2018 Fiscal Year Research-status Report
高度腫瘍移行性と低毒性を可能としたナノメディシン抗がん剤の婦人科腫瘍における検討
Project/Area Number |
17K11284
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
小林 裕明 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (70260700)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ナノメディシン / ピラルビシン / 高分子ポリマー / EPR効果 / 婦人科がん |
Outline of Annual Research Achievements |
固形癌はその遺伝子不安定性により同一腫瘍内でも多数の変異クローンを有する。よって、全病巣に普遍的な特徴を利用し、局所的かつ特異的に作用する薬剤を開発しなければ、すぐに薬剤耐性が生じてしまう。ナノメディシン技術により既存の抗がん剤ピラルビシン(THP)に高分子ポリマーであるポリヒドロキシプロピルアクリル(HPMA)を結合した新規抗がん剤P-THPは、1)固形癌の腫瘍新生血管の構築が粗雑なため高分子ながら血管外に漏出しやすい一方、いったん漏出すると高分子のために血管内に戻りにくく癌病巣に滞留するというEPR効果 (Enhanced Permeability and Retention effect)を有する。これにより選択的に癌部に集まり、2)固形癌特有の低pH環境下でTHPを放出し、3)その低分子で拡散に優れたTHPは癌細胞膜上で活性化しているトランスポーターにより速やかに癌細胞内に取り込まれ効果を発揮するという普遍的な固形癌の特性を介して腫瘍選択的に効果を発揮しうる薬剤である。 平成29年度はa)薬剤耐性再発卵巣癌細胞株と子宮平滑筋肉腫細胞株を皮下に担癌させたマウスにP-THPとTHPとドキソルビシンを静注投与し、P-THPが高い抗腫瘍効果を示すにもかかわらず低毒性であることを確認した。b)P-THPの投与量がどこまで増量可能かを評価した。健常マウスにP-THPとTHPを静脈内投与し10%、50%致死投与量及びMTDを明らかにした。P-THPのみが高用量を投与可能であった。 平成30年度はc)PTHPとTHPをマウス尾静脈よりから静注投与後、マウス体重と採血による骨髄抑制、肝毒性および腎毒性を評価したが、いずれもP-THPの方が低毒性であった。 以上より固形癌に対するDDS(ドラッグデリバリー)能力に優れたP-THPの有用性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度に予定したテーマ別実験のうち、次に示す平成31年度に移行させたテーマまで実験結果を確定できなかったため、やや遅れていると判定した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年には以下に予定する実験を行う。実験1) 癌細胞膜のトランスポーター機能によりTHPが高率に癌細胞内に取り込まれることを確認する。具体的には、細胞培養実験系でP-THPが低酸素環境で THPを遊離しやすいことは確認済みであるので、本研究では我々が用いる婦人科癌でもトランスポーターにより癌細胞への取り込みがTHPで亢進していることを同 じアントラサイクリン系抗癌剤であるドキソルビシンと比較する。細胞内取り込みは蛍光顕微鏡またはHPLCを用い細胞内薬物量を比較する。THPでの亢進が確認されたらトランスポーター阻害剤でTHP特有の細胞内取り込み促進が抑制されることを確認する。さらに実験2)としてP-THPが肺転移や腹膜播種にも有効か検討する。具体的には、動物皮下腫瘍の治療実験で肺転移と腹膜播種への効果を検討する。各種がん細胞培養株を1)尾静脈から移植後、実験的肺転移巣を形成させ、肺転移のモデルを作成する。2)腹腔内移植後、腹膜播種巣を形成させ、がん性腹膜のモデルを作成する。それぞれに対してP-THPとTHPとドキソルビシンを投与し、肺転移のモデルマウスでは転移巣のサイズと数、がん性腹膜炎のモデルマウスでは生存率(腹水産生量や腹腔内播種所見も参考にする)を指標 に、P-THPの有用性を検討する予定である。
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Causes of Carryover |
平成30年度に予定した実験のうち、一部が終了できなかったため、消耗品を中心に次年度使用額が生じた。平成31年度に予定する実験で、この次年度使用額も含めてすべての請求助成金を平成31年度中に使用予定である。
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