2018 Fiscal Year Research-status Report
乗算出力と多入力型ΔΣ変調を用いた超多チャンネル駆動法による音波面の再生
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17K12732
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Research Institution | Shizuoka Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
武岡 成人 静岡理工科大学, 理工学部, 講師 (30514468)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 多入力型ΔΣ変調器 / MIDS / スピーカアレイ / 波面合成法 / 音場再現 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は乗算出力トランスデューサと,自らが提案している多入力型ΔΣ変調器(MIDS)を併用した新しい多チャンネル駆動法に関するものである。本年度は実装に向けた検討を中心に進めた。 ・多入力型ΔΣ変調器の雑音伝達関数及び安定性に関する検討 前年度までの検討課題を元に提案手法のキーテクノロジである多入力型ΔΣ変調器について,具体的には雑音伝達関数と駆動点数の関係および系の安定性に関して理論計算とシミュレーションを行った。その結果,1次変調器では常に安定動作するものの量子化器で発生する量子化誤差は特性を持つこと,通常のΔΣ変調器と異なり安定動作には2次変調器以上でループフィルタの極シフトを要すること,また高次の変調器では量子化雑音は概ね一様乱数とみなせることが確認された。また,それらに応じて変調器をチャンネル単位で等価的に考えた場合に量子化器の持つゲインが1次変調器では駆動点数の逆数,高次な変調器では駆動点数の平方根の逆数に近似されることが明らかとなった。これらの知見から量子化器入力の総エネルギーがシステムの安定性に関連していることが示され,それらを元に実験的な曲線を求めることで提案法における最適な極位置を概算できることを明らかにした。 ・ダイナミック型構造による高密度駆動実験 提案法の実用上での課題である乗算出力スピーカに関して,前年度までに得られた知見をもとに実装実験を行った。振動膜上にプリントパタンとダイオードを用いてex-or構造を構成しダイナミック型の駆動を行う手法に関して波面合成実験を行った。20cm四方の範囲ではあるが1cm刻みという極めて高密度に400chの駆動点を40本の制御線で制御する実験を行い,可聴域全般の任意の音波面が合成できている様子,すなわち提案法の利点である駆動線の二乗の点数をマトリクス構造かつ同時に制御できている点を実装実験からも確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は提案する多入力型ΔΣ変調器を用いた多チャンネル駆動法に関して実装上の検討を加えた。 多入力型ΔΣ変調器に関しては前年度までの知見に加えて安定性に関する検証が成され,また雑音伝達関数に関して次数に応じて特異な特性となることが明らかになった。これにより本研究における主たるテーマである超多チャンネル駆動に向けた変調器の設計に向けて,条件に応じた構成が具体的に可能となった。また,ハードウェア上の課題であった乗算出力スピーカの検討に関しては,ダイナミック型,コンデンサ型の検討を進めた。特にダイナミック型では高密度配置の試作を行い波面合成実験により有用性が確認されたものの,スイッチング駆動時のダイオードの非線形特性が理想的でないことに起因するノイズへの対応という実用上の課題が残されているのが現状である。 総じて研究執行上の位置づけとしては,今年度までの基礎検討段階から次年度の実験段階に向けて理論面では駆動点数に応じた設計法を確立し,ハードウェア面では手法の有用性と課題が明確になった。実験システム構築への指針に関する判断材料が整ってきたことから上記のように達成度に関して評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は駆動線が共通でありながら各点を独立に制御する新しいアレイ駆動法を用いて,空間の標本化定理を満たすシームレスな音場再生を実現することにある。2018年までの検討から理論面では特性に応じた変調器の設計を行うことが可能となった。そこで2019年度以降はこれらの信号を用いた再生実験を進めていく。ハードウェア面ではこれまでの検討からダイナミック構造,コンデンサ構造を用いることで極めて簡潔に乗算出力スピーカを構成できることを確認しているが,ノイズ面で課題を残していた。そこで2019年度はそれら構成の検討を継続する一方で,原理的なコスト面でデメリットがあるものの精度に確実性がある既存のスピーカとディジタル素子の組み合わせにより提案する高密度スピーカアレイを試作し,提案法自体の評価実験を行う。具体的には30×30cm程度を目標に1cm刻みのスピーカアレイを既存スピーカと提案法により作成し,出力波面を観察・評価する。またそれら再生波面の心理評価に向けた基礎検討を進めていく。 加えて,提案法を用いた3次元音場の収録・再生も試みていく。提案法を収録系として用いる際にはチャンネル数に応じた変調器を構成する必要がある。高密度かつ1000chを超えるオーダの構成を想定していることからFPGAによる実装が考えられるが,演算器のコストを考慮する必要がある。そこで具体的な検討内容としては多入力型ΔΣ変調器について,ハードウェアにインプリメント可能な構成に関して検討する。提案法が多チャンネル構造であることに着目し,演算ビット数の少ない変調器を組み合わせて多チャンネル構造とする変調器など検討をすすめ,リアルタイム伝送の実験を進めていく。
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Causes of Carryover |
前年度に残額が生じた理由は年度末に投稿予定であった当該年度成果の論文に関して,訂正箇所が見つかったことから投稿を延期したことによるものである。 また,本年度の使用計画としては,主として試作するスピーカアレイ,マイクアレイの製作費として使用し,また成果報告としての論文投稿費,学会発表旅費にあてる予定である。
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Research Products
(2 results)