2017 Fiscal Year Research-status Report
シスタチンDの口腔癌に対する抑制効果と作用点の解析
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17K11856
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
吉垣 純子 日本大学, 松戸歯学部, 教授 (40256904)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | シスタチンD / 口腔癌 / システインプロテアーゼ / 癌抑制遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
システインプロテアーゼインヒビターであるシスタチンファミリーが口腔癌細胞に対して癌抑制作用を発揮するかを解析する目的で,口腔癌細胞におけるシスタチンファミリーのmRNA発現量の解析を行った。口腔扁平上皮癌患者の所属リンパ節転移巣に由来する低分化型の癌細胞で,高い転移能を持つと報告されているHSC-3細胞を実験に用いた。遺伝子発現調節を介して癌抑制効果を持つと考えられる1, 25-dihydroxycholecalciferol (活性型ビタミンD3)をHSC-3細胞に添加して6-72時間の培養を行い,増殖速度や形態の変化を観察した。活性型ビタミンD3存在下および非存在下での細胞増殖速度には有意な差はみられなかったが,ビタミンD3を添加した細胞の方が増殖速度が遅くなる傾向がみられた。システインプロテアーゼインヒビターであるシスタチンCおよびDのmRNA発現量の時間変化をリアルタイムRT-PCR法によって測定したところ,シスタチンCの発現量には活性型ビタミンD3添加による変化は見られなかった。一方,シスタチンDはビタミンD3添加6時間後から発現が増加し,その後緩やかに発現が減少したが,添加後48時間までは無添加の細胞と比較して,発現量が高いまま維持されていた。もう一種類のヒト口腔粘膜上皮癌由来細胞であるSATは,増殖速度が遅く転移能を持たないことから,HSC-3と比較して悪性度が低いと考えられている。SAT細胞に活性型ビタミンD3を添加して培養を行なったが,6-72時間の培養中にシスタチンCおよびDのmRNA発現量には有意な変化がみられなかった。このことから,口腔癌細胞においても,これまでに報告されている結腸癌細胞と同様に,悪性度や転移能とシスタチンDの発現の間には関連があり,シスタチンDを機能させることによって癌転移能を抑制できる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
転移能が異なることが報告されている口腔扁平上皮癌由来細胞株HSC-3およびSATについて増殖速度を検討し,転移能が高いHSC-3の増殖速度がSATに比較して著しく高いことを確認した。また,HSC-3細胞を活性型ビタミンD3存在下で培養すると,シスタチンDのmRNA発現量が一過的に増加することを見いだした。一方,他の癌や疾病で発現量が変化すると報告されているシスタチンCのmRNA発現量には変化はみられなかった。しかし, シスタチンDのmRNAレベルでの発現量変化はみられたが,抗シスタチンD抗体によるウエスタンブロッティング解析ではタンパク質を検出できなかった。このことから,発現誘導はされているものの,タンパク質としての発現量は低いことが予想された。そこで,外来性シスタチンDを培地に添加し,エンドサイトーシスで取り込まれることによる癌抑制効果をみることにした。培地に添加するためには大量のシスタチンDタンパク質が必要なため,ブレビバチルスを用いた分泌タンパク質発現系を用いて,ヒト組換えシスタチンDの発現を試みた。ブレビバチルス分泌系は,分泌タンパク質の大量発現および分泌に優れており,活性を維持した大量のタンパク質を得る事が期待できる。また,Hisタグが付加されているため,容易に精製できる。ヒトシスタチンD遺伝子をブレビバチルス発現用ベクターpNC-HisFへ組み込んだ。その結果,発現用プラスミドの作成には成功したが,ブレビバチルスへトランスフォーメーションしても組換体が得られず,現在,培地や培養温度を変更するなどトランスフォーメーション条件を検討中である。同時にラットシスタチンDをブレビバチルス発現系を用いて発現・精製を試みた。ラットシスタチンDは効率良く菌体外に分泌され,培地からコバルトカラムを用いて精製することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の第一目標である口腔癌細胞における内在性シスタチンDの発現量と細胞内局在について解析を行ったが,転移能の高い癌細胞であるHSC-3においては,活性型ビタミンD3による発現量の増加は確認できたものの,タンパク質としての検出や細胞内局在の解析にはいたらなかった。HSC-3のシスタチンD発現量が低いためであることが予想される。そのため,今後は他の口腔癌細胞や唾液腺癌由来細胞を入手し同様の解析を行う。同時に,培地に精製した組換えシスタチンDを添加することによって,癌抑制効果がみられるかを解析する予定である。ラットシスタチンDはすでに大量発現・精製に成功しているが,ヒトシスタチンDの組換えブレビバチルス菌が得られていないため,トランスフォーメーションの条件をさらに検討する。組換ブレビバチルスがどうしても得られない場合には,相同性があることからラットシスタチンDを実験に使用することを考えている。また,コントロールとしてヒトシスタチンCの大量発現系も作成する。精製した組換えシスタチンを培地に添加し,細胞内へ取り込まれるかを解析する。さらに,口腔癌細胞内にヒトシスタチンを強制発現させるための系も作成中である。観察を容易にするために蛍光リガンド結合タンパク質であるHaloTagとの融合遺伝子を作成する。癌細胞に遺伝子導入後,HaloTagと結合する蛍光リガンドを添加してHaloTag融合シスタチンDをラベルして,共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いて細胞内局在および動態を観察する。組換えシスタチンDの培地への添加や細胞内への強制発現の結果,口腔癌細胞の細胞増殖速度や足場非依存性増殖能,浸潤能に変化がみられるか検討する。
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Causes of Carryover |
平成30年度に癌細胞の足場非依存性増殖能および浸潤性の変化を,軟寒天コロニー形成アッセイキット・細胞浸潤活性測定キット(Cell Biolab)によって測定するが,これらは高額なキットであり,購入に費用が多くかかる事を予想し,30年度使用分として予算を残した。
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