2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K12783
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐野 幸恵 筑波大学, システム情報系, 助教 (60580206)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ブログ / 実データ解析 / 集合的記憶 / 集合的感情 / ネットワーク分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ウェブ上に残る人々の書き込みデータを用いて、集団的記憶の忘却と想起をモデル化し、理解することを目的としている。本年度は、特に感情に関する記憶について詳細な解析を行い、論文を公開することができた。感情に関する集合的記憶に関しては、そもそも「感情」や「記憶」を定義することが困難なこともあり、実データに基づく議論がほとんど存在しない状態であった。しかし本研究で初めて、大規模なウェブデータ(ブログデータ約20億記事)に基づいてその存在を示すことができた。この結果は、2018年の8月には論文を投稿し、11月には人工知能学会の合同研究会にて招待講演として発表した。投稿した論文は2019年3月にオープンアクセスで公開されている。 感情に関する記憶の他に、本年度は映画俳優に関する書き込みの分析を行い、ある俳優に大きなニュースが入った際には、過去に共演経験のある俳優まで影響を受けることを実データに基づき示すことができた。具体的には、日本語のブログへの書き込み頻度と英語のWikipediaの当該ページへのアクセス数という言語やメディアが異なる視点から分析を行い、同様の結果を得ることができた。この結果は、2018年11月に人工知能学会の合同研究会にて、指導学生と共著で発表することができた。 ニュースのあった当人の名前ではなく、過去に関係のある人物名が思い出されることは、典型的な想起現象である。これは、想起現象の背後に社会ネットワークが強く影響していることを示しており、今後、頻度時系列分析とその関係性(共演関係など)のネットワーク分析を同時に行うことで、集合的記憶の想起現象の解明に近づけることが期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度までに、実データ分析に関しては順調に遂行できており、論文も公開できた。しかし、集合的記憶「モデル開発」の部分に関しては、未だ実装等には至っていない。理由としては、これまでに得られた実データ分析の結果自体が、非常に興味深く、結果を考察し、論文にまとめる過程に非常に多くの時間がかかったことが原因に考えられる。さらに、分析結果自体を発表することで得られたフィードバックから、さらなる分析へと進めているうちに、モデル開発が遅れてしまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、ここまで得られた分析結果の分析には一区切りをつけ、集合的記憶モデルの開発を重点的に行う。特にエージェントベースモデルを開発し、シミュレーションを繰り返すことで当初の目的である集合的記憶モデルの開発を達成したいと考えている。 具体的には、これまでの研究結果から得られた知見を元に、各エージェントが内部にある出来事への関心度を持ち、その関心度がべき関数的に減衰するモデルをスタート地点に考える。このエージェントが、さらにネットワーク上から流れてきた情報をトリガーとし、自発的に物事を思い出し(想起し)、それらがさらにフィードバックし、影響し合うことで、集団的記憶が想起するモデルを考える。 シミュレーションでは研究室の大学院生らと協力し合うことで、多くのシナリオでの実装を試みる予定である。また、得られた結果を海外や国内の共同研究者らと共有し、これまでに得られた分析結果と照らし合わせながら進めることで、より現実的なモデルの開発へとつなげていく。
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