2017 Fiscal Year Research-status Report
外国人患者と医療者間のコミュニケーション阻害要因の社会言語学的解明
Project/Area Number |
17K12112
|
Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
田島 弥生 岐阜大学, 医学部, 准教授 (10758204)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ポライトネス / 医療コミュニケーション / 語用論的規則 / 異文化理解 |
Outline of Annual Research Achievements |
医療ツーリズムや外国人患者の増加に伴い、異なる言語や文化背景を持つ患者との円滑な医療コミュニケーションの構築が益々求められるようになった。本研究は外国人患者との医療面接を、社会言語学理論の一つである Brown & Levinson(1987)のポライトネス理論から分析し、その阻害要因を特定する。 ポライトネス(人間関係構築に貢献する発話スタイル)は、緩やかな語用論的規則として母語話者間に共有されている。そのため、たとえ日本語の語彙や統語規則を十分に理解している外国人であったとしても、日本語特有のポライトネスに不慣れなために人間関係の構築が阻害されることがある。本研究は、このような言語特有のポライトネスが外国人患者の医療コミュニケーション阻害要因となることを実験によって示し、その上で、外国人患者との円滑な医療コミュニケーションに役立つ具体的な方策を提示することを目的としている。 外国人患者との医療面接において、コミュニケーションを阻害する可能性があるポライトネス要因とは、情報構造の言語差である。日本人母語話者には周辺情報から言語化するという言語習慣が観察されるが、これも文法規則のように強い言語的制約を持つものではなく、母語話者間に緩やかに共有されている語用論的規則の一つである。これまでの研究結果では、依頼発話に言語による情報構造の差異が観察されたが、医療面接の場でも同様の差異が言語グループ間に観察されるかどうかについて、そしてまた、医療面接において情報構造の差異が観察される場合には、その言語的差異が、医療面接に対する患者の満足度にどのように影響を及ぼしうるかについて、実験的に検証する。 そこで、岐阜大学保健管理センターに実験協力を依頼し、外国人留学生との医療面接を録音し、データを分析させていただく同意を得た。現在、具体的な実験方法について検討しているところである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
学内業務の増加に伴い、研究に充てる時間が十分に確保できていない。
|
Strategy for Future Research Activity |
岐阜大学保健管理センターの協力を得て、外国人留学生(15名)に対して英語で実施される医療面接をICレコーダーで録音する。同時に、日本人学生(5名)に対して日本語で実施される医療面接も、同様にICレコーダーで録音する。協力者には実験参加前にデータ収集の目的と意義を口頭および書面にて説明し、理解が得られたことを確認した上で、同意書に署名をしてもらう。医療面接後にフォローアップアンケートを実施し、医療面接に対する患者満足度を測る。 録音した医療面接の逐語録を作成し、医師-患者間の相互作用をThomas(1995)の会話分析を用いて分析する。言語グループ(日本語/中国語/韓国語母語話者)別に、医療面接で使用されるポライトネス、特に前置き表現の使用頻度による情報構造の言語差について明らかにする。音声データの分析結果を、フォローアップアンケートによる医療面接に対する患者満足度と照らし合わせ、言語グループ別にその相関性を統計的に検証する。 さらに追加実験として、実験参加者に対して、静止画像に対する眼球運動測定実験を行い、言語発話における情報構造と、周辺認知における認知構造との間に相関性が認められるかどうかについても検証する。 これらの実験により、言語発話に見られる情報構造、および周辺認知に観察される認知構造における言語グループによる差異と、医療面接に対する満足度との相関性を明らかにし、外国人患者の医療コミュニケーションを阻害している要因を言語、認知の両面から特定する。
|
Causes of Carryover |
当初の計画から新たに追加実験として、医療面接の録音による言語データ収集ののち、実験参加者に対して、静止画像に対する眼球運動測定実験を行い、言語発話における情報構造と、周辺認知における認知構造との間に相関性が認められるかどうかについても検証したいと考えている。これらの実験により、言語発話に見られる情報構造、および周辺認知に観察される認知構造における言語グループによる差異と、医療面接に対する満足度との相関性を明らかにし、外国人患者の医療コミュニケーションを阻害している要因を言語、認知の両面から特定したいと考えている。そこで、次年度使用額と翌年度分の助成金とを合わせて、眼球運動測定実験に必要な機器を購入する計画である。
|