2017 Fiscal Year Research-status Report
Fundamental Molecular analysis of chronic infection leading to hypertrophic scars and keloids
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17K11560
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
大慈弥 裕之 福岡大学, 医学部, 教授 (60160488)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋田 定伯 福岡大学, 医学部, 教授 (90315250)
高木 誠司 福岡大学, 医学部, 准教授 (30419197)
大山 拓人 福岡大学, 医学部, 助教 (40570809)
自見 至郎 福岡大学, 医学部, 講師 (30226360)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 肥厚性瘢痕 / ケロイド / 創傷治癒 / 肉芽 / 動物モデル / メカニカルストレス / TGF-β経路 / コラーゲン |
Outline of Annual Research Achievements |
瘢痕形成が過剰となる肥厚性瘢痕やケロイドの病態形成メカニズムを明らかにすることを本研究の目的としている。この目的達成のためには、信頼性のある病態モデルの確立が必須であるため、申請書類に記載したように、動物感染モデルの作製に平成28年前半は鋭意努力を重ねた。しかし、創感染は広範囲に壊死を生み、動物死に至るまでの敗血症状態に陥り、結果的に炎症が強く、創部に形成される肉芽の増殖反応を得ることはできなかった。そのため平成28年後半では、全く別のアプローチを試み、よりシンプルだが新規の動物モデルの確立に至った。肥厚性瘢痕やケロイドの病態メカニズムとしてメカニカルストレスが重要であることが知られているものの、信頼性のある病態モデルは未だ確立されていない。創部にかかるメカニカルストレスは創傷治癒に関わる細胞の機能を変化させ、肉芽増殖を起こすとの仮説を立てた。筋肉で覆われたマウス腹壁に創を作製すると、その治癒過程で肉芽形成が刺激されることを見出した。腹壁は皮膚と筋層からなり、皮膚は収縮と再生能が極めて高く、容易に治癒するが、筋層に作製した創は筋肉が有する張力によりメカニカルストレスが負荷され、肉芽形成が亢進することを見出した。更にその組織反応を証明するため、TGF-β経路にあるリン酸化SMAD発現を検証した。張力負荷のない背部に作製した創ではリン酸化SMAD発現は微弱であるものの、腹壁創部の肉芽内ではリン酸化SMAD発現が強発現していた。以上より、メカニカルストレスによる肥厚性瘢痕形成を摸するモデルであると確信した。現在、コラーゲンの分布密度、筋線維芽細胞、新生血管などからの解析をさらに進めている段階にある。一方、この動物モデルの結果を基に、ヒトの肥厚性瘢痕やケロイド病変のリン酸化SMADを検討した結果、リン酸化SMAD発現が病変形成の線維芽細胞に認め、モデルの正当性を得ている段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度は動物モデルの確立を目指し、研究をスタートしたが、動物モデルの作製に多くの努力と時間を費やしたことで研究の遅れが多少生じている。現在まで、肥厚性瘢痕・ケロイドの満足のゆく動物モデルは確立されていない。このことは、本分野の基礎研究進展の阻害要因となっている。本研究の中心的課題であった感染創モデルの作製の極めて高い困難さに気付かされが、結果として、信頼性の高い腹壁損傷後の自然治癒モデル確立に到達できた。しかし、モデル作製当初は、腹壁創の自傷行為によるほとんどの動物の死亡から始まり、張力を負荷させるためのデバイスの開発など、様々なtry and errorを繰り返したが、満足のゆくモデルには到達できなかった。しかし、最終的に単純だが創部に腹壁自身が有する張力が負荷されるモデルが最良であることに気付くことができた。このことは、今後の研究を進める上で極めて重要な基礎的基盤となると考えられる。当初の研究計画の実験的支柱部分に変更が生じてしまったが、それをリカバーし、さらにそれ以上のモデルに達しえたと考えている。また、その作製過程の試行錯誤から、切創モデルと組織欠損モデルの2種類のモデルを得ているため、創部の質の違いからの検索も可能となっている。これらのモデルは、我々の知る限り世界初の信頼性のある肥厚性瘢痕・ケロイドの動物モデルであることと確信している。しかし、さらに創部に形成される肉芽の質の解析をさらに行わなければならない。この信頼性のある動物モデルにより得られる組織内変化の詳細を明らかにすることにより、ヒト病変の解析のポイントを絞ることが可能となると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、肥厚性瘢痕・ケロイドの動物モデルを作製できたことから、平成30年度は、病変の時間的推移等の解析を進める予定である。肥厚性瘢痕の基礎的情報を収集した後、肥厚性瘢痕の治癒を促進できる可能性物質(コラーゲンペプチド、bFGF等)を用い、その治療効果の研究を行い、そのメカニズム解析を行う。信頼性のおける結果が出た場合、学会発表および論文発表を行う予定である。特に、肥厚性瘢痕やケロイド病変は線維芽細胞が産生するコラーゲンの蓄積が主体となることから、線維芽細胞の動態、コラーゲン線維の重合、架橋などに関わる因子等の詳細を解析し、これら病変の病態解明を行う予定である。また、線維化の質の検討を行うため、培養細胞を用いコラーゲンゲル内での線維芽細胞培養を行い、コラーゲンゲル収縮実験を行う。包含因子は肉芽形成因子であるTGF-b、bFGF、PDGFなどを用い、病変内因子との関係をin vitroで検討する。肥厚性瘢痕やケロイド病変から採取されたヒトの病変を用い、組織内での変化(炎症細胞、TGF-β、血管新生、コラーゲン分布、SMAD、リン酸化SMAD等)のタンパク発現、遺伝子発現を明らかにして行く。マウスの治療実験で成功を果たせた場合、平成30年度では臨床治験へと移行できるようにする予定である。全体として、メカニカルストレス負荷による肥厚性瘢痕やケロイドの形成メカニズムの解析を中心に研究を行い、責任因子を明らかにし、治療ターゲットとなる因子を同定し、その因子を用い臨床的治療が可能であることを明らかにできればと考えている。
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Causes of Carryover |
実験方法の工夫などにより、当初計画より経費節約ができたため、平成29年度の計画の研究費について、当初計画よりも効率的な実験計画の変更が判明した。このため、当初計画していた感染実験に必要な細菌培養などの経費が削減できたため未使用額が生じた。次年度は、計画通りに研究費を執行する予定である。
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