2017 Fiscal Year Research-status Report
ミトコンドリアの適合性の機構解析と治療法開発に関する基盤研究
Project/Area Number |
17K11248
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
遠藤 仁司 自治医科大学, 医学部, 教授 (50221817)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ミトコンドリア / 遺伝子治療 / ミトコンドリア遺伝子異常 / ヘテロプラスミー / ゲノム編集 / TALEN |
Outline of Annual Research Achievements |
ミトコンドリアDNA(mtDNA)は正常の個体についても個々に多型が存在する。近年、生殖医療においてミトコンドリア遺伝子異常症の受精卵に対して前核置換法を用いた遺伝子治療法が実施されており、その過程で第三者のミトコンドリアとほぼ置換されること、一部では二者のmtDNAが混在するヘテロプラスミーの状態であることが報告されている。電子伝達系を構成する複合体はmtDNA由来のタンパク質と核由来のタンパク質から構成されているが、mtDNAと核遺伝子との適合性に関する研究は極めて少ない。そこで、本研究では①同一核型に亜種mtDNAを置換したコンプラスティックマウス(conplastic mouse)の独自作製によって表現形が変化するマウスモデルを確立すること、②これらのコンプラスティックマウスから前核置換法を用いてmtDNAが混在するヘテロプラスミーのES細胞を樹立すること、③TALEN等のヌクレアーゼのミトコンドリア標的への最適化を試み、特定のmtDNAを除去する治療基盤を確立することを目的としている。本年度はミトコンドリアと核の適合性に関する研究を実施した。まず、糖尿病の疾患モデルマウスを核型として亜種(SHH)のミトコンドリアを保有するコンプラスティックマウスを作製して、表現形解析を行った。その結果、体重、血糖値、インスリン抵抗性などに変化のあることが明らかになった。核-ミトコンドリアの不適合性が、病態に影響を与えることを初めて明らかにした。今後詳細な検討を行うことにより核-ミトコンドリアの適合性が疾患などの表現系に影響を与える分子基盤をさらに検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は主に、コンプラスティックマウスの確立と個体レベルでの表現形解析を行うことによって、核遺伝子とミトコンドリア遺伝子の適合性を検討した。具体的には、疾患モデルでのミトコンドリア適合性を検討するために、核型が糖尿病モデルマウスであるKKおよびKK-Ay由来を用いてミトコンドリアが亜種SHHマウス由来であるコンプラスティックマウスを作製した。 この疾患モデルの核型を有するコンプラスティックマウスを用いて表現形解析を実施した。まずKKマウスを用いた実験では、体重、腹部CT、呼気ガス酸素消費モニター、行動解析、血糖、グルコース負荷テスト、インスリン負荷テスト、インスリン、レプチンなどのアディポカインを測定したところ、特に顕著な差は認められなかった。しかしながら、KKマウスより高度な糖尿病を発症するKK-Ayを核型としたコンプラスティックマウスを作成したところ、ミトコンドリアをSHHに置換したKK-Ay mtSHHマウスにおいて、通常のKK-Ayマウスに比べ、体重が減少し、空腹時血糖が上昇し、インスリン抵抗性が上昇することを明らかにした。また、酸素消費モニターの結果から呼吸商が低下し、脂肪燃焼が増加していることが示された。また、肝臓のmtDNA量を定量PCRで測定すると、顕著な差は認められなかった。肝臓からミトコンドリアを単離し、酸素電極によるミトコンドリア活性を測定すると、KK-Ay mtSHHにおいて電子伝達系の複合体IIの活性の亢進が確認された。以上より、亜種マウスとのミトコンドリアの置換により糖尿病の症状の増悪が認められたことが示された。核-ミトコンドリアの不適合性により、病態に影響を与えることを初めて明らかにした。今後さらに詳細な検討を行い、論文を作成する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度以降は、コンプラスティックマウスの受精卵から前核置換法を用いてヘテロプラスミーのES細胞を樹立することにより、ゲノム編集を用いた遺伝子治療へのモデル細胞の開発を行う。具体的には、B6マウスおよびB6mtSHHの受精卵から前核置換によりヘテロプラスミー受精卵を作製し、この胚盤胞からES細胞を樹立する。PCR-RFLP法を用いて2つのmtDNAの存在比を検討し、2つのmtDNAが混在するヘテロプラスミーのES細胞を作製する。 B6 mtB6, B6 mtSHH , B6 mtSHH-B6 ES細胞のミトコンドリアDNA量、酸素電極による呼吸調節率、ミトコンドリアの各種酵素活性の測定、電子伝達系の複合体解析などを実施し、ミトコンドリア適合性の検討を行う。 同時に、一方のmtDNAを特異的に切断するゲノム編集技術のアッセイ系を開発する。また、ゲノム編集に用いるベクター部分を改良して、ミトコンドリア遺伝子治療開発の基礎データとする。具体的には、B6とSHH由来のmtDNAを別々に認識して切断するTALENベクターを作製する。TALENタンパク質がミトコンドリアに移行するために、N末端にミトコンドリア移行シグナル配列を連結する。また、mtDNA結合タンパク質であるTFAMなどをN末端に連結する改良型ベクターを作製する。前述のヘテロプラスミーのES細胞に、それぞれのTALENベクターを遺伝子導入し、残存したmtDNAの型と残存率を検討する。以上から、改良型TALENベクターがミトコンドリア遺伝子治療に有効か検証する。 以上を検証したのち、ヘテロプラスミーのマウス受精卵で、作製したTALENベクターを導入して目的のmtDNAが効率よく除去されるか検証を行い、mtDNA遺伝子治療の基礎実験とする。 また、前年度の予定の未到達部分があればこれを実施する。
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Causes of Carryover |
解析に関する委託費が年度をまたぎ、次年度払いになったため。
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Research Products
(7 results)