2017 Fiscal Year Research-status Report
顆粒膜の脂質MS解析からせまる,分泌タンパク質の濃縮メカニズムの解明
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17K11973
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
加藤 治 (勝俣治) 日本大学, 松戸歯学部, 准教授 (70349968)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 唾液腺 / 耳下腺 / 分泌顆粒 / 顆粒成熟 / 膜ドメイン / 質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
膵臓β細胞の破壊を原因とする1型糖尿病は,インスリンを他の臓器から分泌させる遺伝子療法の適応が望まれる疾患の1つである。遺伝子治療を行うにあたり,代償臓器の第一候補となるのが同じ分泌腺の唾液腺である。唾液腺は口腔内から導管を介して臓器へのアプローチが可能であり,血液側への内分泌も行われるという代償臓器としての利点を兼ね備えている。さらに唾液腺にインスリンを発現させることができれば,唾液分泌と同じように食事時にインスリンを血中に分泌させるという理想的な分泌コントロールが可能となる。ところが代償臓器の第一候補と考えられる唾液腺でさえ,その適応にはインスリンの顆粒濃縮機構の解明,刺激依存的な内分泌経路の解明,そして唾液腺特異的な遺伝子発現法の開発という3つの大きな課題が残されている。本研究では『唾液腺の分泌顆粒にインスリンを濃縮させる。』ということが目的である。平成29年度は分泌顆粒,および未成熟顆粒を精製し,膜脂質の質量分析から顆粒上の新たな膜ドメインを見つけることを予定していた。しかしながら,リン脂質組成の検討はできたが,膜ドメインの主成分である糖脂質の分析までは脂質抽出の困難さから未だ発見には至っていない。脂質抽出方法の検討を進める一方で,未成熟顆粒の機能に注目し,成熟顆粒との違いについて検討を進めた。現在のところ,未成熟顆粒はその大きさも,比重も,膜タンパク質組成も成熟顆粒とは異なる特徴を有しているのにも関わらず,成熟顆粒と同等の分泌能を有することが明らかとなった。この結果は耳下腺分泌顆粒の成熟顆粒の成熟機構は分泌能の獲得のためではなく,他の役割があることを示唆している。本研究の結果は第62回日本唾液腺学会にて発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H30年の初年度はラット耳下腺より未成熟顆粒および,成熟顆粒を分離精製し,質量分析によって新たな膜ドメインの解析を糖脂質であるガングリオシドを中心に行う計画であった。顆粒の分離精製は順調に進んでいたが,現在のところ質量分析には進んでいない。理由としては分泌顆粒には消化酵素であるアミラーゼが濃縮しており,タンパク質脂質比が高いため脂質の抽出が想像以上に困難であったことが挙げられる。現在は連携研究者の日大理工学部の鈴木佑典先生と相談し,糖脂質の適正な抽出方法について再度検討しているところである。 一方で未成熟顆粒の機能分析については検討が進んでいる。イソプロテレノールをラットの腹腔内に注射することにより未成熟顆粒を誘導した耳下腺から,刺激依存的なアミラーゼ分泌とプロカテプシンBの分泌を検出している。プロカテプシンBは未成熟顆粒を経由しリソソームへ輸送されることが報告されているため,未成熟顆粒からの分泌が示唆される。さらに電子顕微鏡観察によって未成熟顆粒が刺激後腺房細胞内から消失していることを確認している。これらの結果はいずれも未成熟顆粒がすでに分泌能を有していることを示しており,顆粒成熟機構の役割は分泌能を有するために行われるのではなく,ソーティングの場としての未成熟顆粒の役割や,顆粒濃縮としての成熟機構の役割が強く示唆される。
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Strategy for Future Research Activity |
未成熟顆粒がすでに分泌能を有していることは予想外であったが,申請者の予想したようにソーティングの場としての未成熟顆粒の役割や,濃縮機構としての成熟過程の役割が推測されている。その機能の解明には分泌顆粒の膜脂質ドメインの解析は近道であると考える。まずは脂質分析の専門家である鈴木先生とよく相談し,慎重に脂質分析を進めていきたい。これまではSvennerholm分配で中性脂肪やリン脂質を除去してから質量分析を行う計画であったが,やはり分配法ではなくミニカラムで精製することが望ましいというのが鈴木先生のアドバイスである。そこで,抽出後の脂質を薄層クロマトグラフィー(TLC)にて分離後,目的のスポットのLC-MS(Triple-Q,あるいはイオントラップ型)解析を行う方法で糖脂質分析を行う計画である。さらに,日大理工学部にナノLCおよびキャピラリー電気泳動を装着したLCMS-IT-TOF MSの導入が検討されているということで,脂質解析装置の多様化によりさらに説得力のある結果が得られると期待される。
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Causes of Carryover |
予定していた試薬が安価で購入できたため,差額として11,926円の残金が生じた。この次年度使用額は分泌顆粒の分離精製用試薬であるパーコールを購入する予定となっている。残りの次年度助成金は消耗品(実験動物,分離試薬,検出試薬)の購入に使用する。
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Research Products
(3 results)