2018 Fiscal Year Research-status Report
高齢癌患者の免疫チェックポイント阻害剤使用時のカンジダ症発現機序と予防法の確立
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17K12053
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Research Institution | Ohu University |
Principal Investigator |
清浦 有祐 奥羽大学, 歯学部, 教授 (90194951)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 免疫チェックポイント阻害剤 / 口腔カンジダ症 / 免疫抑制剤 / テトラサイクリン / 腸内細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
「免疫チェックポイント阻害剤」は、担癌患者の免疫抑制状態を解除する画期的な癌治療薬で、高齢の癌患者にも広く用いられている。しかしながら、副作用である過剰な免疫応答を抑制するために、免疫抑制剤のプレドニゾロンが併用されるため、高齢者では感染症としての口腔カンジダ症の起こるリスクが高まる。 本研究は、「免疫チェックポイント阻害剤」を用いた高齢者の癌治療時のプレドニゾロン投与が誘因となるカンジダ症の発症メカニズムを、口腔カンジダ症マウスモデルによるin vivo実験で解明するために実験をおこなった。 本年度は、以下の結果を得た。①マウスの腸内細菌叢構成細菌のゲノムDNAを解析した結果、コントロール群に比較してプレドニゾロンの投与群は, Firmicutesが大きく増加し, Bacteroidesが減少した。テトラサイクリン含有水道水を飲水させた群では, プレドニゾロン投与群とは反対にFirmicutesが減少し, Bacteroidesが増加した。プレドニゾロンの投与とテトラサイクリン含有水道水の飲水の両方を行った場合は, Firmicutesが減少し, Bacteroidesが増加した。②テトラサイクリン含有水道水の飲水のみを行った場合をコントロールとすると, プレドニゾロンまたは抗PD-1抗体を投与した場合は腸管内のC. albicans菌数が同程度に有意に増加した。一方, プレドニゾロンと抗PD-1抗体投与の両方を行った場合は,コントロールに比較してC. albicans菌数が増加しただけでなく, テトラサイクリン含有水道水の飲水とプレドニゾロン投与の両方を行った場合よりもC. albicans菌数が有意に大きく増加した。 以上の結果から, 抗PD-1抗体の投与によって起こる宿主の免疫応答の修飾が腸管内におけるC. albicansの定着を亢進させることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
免疫チェックポイント阻害剤の抗PD-1抗体の投与は免疫応答を促進することで、自己免疫疾患の誘発などの免疫機能亢進による有害事象が起こる危険性がある。それを予防するためにプレドニゾロンのような免疫抑制剤が投与される。したがって、免疫チェックポイント阻害剤の抗PD-1抗体単独投与では免疫機能が亢進し、免疫抑制剤のプレドニゾロン併用投与では免疫機能が抑制されると予想した。 しかし、実験結果はプレドニゾロン単独投与に比較して、プレドニゾロンと抗PD-1抗体の併用投与は免疫抑制をさらに強めて、腸管内のC. albicans数は有意に高く増加した。この結果は一見矛盾しているが、現在さまざまな論文で報告されている抗PD-1抗体のヒトにおける使用結果の中には、この結果を裏付けるものもある。 例えば、抗癌治療の手段として抗PD-1抗体を投与した場合に、悪性腫瘍の増悪を認めた論文が報告されている。したがって、今回の結果は抗PD-1抗体のin vivoにおける投与が単に免疫機能を亢進させるのではなく、実際の体内では一部の免疫機能を大きく抑制することを示している。なぜ、癌細胞に対する免疫機能を抑制することが抗PD-1抗体投与で起きてしまうかのメカニズムを明らかにすることに、今回の結果が応用できると考えるためである。
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Strategy for Future Research Activity |
口腔カンジダ症のマウスモデルを用いて、「免疫チェックポイント阻害剤」と免疫抑制剤のプレドニゾロンを併用した癌治療が宿主の感染防御システムに与える変化を捉え、その変化が Candida albicans の感染がどのように増悪していくかを明らかにする。具体的には、1. 舌組織における C. albicans 感染防御に関与するサイトカイン産生とC型レクチン受容体の一つである galectin-3 発現を指標として同真菌に対する免疫応答を調べる。2. 口腔カンジダ症を起こしたマウスでは、口腔内から肺に C.albicansが移行して誤嚥性肺炎類似の炎症像が肺で認められる結果を得ていることから、「免疫チェックポイント阻害剤」である抗 PD-1 抗体とプレドニゾロンの投与後における誤嚥性肺炎の病態を解析する。3. カンジダ症をマウスに起こさせた後、舌組織と肺組織におけるToll-like receptor およびC型レクチン受容体の発現を検討し、抗 PD-1 抗体非投与群と比較する。4. キナーゼインヒビターである PQA-18 など新しい低分子免疫抑制剤を経口でマウスに投与後、プレドニゾロン投与群と比較して口腔カンジダ症の重症度を検討する。 腸内細菌の中には C. albicans の腸管内への定着を促進する菌種と抑制する菌種の2つのタイプがある。プレドニゾロンによって増加した菌種が C.albicans の増殖を促進するもので、免疫抑制剤の投与がカンジダ血症などの重篤なカンジダ症発現の誘因となる可能性が考えられる。
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Causes of Carryover |
抗PD-1抗体を用いた実験計画の中で、高額なゲノム解析のための費用を残す必要があったため。
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