2018 Fiscal Year Research-status Report
帝国日本と植民地災害―日本植民地時代の台湾震災史を中心にー
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17K12633
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
荒川 章二 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 名誉教授 (30202732)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 植民地 / 震災 / 台湾 / 帝国日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、台湾経世新報社編『台湾大年表』(緑陰書房復刻版)を手がかりにして、明治28年~昭和13年までの戦前植民地時代の台湾における震災を全て拾い出し、各震災に関する記事の検索作業を進めた。そのほぼ全時期をカバーする『台湾日日新報』については、主として国立国会図書館の新聞資料室にて、上記年表未記載の震災を含めて、現在まで1000項目(約800ページ分)を超える記事を拾いだした。作業は1935年の最大の震災記事の検索について積み残しているが、この網羅的検索作業から、時期毎の震災被害・救援の特質、地域別集中度、台湾内の東西・南北の震災の質的相違、余震の頻度の際立った差異など、従来の台湾震災史では語られていない、いくつかの側面が明らかになりつつある。特に、各震災での義援金募集の経緯については、詳細な新聞検索により、「領収報告」掲載の応募者名(日本人と台湾人の区別)を含めて、展開過程が明らかになり、天皇の救恤や侍従派遣の意義付けを含め帝国史的側面からも考察できる条件も得られた。また、一部追弔行事の執行についても判明した。 震災に関わる行政、統計、諸組織、団体、測候所史など各側面については、防災専門図書館(千代田区)、一般財団法人台湾協会(新宿区、台湾からの戦後引揚者関係の資料を所蔵・公開)、日比谷図書文化館内田嘉吉(元台湾総督)文庫などの調査により、総督府の出版物や戦後台湾で刊行された文献を含めて、調査を行なった。 もう一つの課題である国立歴史民俗博物館所蔵石川凖吉資料に関しては、行政監察行政に携わっていた当時を中心に1950~70年代の防災基本法制定過程、伊勢湾台風対応、災害調査資料など150点ほどの簿冊に関する内容的チェックを行った。撮影・複写については次年度の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究では、1935年の台湾史上最大の被害をもたらした大震災の調査に端を発し、研究史がほとんど空白であった1900年代に立て続けに起こった烈震調査に展開すること、さらにそれ以上に従来ほとんど注目されてこなかった、その中間の1910年代~20年代の震災被害とその救援体制の実情まで明らかにすることを目標としているが、その結果、上記実績に記載したような、それぞれの震災の性格の相違、救済システムの進展など、時期的な変化が明らかになりつつあり、さらに、震災ごとに、日本の地震学者のコメント、分析記事が掲載されていることから、これまでの推測の域を超えて、日本の地震学の展開との関係も浮かび上がりつつある。また、震災記事検索調査では、関東大震災に対する台湾内での報道や救援募金活動にも目を配り、本国→台湾という一方向ではなく、植民地→本国震災を含めた相互関係を視野に入れて実施した、双方向の救援体制による、震災をめぐる帝国内政治、帝国の一体的意識の形成と災害との関係、も射程に入りつつある。なお、2019年4月初旬に台湾での調査を行い(本科研費外の調査)、台南の気象台にて震災関係の資料を閲覧した。 第2課題の石川資料の分析がやや遅れ気味であるが、第一の主要課題の進展から、上記の自己評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である本年度は、『台湾日日新報』の検索、複写、分析を早急に完了させ、その他の台湾で刊行されていた新聞(外地版を含め)、および、雑報欄に震災記事関係が掲載されている『台湾協会会報』などの検索を、年度当初に優先的に行う。その上で、8月に台湾での調査を組み、総督府資料の追加調査を行いたい。台湾の国立歴史博物館とは、別件での共同研究の交流が進んでいるので、あわせて本研究での調査サポートを受けることも可能であり、こうした条件を活用したい。 その上で、植民地台湾時代の震災研究に関しては、すでに収集済みの台湾総督府資料、戦前台湾における震災関係出版物、国内の防衛研究所資料や宮内文書館資料を合わせて、本年度後半に論考をまとめ、投稿を行う予定である。
石川資料による戦後災害対策史については、本年度中に資料の整理分析を完了して、次年度以降に繋げる。そのために、研究ノート的なまとめを今年度末までに完了させ、次年度の本稿作成を準備する。
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Causes of Carryover |
使用残額の関する理由は2点である。第1は、別途研究の調査や出張、海外での国際研究集会での研究発表の関係で台湾での調査が年度内に組めず、かつ、年度明けの実施にあたっては、別途の予算を当てることができたためである。次年度は、2度の台湾調査を予定しているので、ここで節約された剰余はこちらに振り向ける。第2は、年度末の公費支払いの複写の関係で、検索作業のみを優先して、該当記事の資料複写を次年度送りにせざるを得なかったためである。複写依頼箇所か確定している予想資料代金は、10万円弱であり、第1、2を合わせれば、ほぼB-Aの額に相当する。後者の輻射に関しては、5月中に複写依頼手続きを済ませ、消化できる見込みである。
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