2018 Fiscal Year Research-status Report
オピオイド鎮痛機構の小胞体分子シャペロンによる制御
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17K11114
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
青江 知彦 帝京大学, 医学部, 教授 (90311612)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
國分 宙 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (50782695)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | オピオイド / 慢性疼痛 / 下行性疼痛抑制系 |
Outline of Annual Research Achievements |
モルヒネを始めとするオピオイドは優れた鎮痛薬であるが、慢性疼痛疾患への連用では耐性や痛覚過敏性の形成が問題となり得る。一方、難治性疼痛疾患である 線維筋痛症ではオピオイドが効き難く、疼痛閾値が低下している。こうした病態の背景にはオピオイドが重要な役割を果す全身的な鎮痛機構と下行性疼痛抑制系 の機能不全が存在する。ミューオピオイド受容体は複雑な構造を持ち、その立体構造の形成、細胞表面への輸送には小胞体機能が深く関与している。外因性のオ ピオイドの連用や、慢性的な疼痛刺激による内因性オピオイドペプチドの過剰分泌によってミューオピオイド受容体の内在化、分解が促進され、神経細胞表面に 発現する機能的なミューオピオイド受容体が減少する。また、小胞体機能不全によって細胞内情報伝達の異常を惹起し、下行性疼痛抑制系の機能不全が生じる可 能性がある。小胞体機能を補完する小胞体化学シャペロンの投与は小胞体ストレス反応の抑制と小胞体での機能的なミューオピオイド受容体の立体構造の形成、 細胞表面への輸送の促進を通じて、オピオイド鎮痛系と下行性疼痛抑制系の機能不全を改善する可能性がある。 本研究では、1. モルヒネ連用による耐性形成マウスモデル、2. 疼痛刺激の反復によって全身的な疼痛閾値の低下を起こす線維筋痛症マウスモデル、を作製し て、痛覚過敏、モルヒネの鎮痛効果を評価する。 並行して線維筋痛症患者を対象として、化学シャペロンの活性があるウルソデオキシコール酸を投与し、疼痛閾値の正常化、疼痛の軽減が得られるかどうかを 検証する臨床研究を企画、実施する。前年度に引き続き、上記の計画を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オピオイド受容体の機能不全の原因として、オピオイド受容体の発現量の低下や細胞内分布の変化とオピオイド受容体の情報伝達の異常が考えられる。本研究 では、1モルヒネ連用による耐性形成マウスモデル、2疼痛刺激の反復によって全身的な疼痛閾値の低下を起こす線維筋痛症マウスモデル、を作製して中枢神経系 におけるオピオイド受容体の発現、細胞内分布とオピオイド受容体の情報伝達を評価する。マウスは正常マウスと変異BiPマウスを用いる。モルヒネ連用による 耐性形成マウスモデルについては正常マウスと変異BiPマウスにおいて作製した。オピオイド受容体の発現、オピオイド鎮痛効果、下行性疼痛抑制系の異常につ いて組織学的、分子生物学的に検証している。線維筋痛症マウスモデルとしては、足底への酸性食塩水(acid saline, pH 4)の反復注入を検討し一定の効果が 得られている。また、線維筋痛症患者を対象とし、下行性疼痛抑制系の機能評価として、機能的脳MRI撮影を行う臨床研究計画を立て、倫理委員会に申請している。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続いて研究を進める。 野生型マウスと変異BiPマウスにモルヒネ連続投与を行う。我々の過去の検討では、一日二回モルヒネ20mg/kgを腹腔内に5日間投与すると、野生型マウスでは モルヒネの鎮痛効果が失われ耐性が形成された。しかし、変異BiPマウスでは、モルヒネの鎮痛効果は保たれ、耐性は形成されなかった。5日間投与後にナロキ ソンを投与し、モルヒネのmuオピオイド受容体に対する効果を拮抗させ、マウスの退薬症状をビデオで観察記録する。我々の予備実験では、変異BiPマウスでは 退薬症状が見られにくい。痛覚過敏性や退薬症状発現に必要な期間が耐性形成よりも長期間必要な可能性も考慮して、モルヒネ投与期間は必要に応じて修正する。 小胞体での蛋白質のfolding機能を補完する作用のある小胞体化学シャペロンとしてtaurine-conjugated ursodeoxycholic acid (TUDCA) (3)と4- phenylbutyrate (PBA)を用いる。2剤とも米国ではFDAから臨床使用が認可されている。線維筋痛症マウスモデル実験、モルヒネ耐性形成実験において野生型マ ウスにTUDCAあるいはPBAを投与し、痛覚過敏性やモルヒネの鎮痛効果が正常化されるかどうかを検証する。また、オピオイド受容体の発現、オピオイド鎮痛効 果、下行性疼痛抑制系の異常について組織学的、分子生物学的に検証し、小胞体化学シャペロンの治療効果を検証する。 また、線維筋痛症患者を対象として、下行性疼痛抑制系の機能評価として、機能的脳MRI撮影を行い、脳幹部、脳の神経結合と疼痛感受性について探索する。
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Causes of Carryover |
前年度に引き続き研究を進めるにあたり必要な試薬、物品などの購入に充てる。情報収拾や成果発表のために学会に参加し、また、研究成果を発表する論文を投稿する予定であり、その経費に充てる。
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