2017 Fiscal Year Research-status Report
生体イメージングと網羅的遺伝子解析による唾液腺の代償性肥大機序と分子基盤の解明
Project/Area Number |
17K11651
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Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
根津 顕弘 北海道医療大学, 歯学部, 准教授 (00305913)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森田 貴雄 日本歯科大学, 新潟生命歯学部, 准教授 (20326549)
谷村 明彦 北海道医療大学, 歯学部, 教授 (70217149)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 唾液腺 / 代償性肥大 / 唾液分泌 / Ca2+応答 / 遺伝子発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
唾液腺は片側が機能不全に陥ると反対側の唾液腺が機能を補う代償性肥大を生じ、唾液分泌機能の亢進をおこす。本研究では、唾液腺における代償性肥大と分泌機能亢進を誘導する生体内シグナルや分子を解析し、そのメカニズムを明らかにすることを目的とする。本年度は、肥大腺における唾液分泌機能と唾液腺Ca2+応答の同時解析を行った。さらに唾液腺における遺伝子の網羅的解析により、肥大誘導によって変化する遺伝子の同定を試みた。 1)片側顎下腺導管の結紮により代償性肥大を誘導した7日および21日後の顎下腺で、コントロール群と比べ約10~15%程度の有意な腺重量増加が認められた。一方でHE染色による腺組織像観察では、肥大誘導群とコントロール群では唾液腺を構成する腺房細胞および導管細胞の細胞数や細胞形態に大きな違いは認められなかった。 2)肥大誘導21日後の顎下腺では、アセチルコリン(ACh)刺激による唾液分泌量が増大し、同時に顎下腺におけるCa2+応答の増強が認められた。この分泌機能とCa2+応答の増強反応は低濃度のACh刺激(60 nmol/min以下)で観察された。以上の結果から、肥大腺における唾液分泌機能亢進は、ムスカリン受容体の感受性亢進あるいは、細胞内におけるCa2+応答機構の増強により起こる可能性が示唆された。 3)肥大誘導7日後および21日後の肥大顎下腺における遺伝子の網羅的解析により、9852遺伝子の中からコントロール群と比較して2倍以上変化した遺伝子が57個検出された。これらの発現量をRT-PCR法およびリアルタイムPCR法を用いて定量解析を行った。その結果、7日後、21日後の肥大顎下腺で有意に発現が変化する6つの遺伝子の同定に成功した(研究協力者:箕輪映里佳)。これらの遺伝子は、肥大誘導シグナルや分子を検索するための有用な遺伝子マーカーであると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
AQP5低発現ラットを連携研究者の赤松より供与を受け、自家繁殖により実験に供した。当初は繁殖経験が無かったため実験用のラットの調達が安定しなかったことから、AQP5低発現ラットを用いたスクリーニングに遅れが生じている。現在、AQP5抗体(赤松より供与)を用いたウエスタンブロッティングの条件を確立し、肥大腺におけるAQP5タンパク質の発現量の解析を検討中である。 このAQP5低発現ラットを用いた実験の立ち上げが遅れたことから、他の系統(Wistar系)のラットを用いて、肥大誘導された顎下腺における唾液分泌とCa2+応答の機能解析を行った。唾液分泌とCa2+応答の同時測定により、肥大腺における唾液分泌機能亢進とCa2+応答の増強との関係を初めて明らかにした。 この機能解析結果を基に、肥大顎下腺における遺伝子発現量の網羅的解析を行った。得られた結果から、候補遺伝子発現の定量解析を行ったところ、有意に変化する6つの遺伝子の同定に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで研究で、肥大誘導マーカーとなり得る6つの遺伝子の同定に成功した。これらのマーカー遺伝子の変化を基に、肥大誘導シグナルや分子を検索する。片側顎下腺の導管結紮手術後、様々な薬物を投与し、結紮7日後、21日後の肥大腺のマーカー遺伝子の発現量を定量PCR法により解析する。 マーカー遺伝子発現量の解析により、肥大誘導を起こすシグナルと分子候補を同定することを一つの目標とする。様々な薬物あるいは遺伝子の強制発現やノックダウンさせる遺伝子発現ベクターやsiRNAを用いて、腺肥大や機能亢進を誘導するかどうかを唾液分泌とCa2+応答の同時測定システムにより機能解析することで検討する。 またAQP5低発現ラットを用いた、AQP5をマーカーとしたスクリーニングについても検討を行って行く。
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Causes of Carryover |
(次年度使用額が生じた理由) AQP5低発現ラットを用いたスクリーング実験の立ち上がりに遅れが生じ、AQP5タンパク質発現を解析するウエスタンブロッティング用の試薬、物品、抗体などの予算が使用出来なかったため、次年度使用額が生じた。一方で他系統のラットを用いた遺伝子の網羅的解析や定量解析が順調に実施できた。 (使用計画) 平成30年度では、AQP5低発現ラットを用いたスクリーング実験を推し進める計画である。この年度では、遺伝子発現ベクターやsiRNAの作成が開始予定で、分子生物学的実験のための試薬、器具、および遺伝子導入装置を購入予定である。また2~3回の学会(国内学会および国際学会)での発表を予定しており、研究費はこれらの学会の参加費や旅費としても使用する。
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