2017 Fiscal Year Research-status Report
南極氷床コアの大気組成分析による間氷期から氷期への寒冷化メカニズムの解明
Project/Area Number |
17K12816
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Research Institution | National Institute of Polar Research |
Principal Investigator |
大藪 幾美 国立極地研究所, 研究教育系, 研究員 (20758396)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 氷床コア / 南極 / ドームふじ / 年代決定 / 古気候 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、南極ドームふじ氷床コアから17-26万年の大気組成を復元し、酸素と窒素の濃度比(δO2/N2)を用いて正確な年代決定を行うことで、日射量や気温、温室効果ガス、海水準変動などの正確な時間間関係を明らかにすることと、それらの検討から気候変動メカニズムの理解を進めることを目的としている。また、窒素とアルゴンの同位体比の気温の指標としての可能性を検証する。 平成29年度は、17-26万年のドームふじ氷床コアから大気組成を約2000年間隔で分析し、特に年代決定に必要なδO2/N2をこれまでにない高精度で取得した。氷コア試料の表面付近では、コア保管中の酸素の選択的損失によりδO2/N2が低下しており、分別の影響のないデータを取得するためには氷表面を5~20 mm除去する必要がある。分別を受けている表面層の厚さはコアの深度や保管期間・温度によって異なるうえ、必要以上の切除は試料長の増大(分解能の低下)や貴重なコア試料の消費につながるため避けなければならない。そのため、本研究で使用する分析試料に対して必要な除去厚を実験的に求めた(10mm)。これにより、δO2/N2の分析精度として0.067‰(1σ)を達成した。この精度は欧州のデータより一桁高く、さらには同装置を使用して過去に取得したデータ(1σ=0.077‰)よりも高い。このようにして得られたδO2/N2は、ドームふじの夏至日射量と非常によく似た変動を示し、先行研究で課題となっていた、22~23万年前のδO2/N2のデータの質が低く年代決定に用いることができない問題点を解決できる見込みが立った。 窒素やアルゴンの同位体比が気温の指標として使用できる可能性を検討するためには、氷床上部の通気層(フィルン)における空気の分別過程を理解する必要がある。そのため、南極沿岸部で採取されたフィルン空気を分析し、窒素やアルゴンの分別過程を調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、約2000年間隔でδ15N、δ18O、δO2/N2、δ40Ar、δAr/N2、CH4濃度のデータを取得し、測定予定数の約1/4の分析を終えた。δO2/N2の高精度データを取得するための試料処理条件を検討しつつ、慎重に分析を進めた結果、δO2/N2の氷試料表面付近で生じる分別の影響を排除するための必要除去量を明らかにできた。現在までの試料測定数は予定より少ないが、今後は従来より高精度で効率よくデータを取得することが可能になった。ドームふじコアを用いた先行研究では22-23万年前のデータの質が悪く、他のコアの年代を使用していたが、今年度に取得したデータはドームふじの夏至日射量の変動曲線とよく似た変動を示しており、問題解決の見込みが立つところまで進捗した。分析精度に関しては、δO2/N2のみならず、δ15NとCH4も世界最高水準の精度を達成している。また、当初の実施計画にはなかった南極沿岸部のフィルン空気のδ15N、δ18O、δO2/N2、δ40Ar、δAr/N2、CH4濃度のデータを取得し、フィルンにおける気体の拡散と気泡形成時の分別に関する理解を深めた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に確立した試料処理条件を適用してドームふじ氷床コアの分析を進め、高精度年代決定に必要なδO2/N2をはじめとする気体組成のデータを取得する。得られるδO2/N2データを現地の夏至日射量変動と対比することにより、ドームふじ氷床コアの年代決定を行う。こうして新たに得られる年代を適用したCH4濃度を、放射性同位体(ウラン-トリウム法)により絶対年代が推定されている北半球の石筍のδ18Oと比較することで、双方の年代決定の整合性・妥当性を検証する。高精度の年代軸をもとに、間氷期から氷期への移行期における南極の気温と温室効果ガス、北半球の気候、南大洋の表面海水温などの変動のタイミングについて、類似性や相違性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
ドームふじ氷床コアのδ15N、δ18O、δO2/N2、δ40Ar、δAr/N2、CH4、N2O、CO2濃度のデータを取得するために必要な、液体窒素や混合ガス、バルブ、継手類といった消耗品の購入、他機関での試料分析や成果発表のための旅費、論文出版費用として使用する。
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Research Products
(15 results)