2019 Fiscal Year Research-status Report
バソヒビンファミリーによる血管新生と免疫逃避を標的とした新たな卵巣がん治療の開発
Project/Area Number |
17K11294
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
嵯峨 泰 自治医科大学, 医学部, 准教授 (70360071)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 卵巣がん / バソヒビン2 / パクリタキセル / 微小管 / チューブリンカルボキシペプチダーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
バソヒビン2は様々な腫瘍が産生する血管新生因子であり、RNA干渉や中和抗体によるバソヒビン2の阻害によって腫瘍の進展を抑制できることを、これまで報告してきた。今回われわれは他施設の最近の報告を踏まえて、バソヒビン2と微小管との関係、ひいては微小管を標的とする抗がん剤との相互作用を検討した。バソヒビン2のエクソン4を標的とした単ガイドRNAと、B群溶連菌由来のCas9を発現するプラスミドベクターを作成し2種の卵巣がん細胞株に遺伝子導入しクローニングした。クローン化された導入細胞の塩基配列をサンガー法で検討したところ、標的部位に各々2種類の変異が確認された。これらのバソヒビン2ノックアウト細胞の増殖は二次元培養と三次元培養のいずれにおいても親株と差はみられなかった。一方、微小管の活性に関わる酵素の発現がノックアウト細胞では著明に低下した。さらに卵巣がん化学療法の基幹薬剤のひとつであり、微小管に作用するパクリタキセルへの感受性がノックアウト細胞では増強した。またノックアウト細胞では細胞周期におけるM期後期のマーカー因子の発現増強がみられた。このことからバソヒビン2ノックアウトに伴うパクリタキセル感受性増強の機序として細胞周期制御機構の関わりが明らかになった。今回の知見により、われわれが研究を続けてきたバソヒビン2を標的とした卵巣がん治療戦略は、血管新生抑制のみならず、従来の標準化学療法との併用によりその効果を増強できる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
バソヒビン2は主に腫瘍が産生する血管新生促進因子であり正常組織ではほとんど発現がみられない。このことからバソヒビン2を標的とした治療戦略は従来の抗血管新生療法に比べて副障害の少ない、比較的安全な治療となり得る。われわれはこの仮説を実証するために研究を遂行し、基礎実験により検証を進めてきた。さらに本研究課題の期間中に、バソヒビン2は微小管の活性を促進する酵素作用をもつことが複数の研究機関から相次いで報告された。微小管は卵巣がん標準化学療法の基幹薬剤のひとつであるパクリタキセルの標的因子であることから、われわれが開発した抗バソヒビン2抗体療法を併用した場合の抗がん剤感受性への悪影響が危惧された。この検証をすすめたところ、バソヒビン2のノックアウトはむしろパクリタキセルの感受性を増強させることが示された。このことからバソヒビン2を標的とした卵巣がん治療戦略の有用性がさらに高まった。
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Strategy for Future Research Activity |
われわれが樹立したバソヒビン2ノックアウト細胞を対象にトランスクリプトーム解析を行い、バソヒビン2ノックアウトに伴うパクリタキセル感受性増強機構を明らかにするとともに、バソヒビン2に関わる新たな因子の発見を試み、さらなる治療戦略の開発につなげる予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は培養細胞を用いたin vitroレベルの実験が主であり、高価な実験動物を多数用いたin vivo実験を含まなかったため。来年度は動物実験を予定している。
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