2017 Fiscal Year Research-status Report
シグナル伝達系の網羅的解析による変形性関節症における滑膜病変の成因の解明
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17K11040
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Research Institution | Clinical Research Center for Allergy and Rheumatology, National Hospital Organization, Sagamihara National Hospital |
Principal Investigator |
福井 尚志 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 政策医療企画部, 特別研究員 (10251258)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 変形性関節症 / 滑膜病変 / 関節 |
Outline of Annual Research Achievements |
変形性関節症(OA)では滑膜病変が高度な症例において痛みが強く、また疾患が進行する危険も高いことが近年の疫学研究の結果から明らかになってきた。従来、OAは軟骨の疾患と考えられてきたが、このような疫学研究の結果を踏まえれば、OAの滑膜病変は軟骨変性に伴って生じる副次的なものではなく、OAの症状発現や軟骨基質の変性消失に積極的に関与し、OAの病態において中核をなす変化と捉えることができる。しかしOAにおける滑膜病変の成因についてはいくつかの仮説はあるものの、よくわかっていないのが現状である。本研究の研究代表者らは以前からOAの滑膜病変に着目して研究を進めており、今までにOA、関節リウマチ(RA)および剖検例の病的所見のない膝関節から採取した滑膜について、cDNAマイクロアレイによる遺伝子発現の解析を行って3群間の遺伝子発現プロファイルの比較・解析を行ってきた。またこれと並行してOA関節液についても解析を進め、OAの関節液中には多量のMMP-1、2、3が含まれること、これらはOA関節において滑膜組織で産生されて関節液中に遊離すると考えられること、またOAの関節液においてこれらのMMPの濃度と軟骨基質の変性産物の濃度の間に正の相関があり、これらのMMPがOA関節において実際に軟骨基質の変性に関与ししている可能性があることを明らかにしてきた。さらに実際のOA症例から採取した関節液を用いた実験から、関節液中のこれらのMMPは活性化されれば実際に軟骨基質を変性させる能力があることも明らかにしてきた。本研究の目的はこれらの知見を背景として、シグナル伝達系の半網羅的な解析を行うことでOAにおける滑膜病変の成立の機序を探ることであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度の平成29年度は年度半ば過ぎまでにOAのために人工関節置換を受けた症例48例からの滑膜組織の採取を終了した。OA滑膜の収集と並行してRAに罹患して人工関節置換を受けた膝関節32関節からも滑膜組織を採取した。採取した滑膜組織は採取直後に2つに等しく分け、一方からはmRNAを抽出し、もう一方は研究第二年度に行うシグナル伝達系の解析のためディープフリーザーで凍結保存した。年度後半には採取した滑膜検体を用いて予定通り滑膜の遺伝子発現の解析を行った。この解析ではOA滑膜、RA滑膜に加えて研究代表者らが以前から収集してきた非炎症性関節疾患(膝関節部の腫瘍性疾患や外傷の症例)から採取した滑膜組織(以下、対照滑膜)4症例12検体についても併せて解析が行われた。OA滑膜では個体差も大きいものの、MMP-1、2、3が非常に高いレベルで発現していること、またMMP-1と3の発現レベルの間に極めて高い正の相関があることを確認した。このような相関関係は対照滑膜では認めらなかったが、RA滑膜においてはやはり明瞭に認められ、OA滑膜とRA滑膜においてこれら2種のMMPの発現が同様の機序によって同時に誘導されている可能性が示唆された。研究初年度の後半には我々はMMP-1、2、3以外にもMMP-9、14およびMMPの活性化に関与するurokinase(uPA)についてOA、RA、対照滑膜の間で発現の比較を行った。その結果から、OA滑膜ではMMP-2、14、uPAの発現レベルがRA滑膜に比して有意に高いこと、またMMP-2、14、uPAの発現レベルの間にはOA滑膜において相互に有意の正の相関があることが明らかになった。MMP-1、3と異なりRA滑膜ではこれら3つの遺伝子の間に有意の相関関係は認められなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度得られた結果から研究代表者らは①MMP-1、3の発現に関与するシグナル伝達系および②MMP-2、14、uPAの発現に関与するシグナル伝達系を特定することを第二年度の研究の目標とした。上記のOA滑膜検体の中でMMP-1、3の発現レベルが最も高かった2検体と低かった2検体を選択し、タンパク抽出用に取り分けた滑膜組織から湿重量を計測したのちホモジナイズによってタンパクを抽出、シグナル伝達系の解析を抗体アレイ(Proteome Profiler、Human Phosphokinase Array KitおよびHuman Phospho RTK Array Kit、R&D systems社)を用いて行う。 現在のところ、研究代表者はOA滑膜においてMMP-1、3の発現が同時に亢進する機序として、マトリクスの変化に伴う線維芽細胞の活性化が原因ではないかと考えている。これが事実とすれば、MAPKを介してAP-1の転写活性が上昇することが予想される。またMMP-2、14、uPAについては、これらがいずれも血管新生に伴って発現が誘導されるタンパク分解酵素であることから、OA滑膜において血管新生に伴って発現が誘導されている可能性が考えられる。実際、我々はOA滑膜においてこれら3つの遺伝子発現が、血管新生を誘導する作用のあるVEGF-Aの発現レベルとの間に有意の正の相関があることを確認している。VEGF-Aを介した血管新生にはPKC、PI3K、ERK など複数のシグナル伝達系がそれぞれ関与している。もしMMP-2、14、uPAの発現が実際に血管新生に伴って誘導されているとすれば、これらのシグナル伝達系がいずれも活性化され、それに伴ってこれらのタンパク分解酵素の発現が上昇していることになる。研究第二年度の解析ではこれらの仮説に見合ったシグナル伝達路の活性化が観察されるかを中心に検証する。
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Causes of Carryover |
今まで述べてきたように、研究初年度ではOA滑膜、RA滑膜、対照滑膜についてシグナル伝達系の解明の基礎となる遺伝子発現の検討を行っただけであり、本研究で目的とするシグナル伝達系の解明は研究第二年度以降に予定される。研究第二年度には先に「3.今後の研究の推進方策」の項で述べたように抗体アレイを用いた解析が行われる。この解析では上述の通りMMP-1、3およびMMP-2、14、uPAの2組のタンパク分解酵素群について高発現する検体、発現レベルの低い検体各2検体、合計8検体について抗体アレイによる解析を行う予定である。必要となる抗体アレイもHuman Phosphokinase Array KitおよびHuman Phospho RTK Array Kitそれぞれについて8枚のメンブレンが必要になり、その購入について相応の研究経費が必要になる。さらに研究第二年度(以降)には抗体アレイによる解析によって特定のシグナル伝達系がタンパク分解酵素の発現に関与する可能性が示された場合、さらにそのシグナル伝達系についてLuminex/BioPlexを用いた定量的な解析を行ってタンパクレベルでシグナル伝達系の活性化(リン酸化)のレベルとMMPの発現レベルの関連についても検討する予定であり、その際はLuminexの解析キットの購入が必要になる。これについても相応の研究経費を必要とする。
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Research Products
(5 results)