は、KLF2などの基底状態マーカー遺伝子が高発現していることが示された。さらに誘導細胞においては単一細胞まで乖離してもマウスES細胞と同様に増殖することができたことから、性質として基底状態に近づいていると考えられる。以上の結果から、β-cateninの特殊な活性化は基底状態の多能性を獲得するためには重要な因子のひとつであることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、β-cateninの特定部位の修飾状態:lysine49のアセチル化 の変化が、異なる多能性状態において変化していること、そしてそれを人為的に操作することで、基底状態を誘導できる可能性が示された。本結果は、従来のβ-cateninを取り巻く研究で示されてきた細胞状態に依存した機能は、その細胞の性質を決定づけている可能性に対して重要な知見になりうる。さらに、β-catenin lysine49のアセチル化を亢進させる低分子化合物を含んだ培養液にてヒトiPS細胞を培養することで、基底状態で示されている特徴をもった幹細胞を得ることができた。実際に、遺伝子発現だけでなく、単一細胞から増えることができるという表現系をもっており、基底状態ヒト多能性幹細胞の誘導に近づいていると考えられる。β-cateninは種保存性が高いことが知られており、これらの知見は、マウスだけでなくヒトを含めたその他の動物種への適用が期待される。 次年度ではより発展させた研究として、β-cateninの修飾状態が異なることで変化する遺伝子発現がどのように制御されているのかを明らかにするため、パートナー因子の探索を実施する。また、本研究の狙いである異なる動物種においても同様にβ-catenin lysine49のアセチル化によって基底状態を導くことができるか、その性質決定も含め検討を行う予定である。研究は予定どおり実施しているため、概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
30年度も計画通り研究を進める予定である。 β-cateninの修飾状態の違いによる選択的な遺伝子発現の制御が何によって規定されているのか明らかにする。具体的にはβ-cateninはDNA結合領域を持たずタンパク質間相互作用を主とした遺伝子発現制御を行う。そこで、前年度の研究結果から明らかとなった修飾状態の違いによって転写活性が上昇する遺伝子群と基底状態に必須な遺伝子群を比較検討し、β-cateninの新たなパートナー因子を明らかとする予定である。また、引き続き基底状態ヒト多能性幹細胞の誘導およびその性質評価を実施する。特に発現している遺伝子が大きく変化しているか網羅的に評価するため、RNAシークエンス解析を行う予定である。以上の研究計画を進めることで、β-cateninを中心とした遺伝子発現制御メカニズムの解明を試みる。
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Causes of Carryover |
29年度では遺伝子発現の網羅的解析を行う予定であったが、新たな知見を得ることができたため30年度に繰越して実験を行う。30年度では、得られた知見をもとに、より踏み込んだ実験計画としてβ-cateninのパートナー因子の解明とその役割について網羅的に解析し、β-cateninを中心とした遺伝子発現制御機構を明らかにする。また、上記の研究と並行し、完全な基底状態ヒト多能性幹細胞の誘導を行う予定である。 30年度では、引き続きマウス多能性幹細胞およびヒト多能性幹細胞の培養を行うため、細胞培養試薬や遺伝子導入試薬の購入を予定している。また、得られた細胞の性質を検定するため、遺伝子発現解析およびタンパク質発現解析に関連した試薬の購入を予定している。また、RNAシークエンスおよびクロマチン免疫沈降シークエンスといった大規模解析を行うことでβ-cateninの機能を正確に解析し、新たなパートナー因子の同定を計画している。
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