2018 Fiscal Year Research-status Report
網膜ミュラー細胞の分化に関わる転写因子群の標的遺伝子遷移と再生能賦活化の解析
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17K11491
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
須藤 則広 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (80646216)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 網膜 / 再生 / 転写制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
網膜ミュラー細胞は網膜前駆細胞と転写因子の発現が極めて類似しており、成体幹細胞と考えられているが、哺乳動物においてほとんど再生能は示さない。その理由はミュラー細胞における多分化能や神経分化に関わる遺伝子カスケードの消失にあるのではないかと推測している。本研究では網膜前駆細胞とミュラー細胞に共通して発現している転写調節因子(転写因子)を選びその標的遺伝子およびエンハンサーの変化について、エピジェネティクス修飾と相関させて網羅的に解析を行うことを計画している。共通して発現している転写因子を候補とし、これらの遺伝子発現変化をRNA-シーケンス(RNA-seq)、標的遺伝子の変化をクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-seq)で解析する予定である。本年度は上記実験計画に従いsox9遺伝子を用いてChIP-seq解析の立ち上げを行った。1)ChIP-seq:マウス網膜前駆細胞は生後1日、ミュラー細胞は3週齢網膜を用いてクロマチン調製からChIP-seqの立ち上げを行った。初めのChIP-seqはsox9抗体を用いて網膜前駆細胞のクロマチンで行いシークエンスデータを得た。さらにデータ解析は自身でマッピング等を進めることが可能となった。今後はさらに他の抗体や発生段階で解析を進めて行く予定である。2)網膜の初代培養系を用いた遺伝子発現解析:マウス網膜の初代培養ではミュラー細胞だけが増殖能を示す。一度分化した細胞が細胞周期に再進入する過程で見られる遺伝子発現変化をリアルタイムPCR及び抗体染色を用いて調べた。その結果iPS遺伝子として知られるoct4、c-myc、sox2が培養開始後から増加することが分かった。恐らくリプログラムを介して増殖過程に進入していることが推測された。本研究を遂行する上で網膜再生の際の有用な参考情報が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ChIP-seq解析を進めるにあたり、磁気ビーズカラムを用いたMACSによる細胞分離を予定し、進めていたが現在も条件が定まっていない。その為、網膜前駆細胞とミュラー細胞だけで発現し、細胞分離が必要ない候補遺伝子lhx2とsox9に絞って解析を始めた。また当初胎生期の網膜前駆細胞を先に始める予定であったがより細胞数が多い生後1日目の網膜前駆細胞を含む網膜と3週齢網膜を用いてChIP assayを行った。ChIP-seq解析に必要なサンプルを得る為に条件検討を行い、IP効率の確認等も行った。先にサンプルの得られた網膜前駆細胞クロマチンによるsox9抗体でのChIP-seq解析を行った。シークエンスは外部委託し、得られたデータを基に講習会や参考書などを活用し自身でマッピングなどの解析を行った。自前で解析できるようになったことは今後の研究の進展において大きな前進である。また、マウス網膜の損傷ではミュラー細胞は細胞周期に再進入しないが、培養系に移すと細胞分裂をするミュラー細胞が現れることが知られている。しかしその過程がどのように起こっているかについては明らかではなく、この過程が生体網膜に応用できれば本研究の遂行に有用な情報となる為、継続して解析を行った。その結果iPS遺伝子のoct4、c-myc、sox2およびnanogが培養開始後から増加する結果が得られた。その為分化したミュラー細胞がリプログラムすることで増殖できるようになっていることが推測された。上記結果は生体内では網膜組織が成熟するほどリプログラム関連遺伝子が動きにくくなっている可能性示していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは生後網膜前駆細胞とミュラー細胞におけるsox9、lhx2のChIP-seq解析を先行して進める。その後、胎生期網膜前駆細胞の解析を行う。RNA-seq及びヒストン修飾、rax、pax6、chx10遺伝子のChIP-seq解析はミュラー細胞が分離できた段階で行う。細胞分離に関しては磁気ビーズカラムではなくバッチ型に切りかえる予定である。理由は細胞を集める際の遠心分離で多くの細胞が死んでしまうからである。この点をクリアしないと大量のマウスを犠牲にすることになり、動物愛護の観点からも問題だと考えられる。その後標的遺伝子の解析を進めつつ、転写量がどのように遷移しているのかRNA-seqにより解析を行う。上記の結果をもとに、転写因子の転写ネットワークモデルを構築する。本解析では胎生期網膜前駆細胞、生後網膜前駆細、ミュラー細胞の比較を通して、網膜前駆細胞の分化能が限局される過程およびミュラー細胞の成熟過程それぞれにおける転写制御ネットワークの遷移も解析可能だと考えている。エンハンサーの特定にはH3K27acを目印に、活性化遺伝子のプロモーターはH3K4me3修飾、遺伝子の抑制ではH3K9me3(永続的抑制)、H3K27me3(一次的抑制)を用いる。またエンハンサーの活性の真偽についてもレポータアッセイ等の検証を加える予定である。さらに初代培養における細胞周期の再進入に関わる遺伝子を絞り込み、これら遺伝子がミュラー細胞においてH3K9me3(永続的抑制)、H3K27me3(一次的抑制)のどちらで修飾されているのか検討してみたい。
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Causes of Carryover |
次世代シークエンス解析に2-3か月かかり、さらに1解析当たりの単価が大きいために金額が大きく繰り越した。予定通り本年度中に使用する予定である。
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Research Products
(3 results)