2017 Fiscal Year Research-status Report
帝国日本と植民地災害―日本植民地時代の台湾震災史を中心にー
Project/Area Number |
17K12633
|
Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
荒川 章二 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (30202732)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 植民地 / 震災 / 台湾 / 帝国日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度当初より、6月から始まる国立台湾歴史博物館の特別展「地震帯上的共同體:歴史中的臺日震災特別展」(~12月)に対する、関東大震災関係資料借用(台湾での展示利用)の仲介・援助をおこなった。この関係で、特別展図録に挨拶文寄稿を依頼された(「国立台湾歴史博物館「地震帯上的共同體:歴史中的臺日震災特別展」によせて-国際協力の台日震災史共同展示として-」,『地震帯上の共同体 歴史の中の日台震災』,国立歴史民俗博物館,pp.5-8,台湾,2017年10月)。研究発表としては、国立台北芸術大学主催・国立台湾歴史博物館共催:フォーラム「負歴史遺産、當代歴史意識與博物館」(於:国立台湾歴史博物館、2017年7月14日~15日)に口頭発表「「東アジアにおける地震史と植民地時代史」をおこない、台湾の災害史研究者との交流、意見交換を行った。さらに、この研究会の後、水害で故郷を失った高雄市の平埔族の調査を実施し、台湾原住民と大災害経験の関係についての実例を考える機会を得ることができた。しかしながら、本年度予定した国内外の資料調査については、上記などの事情から進める機会を得なかった。 物品費及び人件費(謝金)として本年度経費の相当部分を割り当てていた石川凖吉の戦後災害関係資料については、年度後半に補助作業体制を整え、週2日、3ヶ月間にわたる集中的な整理作業をおこなった。石川資料5700余点の内、2割程度が戦後災害関係であり、今年度の整理により、伊勢湾台風・狩野川台風被害を中心とした災害実態報告や災害基本法立案過程の行政的健闘経過などの重要資料に関し、利用と公開の準備がほぼ整えられた。本研究の視点からすれば、帝国時代の国家総動員体制と戦後の総合的災害対策の関連性という側面で、基本資料と位置付けられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記「実績」に記したように、台湾の研究フォーラムでの講演や台湾での震災展実施(準備や実際の展示批評)を介した台湾研究者との意見交換、実際の震災が原住民など現地住民にどのような生活・生産様式の変貌を強いることのなるかという実地調査など、当初の研究実施計画では予定しなかった活動機会に恵まれ、また、戦後災害資料整理に関しては予定通りの進捗を得たが、当初の研究計画で1年目の眼目とした基本資料調査をほとんど進展させることができなかった。評価はこの点を考慮したものである。特に、これまでの調査で、想定以上の植民地資料にアクセスできる内容と期待している宮内庁書陵部所蔵の報告書(上奏など)の調査や東大地震研究所図書館に至らなかったことを重視した評価である。また、本研究代表が提示した台湾と日本との地震発生をめぐる地帯構造的な連関や、植民地期震災をめぐる外交文書(外交という観点からの地震問題)については、国立歴史民俗博物館が推進している総合資料学でも活用されているのだが、この面でも外交史料館などの調査をさらに進める時間を割けなかった。 また、これも当初計画にはなかったことだが、年度途中で地震学者との台湾への共同調査の企画を進めていたのだが、これも年度末での両者の日程調整がおりあえず、残念ながら実現できなかった。準備過程での経験を踏まえて、この研究課題の出発点において、地震学者などとの学祭的研究体制を取り入れることが非常に重要であると想定してことでもあり(ただし経費は相互の独自の準備とならざるを得ない)、できれば来年度には、実現させたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の平成30年度計画では、前年度の調査を踏まえた中間総括を予定していたが、上述の経緯で研究発表や研究成果を活用しての博物館展示への援助などが先行して基本調査が遅れているため、この遅れを挽回するべく、東京都内の資料館、防災研究機関などの調査、及び台湾での文献調査を活動の基本とする。当初視野に入っていなかった機関としては、本年度中に若干の予備調査をおこなった防災専門図書館の資料と職員の専門情報にも注目している。本研究では、植民地の地震調査が帝国の地震学・防災科学形成にどのような影響を与えたのかについても注目しているが、その調査観測の前線拠点であった気気象台が植民地でどのように形成・運用されているのかにも注目したいと考えている。その面で、同図書館及び気象庁関係資料の調査を、帝国における「学知」の形成の問題として、新たに組み入れたいと考えている。 戦後の防災基本法制定過程に関しては、資料の整理がほぼ完了したことで本格調査分析の条件が整ったので、こちらについては所蔵機関である国立歴史民俗博物館での資料の読み込みを中心に吸える予定である。
|
Causes of Carryover |
研究経過に記した経緯から旅費の予算執行が少なめになったことが主たる理由である。当初見積もった戦後災害関係の資料整理の人件費が、想定の約2割以上増えたこと、整理に当たって想定以上に資材購入費(主として中性紙袋、中性紙箱」)がかさみ、旅費にも食い込んだが、特に国内機関の調査がほとんどできなかったことから、結果的に旅費分と資料複写代金などが未執行の形となった。未使用となった13万円余については、来年度の調査旅費に組み込んで執行予定である。本年度までの職場を退職して、関東圏から静岡県に住居を移すため2年目から国内機関の調査旅費が増えざるを得ないことは当初の研究計画の見通しの範囲内である。未使用額は台湾調査旅費にあて、20万円を国内調査旅費として執行したい。
|
Research Products
(3 results)