2020 Fiscal Year Research-status Report
顆粒膜の脂質MS解析からせまる,分泌タンパク質の濃縮メカニズムの解明
Project/Area Number |
17K11973
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
加藤 治 (勝俣治) 日本大学, 松戸歯学部, 准教授 (70349968)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 唾液腺 / 分泌顆粒 / 膜脂質ドメイン |
Outline of Annual Research Achievements |
1型糖尿病は小児期から発症する疾患であり,膵臓のβ細胞の機能不全を伴うことから,早期の遺伝子治療の適応が望まれる。障害を起こした膵臓の代償臓器として唾液腺の適応が期待されるが,唾液分泌も未だ不明なメカニズムが多く,遺伝子治療の応用には1)耳下腺へのインスリンの発現方法の確立,2)分泌顆粒へのインスリン濃縮機構の解明,そして3)刺激依存的な血管側への分泌調節という3つの大きな課題が残されている。本研究ではそのうち分泌顆粒への分泌タンパク質の濃縮機構を解明するため,分泌顆粒の膜脂質に注目しアプローチを進めている。これまでに細胞表面と同様に分泌顆粒膜にも膜脂質ドメインが存在し,膜タンパク質の局在を制御していることを明らかにしており,顆粒成熟機構への関与が示唆されている。さらに未成熟顆粒に存在するガングリオシドGM1aをメインとする膜脂質ドメインには,顆粒生成に重要なシンタキシン6やVAMP4が局在しており,そこには分泌タンパク質であるアミラーゼの抗体に反応するバンドも検出された。ところが成熟後ではシンタキシン6とVAMP4が新しい膜脂質ドメインとしてGM1aから分離されることが明らかとなった。新しい膜脂質ドメインの脂質組成は不明のため,糖脂質解析からアプローチすることで,膜脂質による顆粒膜タンパク質の分離機構,さらには顆粒の濃縮機構の解明を期待するものである。 本年度はCOVID-19の影響で思うような試薬やプラスチック製品の購入ができず研究遂行に大きな影響がでた。そのため他機関で予定の糖脂質分析は行うことができなかった。そこでラット腹腔へのイソプロテレノール注射後の,細胞内のアミラーゼ比活性,顆粒膜タンパク質の組成の検出,および顆粒の形成量の観察を行い,分泌顆粒の成熟度を客観的に評価する指標の確立を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
最終年度であった令和2年度はラット耳下腺より精製した未成熟顆粒および,成熟顆粒の膜画分を質量分析し,新たな膜ドメインの解析を中心に行う計画であった。ところが,COVID-19により実験遂行に遅れが生じた。試薬や器具の購入もできない状態が続き,研究機関の延長を申請し,最終年度に向けた研究基盤の構築を行った。 これまで,ラットにβ刺激薬であるイソプロテレノールを腹腔内投与(5 mg/kg)すると5時間後に小さい顆粒の形成が観察された。刺激5時間後に精製した分泌顆粒は直径も約半分で,膜タンパク質組成もこれまで未成熟顆粒と報告のある低比重顆粒と同様であった。このことから刺激5時間後に分離される分泌顆粒を未成熟顆粒として実験を行ってきた。ところが,顆粒形成は刺激5時間後から顆粒形成量は急激に増加し,その2,3時間後には成熟顆粒となる。この顆粒形成から成熟の変化は劇的であり,刺激5時間後の顆粒の成熟度を一定に保つことは非常に困難であることがわかってきた。そこで顆粒成熟度を客観的に評価するために,注射後,経時的に耳下腺を摘出し,臓器タンパク質あたりのアミラーゼ比活性,組織切片における顆粒形成量の観察,および精製顆粒膜における膜タンパク質組成の確認をそれぞれの個体で行い,アミラーゼ比活性が客観的な顆粒成熟度の指標になるかどうかを検討した。 アミラーゼ比活性と組織切片で観察される顆粒形成量との関係が観察された。現在はその相関関係を検討中である。また顆粒膜タンパク質については未成熟顆粒のマーカーをシンタキシン6,成熟顆粒のマーカーをVAMP2として顆粒膜を分離し,ウエスタンブロッティング法にて検出を行っている。アミラーゼ比活性と顆粒成熟度との相関関係を示すことができれば,今後の顆粒成熟過程の検討に大きなアドバンテージとなると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
COVID-19の影響により実験期間を延長した令和3年度が最終年度となるが,いまだ感染の収束は未定のため,他機関での脂質分析を行える見通しは立たない。まずは現在行っている成熟度の客観的評価を行うため,組織切片における顆粒形成量の数値化を行う。これには細胞当たりの顆粒量を面積比で算出する。当研究室にはZEISS社製の画像イメージ解析ソフトであるIMARISが設備されている。そこで,アミラーゼと細胞膜を蛍光染色し,3D画像を再構築し,細胞当たりの顆粒量を測定する方法を試みる。また,トルイジンブルー染色により顆粒を染めた組織切片をNIH imageを用い測定する方法を考えている。 膜タンパク質組成による確認は未成熟顆粒に濃縮するシンタキシン6やVAMP4,γ-アダプチン,一方,成熟顆粒はVAMP2,Rab3A, Rab3D, munc-18, SNAP-23,アクアポリン5をマーカーとする。これによりアミラーゼの比活性,顆粒の大きさ,形成量,膜タンパク質組成の変化を明らかにし,成熟度の指標を確立させる。 令和3年度は実験計画の最終年度となるため,次の実験計画につながるように顆粒成熟度の客観的指標を確立させ,成熟過程における膜脂質ドメインの役割を検討につなげたいと考えている。
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Causes of Carryover |
令和2年度はCOVID-19の影響により,実験試薬や物品の購入が滞り,実験の遂行に支障がでた。そのため研究期間延長を申請し,繰越した次年度の助成金は消耗品(実験動物,顆粒分離試薬,脂質合成酵素阻害薬,各種抗体,実験器具)の購入,あるいは実験結果の解析用のPC機器の購入に使用する予定である。
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