2021 Fiscal Year Research-status Report
抗菌剤処理後のう蝕,歯周病モデルポリマイクロバイアルバイオフィルム群集構造の解析
Project/Area Number |
17K11721
|
Research Institution | Kanagawa Dental College |
Principal Investigator |
富山 潔 神奈川歯科大学, 歯学部, 准教授 (90237131)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
向井 義晴 神奈川歯科大学, 歯学部, 教授 (40247317)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ポリマイクロバイアルバイオフィルム / 渋柿 / タンニン / S-PRGフィラー / クロルヘキシジン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,唾液中の全細菌種(700種以上)を含むポリマイクロバイアル(PM)バイオフィルムを使用し,菌代謝分析,生菌数の分析,次世代シークエンスを用いたバイオフィルム構造解析を行なうことにより,生体親和性が高く,かつバイオフィルムの病原性を取り除けるような抗菌剤や抗菌療法を開発することである.それを踏まえて以下の,2つの研究を行ない,記載した研究成果を得ることができた. ●渋柿タンニンの濃度が多菌種バイオフィルムへの抗菌効果に与える影響 実験群は,① 非処理群(陰性対照,cont),② 1 wt% PS-M群(1P),③ 2 wt% PS-M群,群(2P),④ 4 wt PS-M群(4P),⑤ 6 wt% PS-M群(6P),⑥ 8 wt% PS-M群(8P),⑦ 10 wt% PS-M群(10P),⑧ 0.2 %グルコン酸クロルヘキシジン(陽性対照,CHX)の12群とした(n=10).バイオフィルムの培養24時間の時点で各処理剤あるいは滅菌脱イオン水(cont)に5分間浸漬後,バイオフィルムを48時間の培養を継続して超音波で剥離,血液寒天培地に4日間培養した後,生菌数の算定を行ない,各群の抗菌効果を比較検討し,すべての処理群のバイオフィルム生菌数は,すべての濃度でcontと比較して減少した. ●S-PRG溶出液の初期形成過程の多菌種バイオフィルムに対する抗菌効果 実験群は ① 脱イオン水処理群(cont),② 0.2 %グルコン酸クロルヘキシジン群(0.2C),③ S-PRG溶出液処理群(SPRG)の3群とした.(n=10)使用済み培養液のpHは,培養12時間および24時間の処理直後において,cont に比較し0.2CおよびSPRGは有意に高く,0.2CおよびSPRGの培養12時間での処理後のpHは培養24時間での処理後のpHより有意に高かった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
渋柿タンニンの濃度が多菌種バイオフィルムへの抗菌効果に与える影響(実験1)およびS-PRG溶出液の初期形成過程の多菌種バイオフィルムに対する抗菌効果についての研究(実験2)を行ない,論文の執筆に着手することが可能な研究成果を得ることができたため.成果は以下の通りである.(実験1)Pancil PS-M処理は4 wt%以上で0.2%グルコン酸クロルヘキシジンと同程度の持続的な抗菌効果が示され,渋柿の縮合型タンニンによる細菌細胞壁の破壊による抗菌効果が発揮されたことが示唆された.(実験2)S-PRG溶液処理は, 形成初期のPMバイオフィルムのpHの下降を抑制していることが細菌数の抑制効果の一因となっていると考えられた.これらの結果は,口腔内のバイオフィルムの病原性を口腔内での耐性菌形成の抑制や,病原性バイオフィルムの健全化を掲げる私達のバイオフィルム研究の成果を国内外に学会及び論文により発表するために必要不可欠なデータであることから,研究はおおむね順調に進展していると考える.
|
Strategy for Future Research Activity |
私達は,口腔内の病原性バイオフィルムを健全化することにより,口腔内歯科疾患の病原性を低下させる理論的な歯科疾患の予防法の開発を目的とし,研究を行なっている.そのためには,耐性菌を生じさせにくい,誤嚥性肺炎の原因となりにくい,などの条件を満たす抗菌成分は何なのか,を十分に検討する必要性がある.そのために様々な抗菌成分の特徴について,ポリマイクリバイアルバイオフィルムモデルを用いて,分析を行なう必要性がある.次のステップとして,抗菌成分としての銀の口腔内バイオフィルムに対する特徴を分析する.銀は,様々な細菌の増殖を抑制する抗菌効果を持ち,特に薬剤耐性菌に対しても抗菌作用を示すため、抗生物質が効かない感染症にも効果があると期待されている.銀イオンは細菌細胞膜の破壊やタンパク合成阻害により,口腔内プラーク形成を抑制すること,また,インプラント体をコーティングすることにより,インプラント体表面へのプラーク形成を抑制することなどが報告されている.グラム陽性および陰性菌など,広い抗菌スペクトルを有し,その抗菌力は銅イオンや塩素の約10倍大きく,その上,人体への影響も少ないと考えられている.ナノ銀粒子サイズにすることによりイオンの溶出量が増し,その抗菌効果の上乗せが期待できる.しかしながら,銀ナノ粒子を含有する洗口剤が口腔内のような多菌種を含有するバイオフィルムに対して,どの程度,再増殖を抑制し,さらに代謝を抑制するか,その抗菌効果の持続性についての報告は認められない. 本研究の目的は,ヒト口腔内の細菌叢を模したex vivo モデルである多菌種バイオフィルムのう蝕原性に対するナノサイズ銀イオンの効果を分析することである.
|
Causes of Carryover |
この数年の新型コロナウィルスの蔓延により,多くの人員により同時進行を必要とする私たちの研究は計画通りの進行を遂行するに至らず,進行の遅れを余儀なくされた,具体的には,口腔内の多菌種入りバイオフィルムに対して,耐性菌を作ることなどなく,他菌種中の病原菌種の細菌細胞および代謝を抑制することのできる抗菌剤および抗菌療法の発見あるいは開発という点で進行に遅れが生じた.さらに具体的には,初期バイオフィルム形成モデルのみならず,歯周病菌バイオフィルムモデルに対して有効な抗菌成分および抗菌療法の研究が必要であり,それは全く新しい抗菌成分だけに限られたことではなく,場合によっては,既存の抗菌成分の新しい効果,可能性の発見という内容でも構わないと考えている,そこで我々は,銀ナノ粒子にも注目しており,この成分の抗菌効果が,多菌種から構成されている口腔内バイオフィルムの病原性を抑制させる機能を持ち、歯周病や齲蝕のリスクを生体に安全に,抑制させることができるかどうか,次世代シークエンスによる細菌叢の分析手法を用いて,銀ナノ粒子含有含嗽剤による口腔内バイオフィルムの処理後の細菌構造解析を2022年度に行ないたいと考えている.
|